89 まてオアシスっ!話せばわかる…あ、だめみたいですね…
隣町へつくと相変わらず茶色系の色が濃い町並みで、おそらくこれが煉獄界の標準なんだろうなと思える風景だった。
唯一違うのは、町のど真ん中に黒と赤を中心とした色の神社があることくらいかな。
ものすごくギラを連想させる感じだ。
「で、門前払いと…」
「ムカァッ。このワタシが紹介したのに門前払いとはね、少しお仕置きが必要なようだ…」
やめるんだ、あんたがあばれたらギラほどじゃないにしろ大変なことになる。
だがまあ神主さんの言いたいことはわからなくもないけどね。
煉獄界でのキャシーがどのくらい有名なのかは知らないけど、幼女が少年を紹介してきて「こいつ伝説の装備使えるよ」っていっても誰も信じないと思う…ていうか俺も信じない。
「仕方ない、俺が直接話してみるか…」
たぶん俺のグローブと覇者シリーズにもなんらかの関係性があると思うし、もしかしたら何か伝わるかもしれない。
…まあここでまたダメでも、最悪のケースとしてギラをつれて来たら解決するし時間の問題なんだけどね。
キャシーがさきほど抗議してた神主さんに、個人的にもう一度会いに行ってみた。
「すみません、もう一度お話しできませんか?」
「何度来てもダメなものはダメだ、覇者の装備をまとうことが出来る者などおらん。それこそ闇竜様と友好を結べるほどの者でなけれ…ば…ンンンン!?」
ど、どうした!?
神主が俺を視認するやいなや、目を見開いて凝視してきた…一体なんだというんだ。
「そなた…っ! 闇竜様と契約を交わした者か!? おお…感じるぞっ、…体に染み付いた闇竜様のお力を…皆の者、祝いの準備だ!いまここに漆黒の英雄殿が現れたっ!!」
「どゆことなの…」
なんかギラの力が染みついていたらしい…そもそも染み付くというのがわからない…謎だ。
「にゃはは。納得がいかない」
あ、うん、俺もわからん。
でも真顔で笑うのはやめて…怖すぎる。
しばらくすると神社から神主さんとその他大勢の関係者がわらわらと出てきて俺に説明を始めた。
「英雄殿、急に驚かせてしまい申し訳ない。代々神主は覇者装備を管理する必須の能力として、持ち主の魔力量、そして闇竜の王であらせられるギラ様のお力を、わずかながらに感じることができるのです。なぜか英雄殿の魔力量は直接感じ取ることができないのですが、感じられるプレッシャーの濃さと闇竜様と接触したであろう魔力の残滓が感じ取れるのです」
ああ、そういうことね。
ようするに俺がギラの背中でずっと遊んでたから、ギラの膨大な魔力の一部が俺にまとわり付いていたんだろう。
本来ならそんなもの感じ取れるはずないんだけど、この神社で闇竜の王を祭る上での必須能力として特殊なスキルを習得しているのかもしれない。
ギラやルクァンは女神の手足みたいなもんだし、こういう特殊スキルをもった神主さんがいてもおかしくはないな。
「で、覇者シリーズへの挑戦は認めてくれるの?」
「もちろんですよ英雄殿。しかしただで認めるというわけにも行きますまい…それでは他の者に示しがつきませんのでな。敵わぬとは分かっていますが、一度だけこの神社の猛者と対決してはくれませんかな?なに、決闘などのような命をかけた戦いではありませんよ」
まあそういうことなら仕方がない、神主さんのスキルを全員が知ってるわけじゃないしね。
ここであなたは見込みがあるから試験は合格です、なんてことになったら他の皆が納得しないだろうしね。
試験の許可を出すのが精一杯なんだろう。
「よしっスラキューやるぞ」
「キュゥッ」
お互いやる気は十分だ。
「では対戦相手の者を、セレナっ! この者の相手を勤めなさい」
「……はい」
中から女の子が出てきた。
って女の子なの!?
