ゆりかご
今、私は空を眺めている。
手を伸ばしても、空にこの手は届かない。
しかし、ふとした瞬間、手が届きそうな気がしてしまうのだ。
今はまだ虚ろだ。
私たちはきっと地底人で、いつか地上の人達がこの伽藍堂を揺り籠と定義して、母なる手を差し伸べた時、刹那のうちに一人立ち出来るようになるだろう。
しかし、その千秋に焦れた1人の大人/赤ん坊は言った。
「空にミサイルを撃ち込んでみよう」
と。
それから幾星霜、その者に同調した大人/赤ん坊はミサイルの開発に着手した。
明くる日も、明くる日も、とにかく、ソレを壊すだけの出力を目指して、奮闘した。
そんな中、私はただ一人、そんなことは止めよう、と言った。
幼い頃、母に外は危ないからね、と耳にタコが出来るほど言われたからだ。
勿論、そんな言葉に耳を傾ける大人/赤ん坊はいなかった。
そしてある日、ついにソレは完成した。
さらに次の日の正午くらいだろうか、ソレの発射準備さえ完了し、待ち焦がれた大人/少年は、ソレの銃口を自ら揺り籠と定義したモノに向けた。
3、2、1、発射。
ソレは燃え、猛り、見事私たちの揺り籠を穿ち貫いた。
するとそこから、虚無が地上に降り注いだ。
空のムコウ、即ち皆無には、海月とも、巨人とも、巨像とも、悪魔とも言える怪物がいた。
怪物はじっとこちらを睨むように、哀れむように、ただ見つめている。
その時私は、取り返しのつかない、人類史の分岐点に差し掛かった事を認識した。
ああ、だからやめようと言ったのに。
しかし、大人/少年は諦めようとはしなかった。
予備のソレと、現代科学技術を以て新しく増産したソレで、大人/少年は勇敢に立ち向かった。
ーーー怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだーーー
長きに渡った大戦が終結した頃、大人/怪物は独り立ちを成し遂げたのであった。