08 馬車の中に曲者が……っ! と思ったら幼女だった。
──馬車で揺られること30分弱、すでにおれのお尻は限界を迎えていた。
3歳児にこれはキツイ、あと慣れてないのがデカイな。
まあそれはともかく、ここでちょっと王都の騎士団と領内の騎士団の説明をしておこうと思う。
基本的に軍事権はクロスハート家が握っており、騎士団長であるパパンも領内で騎士団をまとめている。
王都は王都で、じいちゃんが率いる騎士団となっているようだ。
王都よりもウチの騎士団の方が規模が大きいが、逆いってウチには騎士団しかないわけで……。
王都には騎士・兵・宮廷魔導士など他にもさまざまなカードが揃っているため、もしウチが単体で謀反を起こしても王都は落とせないようになっている。
まあそもそも、クロスハート家と王家は仲が良いらしいからそんなことにはならないんだけどね。
領内も往復で1週間がかからない距離というくらいに近い。
なんでこんな話をしたかというと、教会の件だ。
ウチが騎士団の主要部分を抑えるだけでなく、教会の最強戦力である勇者というカードまで手に入れてしまったらどうなるだろうか。
たとえ王家とクロスハートが仲が良くとも、その取り巻きは黙っていまい。
その危険性が無視できないレベルのため、俺がこうして王都の大教会まで出向きなんやかんやするハメになった、ということだな。
俺のお尻が限界を迎えるまで、そんな話をパパンが俺に語っていた。
3歳児に語る内容ではないと思うが、前世の記憶を持つ俺はパパンやママンから見ても「こいつわかるんじゃね」と思わせるなにかがあるらしく、時折大人の会話を混ぜてきたりする。
まあ、子ども扱いされっぱなしよりメリットはあるよね、いいと思う。
と、30分ほどゆっさゆっさ馬車で揺られていると、領内の生産地区に差し掛かっていた。
ここまでくると、だいたい畑しか広がっておらず見る物は特にない。
いや、自然は豊かでいいんだけどね。
しかし、そんな何もないところだからこそ、違和感があればすぐに気づく。
ちょっと外を見てみれば、俺は思わず馬車を止めさせていた。
「父さん、ちょっと馬車を止めさせてくれない? なんか違和感があるんだけど」
まあ違和感というか、馬車に乗り始めてからずっと気になってたんだけどね……。
馬車の後方、荷台のほうになんか混ざってるだろっ!?
隠れているつもりなのか知らないけど、魔力感知にバリバリ引っかかっている。
「うむ、違和感か……。アレはゼノンが連れて来た子じゃないのか?」
「そんなわけ無いよ父さん」
とりあえず隠れている何かに聞けば、いろいろ事情が分かるだろう。
って言ってもなんて声かければいいんだ?
なんか荷物と一緒に紛れ込んでいるのがバレバレだし、逆に声を掛けづらい……。
ええい、ここは勢いだっ!
と言う事で、とりあえず荷台に隠れている謎の子供に声をかけてみる事にした。
「ねぇ君、そこで何やってるの? この馬車は一応公爵家の物なんだけど」
「へにゃっ!?」
……へにゃってなんだ!?
俺と同年齢くらいの女の子が「まさか見つかったっ!?」みたいな顔でこちらを凝視してきた。
もしかして完全に隠れているつもりだったのだろうか、それは悪い事をした…
ちなみに髪は銀髪のショートで、耳がとがっている事からエルフかハーフエルフと予想される。
生まれて3年、ようやくファンタジーな人物と出会えたわけだが、出会い方のせいで感動があまりない。
「あ~、うん。すごい偽装だったよ! 偶然見つけるまで全然わからなかったかな~」
「ゼノン、お前……」
察してくれパパン、俺にはこうするしかなかったんや。
だれか子供の心を傷つけずに済む方法を教えてくれ。
「えへへ……、やっぱり見つかっちゃった。それにゼノンくんっていうんだね」
なんか見つかる前提で隠れていたっぽい、よく分からない子だな。
それになぜか頬を染めてモジモジしはじめたし、何を期待しているっていうんだ……。
あっ、今チラッとこっち見た。
俺にどうしろというんだ。
すると痺れを切らしたのか、向こうから話しかけてきた。
「むぅ、ボクの偽装を見破るなんて凄い事だよ? これはきっと運命の出会いなんだよ?」
「えっ!? ……あ、そういう設定か!」
いつの間にか運命の出会いをしていた事になった。
なるほど、これはこの子のお姫様ごっこだったに違いない。
……それにしても公爵家の馬車に忍び込むなんてよくやるな、今から連れて帰らないと親が心配してそうだ。
「いや~、お姫様を見つけるのは苦労したよ。アハハハ! ところで、君のお家はどこにあるの?」
「あぅ……、お姫様になっちゃった。それと、ボクの家はかなり最初の方だと思うよ?」
まあ知ってたけど、やはり近所の子が乗り込んでいたらしい。
お姫様ごっこのためにここまでするとは、なんてアクティブな子なんだ……。
「父さん、一旦戻る?」
「ふむ、まあ幸い時間もそんなに経っていないし、どうという事もないだろう。まさか3歳の息子にガールフレンドができるとは思わなかったがな。こういった友達との出会いは大切にしなさい」
パパンがしみじみと空を見上げた。
公爵家とはいえ常に領民の味方であるパパンからすれば、俺に貴族社会とは関係のない出会いができたのが嬉しくもあるんだろう。
たぶんね。
「じゃあとりあえず一旦戻る事になったけど、それでいいかな?」
「ゼノンくん、えへへ。え、戻るの……?」
そして満面の笑みで俺の腕にしがみつくさっきの女の子。
だが、本当に友達で済むのか怪しくなってきた。
なぜか戻ると聞いたときに若干目からハイライトが消えたが、気のせいだろう……。
そうだ、きっと気のせいだ!
そうに違いない。
カワイイから許す、今日からこの子は俺のオアシスや!
とりあえずその後は一旦屋敷までUターンすることになった。