わらわら出てきた管理者がおっさんばかりだったし、てっきり出てくるのはゴリマッチョのおっさんかと思ったんだけど…
女の子は落ち着いた茶色い髪に、赤と黒の着物みたいな装備をつけた俺と同い年くらいの子だ。
まじで言ってんのかこのおっさん…
鑑定は着物の装備に弾かれているが、感じる魔力はそこまででもない…それに武器をもっているわけでもなさそうだ。
「……このワタシが紹介をした上に姉貴の弟子なんだ、負けたら承知しないよ」
「わかってるよ」
とりあえず戦ってみればわかるかな。
向こうの女の子も構えを取った、お互い準備ができたようだな。
「双方準備が出来たようだな、それでは…覇者の試練を開始する。試合、開始!」
はじまった。
…まあまずは強化からだ、相手の戦術が分からない以上は基本だ。
…すると、俺が身体強化・サンダーアクセル・ウィンドアクセルを超速度でかけ終わるのと同時くらいに、向こうの女の子が謎のスキルを使いだした。
「セーフティデバイス…リリース……サモン【ブラックドラゴン】」
謎の詠唱が終わると同時に空間が光だし、数段階小さくなった黒竜が姿を現した。
ってあれ小型のギラじゃん!ギラそのものではないけど眷属かなにかっぽい感じがする…何者なんだこの子は…
……だけどまぁ、俺の敵じゃないけどね…
「じゃあさっそく使わせて貰うぜ…【希望の流星群】【オーバードライブ】っ!!」
さっそく希望の流星群を使わせてもらった、オーバードライブとの併用だが回復速度と2万超えの魔力残量を考慮すればしばらくは戦闘できるレベルだ。
…ちなみに展開した結界は「俺陣営の攻撃力増幅(効果極大)・催眠と幻術効果無効(小)」だ。
ギラはかなり素早かったけど、オーバードライブを使用した俺に対して劣化ギラが相手じゃ攻撃をかわしてくることは想定に入れなくていい…ならめちゃくちゃ攻撃力をあげて削りきればいいって考えだな。
ワイルドセンスと魔力眼の警戒網を掻い潜るとは思えないけど、もしかしたら相手がそういうスキルの達人かもしれないってのも捨てきれないので、無効系を保険として追加した。
魔力消費がすさまじいので、切り札である魔神が意味を無くす前になんとか決着をつけたい…
1万以上の魔力が残ってれば魔神モードで倒せない敵はほぼいないだろう、物理だけならね。
「じゃあ一発目いくぜっ!<流星拳>!!」
いつも通り名前は適当だ。
「グルゥオオオオッ……!!」
「……ッ! 黒竜が力負けした…? そんな、ありえない…」
驚いてるようだが、次が本当の攻撃だ。
「畳みかけさせてもらうぜ…?スライム剣術<スラキュースラッシュ>!!」
俺がソードモードのスラキューを持って切りつけると、スラキューの刀身部分が超振動しだした。
通常なら弾かれてしまうだろうが、超振動した刃は黒龍の固い鱗を電動のこぎりのように削り取っていき一瞬で翼を切り落とした。
…そして翼を落とされた黒龍は闇の粒子となって消えていき、姿を消した。
召喚魔法かと思ったけど、スキルで作り出した疑似生命体のようだな。
「さあ、どうする? …まだ続けるか?」
「……強すぎる。これはもう私の負け…」
まあ相手の魔力もあまり残って無さそうだからね、これ以上は続けられないでしょ。
俺ももうオーバードライブと結界は切ってるし。
「そこまでっ! …勝者、漆黒の英雄!」
決着がついた。
「にゃははははっ!やるじゃんガキんちょ!お子様だと思ってたけどやっぱり姉貴の弟子だね!にゃはははははっ」
キャシーがご機嫌なようでよかったわ、ある意味このドヤ顔を見ると安心する。
「いやはや…さすがですな英雄殿。…セレナは覇者シリーズでも最も扱いやすい装備を唯一使える凄腕だったのですが…やはり敵いませんでしたか」
「え、あの子のスキルって覇者シリーズの効果だったん…」
そりゃ鑑定弾かれるわけだわ。
その後話を聞くと、現在集まっている覇者シリーズはマント・着物・剣・盾だけのようで、他の覇者シリーズはまだどこかに散らばっているとのことだった。
俺は剣と盾は使わないのでどうしようかと思ったが、使わない装備をもらってもしょうがないのでマントだけ頂いていくことにした。
神主のおっさんは全部使うべきだと勧めてきたが、さすがに使わないのをもらうのは後味が悪い…なので断った。
ちなみにマントは青い幾何学模様が描かれた漆黒のマントだ、あとで鑑定してみよう。
「それじゃあとりあえず煉獄界での調査は終わったなぁ、宿に帰るか」
「にゃははははははっ! また今度来るときは姉貴を連れておいでっ!じゃないと今度はワタシの弟子にしちまうよ?」
まあ対時空魔法は習得したいし、ありっちゃありだな。
…ルーシーに殺されそうだからやめとくけど。
「それじゃあ神主さんありがとうございました、またなんか用事があったら来ますね」
「英雄殿ならいつでも歓迎ですよ」
よし、それじゃ転移するか…
と、思った瞬間着物姿の少女が俺の腕をつかんできた。
「…ん。ちょっとまって」
いや、もう発動しちゃった…
……宿に帰ってきた。
「…ゼノンくん、その女はだれ?またあたらしイオンナノコヲツクッテキタノ?」
オアシスが修羅と化した。
小型ギラの大きさは本体の数分の1くらいです。
実力もかなり下がってます。




