木陰の中の夕暮れの先
電線上で騒ぎ立てていた椋鳥達も帰り支度を始めたらしい。先ほどまでのような大集団はもう見られず、ぽつりぽつりと小さな集団が見られるだけだ。
私は夜に抗う最後の輝きを見せる夕焼け空を眺めていた。街路樹の影は細く薄く展ばされたかのように広がっている。私は刺さるような夕日に目を細め、木陰へ逃れた。東の空には夜が現れ、昼間の名残を侵食していく。椋鳥の集団が西の空へと飛んでいく。あのままひたすらに夕焼けに向かい飛んでいけば夜から逃れることができるだろうか。あの夕暮れの先に行くことができるなら。
きっと夕暮れの先には夕暮れの街があるのだ。そこには昼も夜もなく、街全体をやさしい夕暮れが覆っている。本来であれば夕暮れは美しいものの、夜を知らせる危険信号だ。だからこそ我々は夕暮れの中に孤独感、焦燥感、寂寥感を感じる。だが夕暮れの街には夜が来ないからそれはただ美しいだけだ。街行く人々は、瞳を夕日に輝かせながら慎ましやかに穏やかに微笑みあう。
だけど私は夕暮れを超えられない。あの椋鳥のようには羽ばたけない。だから夕焼け広がる街角で木陰に佇むより他にない。この長い木陰は夕日が生み出したものだから。いつかこの長い木陰をたどって行けば夕暮れの先に行けるかもしれないから。
空には星が瞬き始め夜が迫った。今日もわずかな夕暮れの時間が終わりを迎え、西の果ての夕暮れの街は幻となって消えていく。