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ハッピーエンド

「結局のところどうなったんだい?」

 僕に対し、主治医はそう言った。

 主治医と言っても、僕の主治医ではなく、僕の親友──幼井信児の妹ちゃんの主治医だ。

 もっとも、彼は『元』主治医なんだけどね。

 昼下がり、僕と信児、御用達のカフェで悠々と紅茶を飲む主治医。

 なかなかに様になっている。

「何がですか?」

「君はちゃんと敬語を使ってくれるんだね。──信児くんのことだよ」

 そうだろうとは思っていた。

 僕と主治医の関係性と言えば、あの二人以外にはないからね。

 それにしても、わざわざ呼び出しったってことは、信児は何も説明していないようだね。この際、文句をしっかりと言っておくべきか……。

「幸せに暮らしてますよ。二人とも」

 僕はあっさり、答える。

「二人とも……か。あの三つの願い、恋さんのために使ったんだっけ?」

 首肯する。

「信児くんらしいね」

「ですね」

 主治医と僕は、意外なところで意気投合をする。信児への理解力が高い証拠だ。

「まあ、最後の願いに関して言えば、妹ちゃんためというよりか、完全に自分のためでしたけどね」

 僕は自分が苦笑しているのがわかる。

「それには少し同意だね」

 主治医は肩をすくめ、そして、何かを思い出したように続ける。

「ああ、そう言えば、まだ、回収されていない伏線が一つあっただろう? 寿命の他に見えていた、『3』という数字だよ」

 あの数字の意味がまだ明かされていなかっただろう?

 そう言いながら、主治医は紅茶のカップを置いた。

 どうやら、もう空らしい。

 主治医の動作からして、店員を呼ぶ気はないようだ。

「ああ、それはですね」

 隠す気はまったくないことなので、普通に答える。

「悪魔に願える『回数』のことらしいです」

 さすが鋭い主治医のことで、

「その口ぶりからすると、悪魔に直接聞いたのかい?」

 今までの確信を持った言い方とはまったく違った台詞回しを見せる僕から、素晴らしい考察をする。

 その通りである。

「はい。証拠がもうないので、確かめようがありません」

 もうすでに、信児の『眼』はなくなってしまった。

 別にそれは、悲しいことでもない。

 信児は、それを対価に願いを叶えたのだから。

「私としては、あの二人が幸せなら、文句はないさ」

「ですね」

 そう、僕も頷く。

「でも、今のあいつらには、ちょっとばかし殺意を覚えてしまいますよ」

「そ、そうか」

 僕の言葉に何かを感じ取ったのか、主治医は少し、戸惑ったようだった。

「私は退院日から会っていないからね。──今日は、呼んでいるんだろう?」

 主治医が壁にかかっている時計を見ながらそう言った。

 僕もついでに見る。

「もう、そろそろですよ」

「……本当にそろそろだね」

 主治医が呆れたような声を発した。

 その言葉に僕は心のなかでうんうんと頷く。

「あと、三十秒だ」

 そう言っている間にも、刻一刻と約束の時間に近づいている。

 十秒を切った。

 そのとき、そのタイミングを見計らったように店内に入ってくる、一組のカップルがいた。

 男と女は腕を組ながら、こちらの席に向かってくる。

 こちらが砂糖を吐きそうなほどに、幸せオーラを纏っている二人。

 よく見ると、女の左手薬指には銀色に光輝く、指輪が嵌まっていた。

「ああ、確かにこれは殺意を覚えるね」

 思わず、呟いてしまったのだろう主治医に、僕は今度、信児とはまったく関係なく、ゆっくり話してみようと心のなかで小さく誓うのだった。




 恋の数字が『0』になる時間まで時を戻してくれ。

 恋の病気を治してくれ。

 妹と結婚させてくれ。

読んで頂きありがとうございました。

評価等よろしくお願いします。


この話で前日談編終了です。

今日の二十三時には真相編が始まります。

編とは言いましても最終回です。

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