80 ルーシーが本気出しすぎた…
翌日ファイスがフル装備の状態で宿にやってきた。
手には杖と槍が一体になった魔槍のようなものが握られている。
「おい、来たぞ」
「よし、それじゃ空島に行こうか」
みんなには既にメンバーが増えることは話している、前日のうちに食糧は買いこんで俺の時空魔法<収納>にしまっておいた。
今回の杭でルーシーの部屋に行ったときに俺の魔力が入った容器は置いていくつもりなので、杭そのものはエレンに預けておいてる。
俺が持っててもしょうがないしな。
それからファイスを連れて宿の庭まで行くと怪訝な顔をされた…まあ説明してないからそうなるよね。
「一応ファイスはもっとこっちに集まってくれ、転移するときに洩れるかもしれないし」
「……は? 転移だ?」
ファイスが近づいたところを見計らって魔力を流した。
空間が一瞬で変わる。
「……な!? なんだここは! いきなり場所が変わったぞっ、幻影魔法か!?」
「まあ最初はそうなるよね~っ」
「あはは、僕も初めての時は驚いたさ」
驚きすぎて物凄い勢いで首を振っている、挙動不審っぽい。
「時空魔法が宿った魔道具で転移したんだよ。あとルーシーに頼みたいんだけど、ここに魔力容器おいていっていいか?俺も転移できるようになったから杭はエレンに預けたんだ」
「また小童が増えとるのぉ~、迷宮のメンバーかなんかかじゃろうが、その小童では1層のモンスター部屋も危ういんじゃないかの?容器に関しては適当においておけばいいじゃろ、この部屋は無駄に広いからの」
「時空魔法とか転移ってなんだ!? 幻影魔法じゃないのか、というか迷宮の1層で負けるわけないだろ、舐めんな」
いや、ここの迷宮って1層からC級中位~上位なんだが。
しかも集団確定。
ファイスがまだ若干混乱しているようだがだんだん落ち着いてきた、そろそろ出発してもいいかな。
「まあ行けばわかる、今日はルーシーは来るの?」
「行くに決まっておろう。まだ自慢が終わっとらん」
行くらしい。
ちょうどファイスを含めて6人パーティになったな、ルーシーはクリスタル迷宮にしかついてこないからこの時しかいないけど。
そのあと泉に出たり島が浮いてたり時差があったりとでファイスの頭が爆発しそうだったが、そのおかげでやる気も出たみたいだ。
「まさか世界にこんなところがあるなんてな、これは千載一遇のチャンスだぜ。ここで鍛え抜けば俺は伸びる、間違いなく」
「ボクもここの敵なら訓練になるし同意見かな、少なくとも1層であれならこれから先もっと上を目指せるよ」
「まあ敵も1層からしてC級上位あたりが出るから、頭打ちまではかなりレベルが上がるんじゃないか? スキルは自分の訓練次第だがな。サボってたんだから頑張れ」
ファイスがある程度レベルアップしてからじゃないと2層はいけないし、今回階段が出ても容器を置いてすぐ1層に戻った方が良いな。
そして迷宮へたどり着くと前回通りの手順で扉を開けて地下通路のところまでやってきた。
「さて、今回はどの魔力反応に向かうか。この人数で負けることはなさそうだし一番反応が強いとこいってみようかな」
あのセンサー魔道具の反応が大きいからと言って、モンスター部屋が強い保証などどこにもないんだけどね。
それでも気分的にそう思えてしまうから不思議だ。
今回はヴァニエが地図のマッピングを担当しているのでとりあえず1層のマップを埋め尽くすのを目標に頑張る。
わたあめ羊の反応は前回と同じところにあるので、大幅に移動したりとかそういうのはなさそうだ。
全モンスター部屋をコンプリートしたいのは興味本位もあるけど、それ以外にもメダルの件が大きい。
地図はランダムで同じのが出るのかもしれないが、メダルに関してはわたあめ羊から羊の金メダルがでたことを考えても同じ類のメダルが出ると予想がつく。
そして石像の前までやってきた。
「…今度は虎か、羊の石像よりでかいようだし魔力もでかい、強そうな予感はする」
「まあCもBもぶっちゃけ同じじゃがの、瞬殺してくれるわい」
ルーシーがめっちゃやる気をだしてる、頼むからフレンドリーファイアだけはやめてくれよ。
テンションが暴走して、大魔法のとばっちりとか来そうで怖い。
そして虎に魔力を流すと前回通りにモンスター部屋が現れた、今度はサバンナ地帯のような場所か。
あ、まずい。
ルーシーが既に詠唱を始めてる、これ先制攻撃で殲滅する気だわ…
「みんな伏せろっ!!」
「「「……えっ?」」」
「前回の鬱憤を晴らしてくれるわい!時空魔法【空間爆裂】っ!!」
…ギュルオォオォン!!
………
……
…
……ズガンッ!!!
うわっ!空間がぐちゃぐちゃに捻じれたと思ったらすごい勢いでもとに戻って破裂したッ!!
ていうか衝撃波やばい、これ立ってたら後ろに吹っ飛んでたぞ…
「虎のいた場所がめちゃくちゃになってるよ、怖すぎるだろこの幼女」
「カカカカカッ! どうじゃ儂の時空魔法はっ、いまのは奥義のひとつじゃな」
あれ奥義だったのか。
てかそんなヤバイ技行き成り使うなよ!
まあ満足したっぽいので次は使わないと思う、たぶん。
「モンスターの魔石まで粉々になっちゃったね、宝箱みたいなのがあるのが救いだけど…」
まじか、それはよかった。
メダルは回収しておきたいからな。
「……幼女こえぇ、こえぇぇ」
「おちつきなさいファイス、私たちと行動を共にするならこの程度で怯えていてはどうにもなりませんわよ?唐突に白竜の王種と戦うことだってあるんですもの」
「いや、でもあれはびっくりすると思うよ、ははは…」
あ、うん。
俺もちょっとチビった…
「まあ自慢もできたしあとは適度にやるから気にせんでええぞ、どうせモンスター部屋は多く存在するしの。次の日には復活もしておる」
確かにメダルを紛失してもまた出せばいいだけなんだけどな。
ルーシーが加減を間違えることはあり得ないので大丈夫だと思うが、それでも怖いものは怖い。
ちなみに出現したのは銀色の宝箱だ、やはり出現する色でランク分けされているのだろう。
…そして宝箱まで近づいていった。
虎の本来の力はC級上位からB級下位でした…
ですが出番はありません。




