天使の容姿
恋の髪は世界一美しい。
黒髪ボブである。単に普通の生活をしているだけのはずなのに、その髪には艶がある。不思議だ……。この世界おける最高難易度の謎だ。誰にも解けないであろう謎だ。
恋にひとたび近づけば、甘い香りに鼻孔が刺激され、脳が溶かされるような感覚を覚える。俺にとってそれは麻薬と同じ意味を持つ。
昨日はローズのシャンプーを使ったのか、ローズの香りが微かに残っている。すばらしい。
その触感も特筆すべき点と言える。
食感もすばらしいのだが、やはり恋の髪で一番のお気に入りは、そのさわり心地だと俺は思う。
撫でてしまえば気づいたときには二、三時間経っているというなかなかに恐ろしい状況に陥ってしまうのだ。
本当に驚愕してしまう、その可愛さに。……しれっと倒置法を使ってしまったが、そこまで変わらなかったな。だって、普通の状態でもその可愛さに驚愕することには変わりないのだから。
まだまだ恋の髪について説明したいのだが、さすがに髪の描写だけで一万字も使うわけにはいかないので、次の描写に移ろうと思う。
と言っても紹介すべき部分が多すぎて、悩みどころである。
うーん。
そうだ! 瞳について語ろう。
なんということもない。理由は単に思いついたからである。
──黒い、ただ黒い。
恋の瞳を見た者が口を揃えて言う言葉である。しかし、俺から言わせてもらえば、恋の瞳は黒いだけじゃあない。
端的に言って、美しいのだ。
…………端的すぎた。というわけで修飾だ。
黒には何もかもを吸い込むというイメージがある。その瞳に、少なくとも俺は、吸い込まれそうな美しさを感じざるを得ない。
普通ならば、兄妹は似通った眼になるという。だが、俺たち兄妹は、瞳の色が若干違う。恋は父親の完全な黒で、俺に至っては父親の黒に母親の茶を混ぜたような、学校で昔習ったような単語で言わせれば──焦茶ということになる。これも似通ったと言えるのだろうか?
まあ、そのことに文句を言ったことも、考えたこともない。
おっと、そろそろ別の描写に移ろう時間だ。次は気分的に、唇と行こう。
なんか変態的になってしまっている気がする。
まあいい。
その唇は何もつけてはいないにも関わらず、瑞々しさと、赤みがある。
以前、恋が寝ているときにその唇に触ってみたが、その感触はこの世のものとは思えなかった。この感触については如実に描写することができない。というか、したくない。
恋の唇に触れていいのは俺だけである。
髪や瞳についてさんざん説明、描写しておいて、唇の描写だけを省くというは自分勝手であるということを十分に、十全に理解できている。だがしかし、先述したように、恋の唇は俺だけのものなのだ。
さて、次だ。
うん? 飽きるな。勝手に飽きるな。これからは早いぞ。……たぶんな。
ところで、黒髪黒眼という典型的な日本人の要素を持ち合わせている恋だが、残念、言ってもいいのかわからないのだけれど、少なくとも、一要素だけは生きているということを感じさせなかった。……有り体に言えば、生きていない。──それはつまり、人形のようであった、ということになる
日本人形。
古来より作られれきたものであるのだが、しかし俺は詳細について何も知らない。何も知ろうとしなかったのだから、それは当たり前、至極当然のことなのだ。
その要素とはすなわち、肌である。
日本人は黄色人種である(だったはずだ。少なくとも俺は昔そう聞いた。まあ、ことの真偽は賢き者に任せよう。賢者とは言っていない。賢き者だ)が、恋の肌は驚くほど白い。先ほどから、黒いだの白いだの色だけしか紹介していない気もするが、今はこれで突き進もう。
白魚のようなというレベルではない。生命を感じさせないのだ。いくら寿命が短くてもここまでの白さは出ない。
生きていない、とは言ったものの、それは決して侮辱しているわけではない。というか、俺が恋を貶すなんてありえない。そんなことを間違ってもしてしまった日には、恋のために死のう。恋の心を回復するために、恋をこれ以上傷つけないように。……いや、どっちにしろ自分のためだな。
それに──、
俺が死んだらあいつは一人になってしまう。
俺にとってそれは最も忌避すべきことなのだ。
話を戻そう。
どこまで話したんだったか?
その白さがまるで生きていないようだ。って、ところだった気がする。
白さ。
ああ、白さで思い出した。
以前、恋が白髪……というか銀だったな。とりあえず、その系統色のカツラを被ったことがあった。
無論、可愛すぎて写真を百枚くらい撮ったのだが、それ以上に気になったことがある。
目の錯覚だったかもしれない。
でも、確かに見えたのだ。
天使の翼が。
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