69 激戦試合
「準備の方は大丈夫なようじゃな…それでは始めるとしよう。……合図を頼むぞい」
校長が確認を取ると審判の教師に指示を出した。
相手の方は魔法特化だろう校長・魔法槍のような装備をもった女性教師・おそらく魔道具と思われる指輪や首飾りなどのアクセサリーを大量につけた男性教師の3名だ。
鑑定の結果では女性教師が物理・魔法のバランス型、男性教師が校長と同じく魔法特化と思われる戦闘スタイルだが…校長の方はスキルが鑑定しきれない。
レベルは86とかなり高めではあるものの鑑定可能だったが、おそらく隠ぺいなんかのスキルを所持しているのだろう、スキルに集中的に効果を発動させているようだ。
もし戦闘するならエレンとフィッテでは校長の相手は務まらない、最初は互角以上に戦えたとしても大精霊やシャイニングロードは燃費が悪すぎてすぐに息切れしてしまうだろう。
残りの教師陣のほうをタッグで相手してもらうとして、俺が校長と1対1で戦うのがよさそうだな。
……まあ現時点での推察では、だけどね。
「それでは、編入試験特別コース…開始っ」
始まった。
とりあえず最大出力の【身体強化】をかける。
エレンとフィッテもそれぞれ【光騎士・ブレイブ】と【ウィンドアクセル】を使用しはじめた。
……エレンの聖剣解放はまだとっておくようだ…あれはスピードやパワーが極端に変わるので相手のタイミングをずらすのに効果的だからな、ここぞというときに解放して畳みかける方針なのだろう。
「校長の相手は任せろっ」
「了解さ」
「うんっ!」
俺が猛スピードで校長に接近した。
魔法型相手にここで様子をみても有利にはならない、まずは魔法詠唱のタイミングをできる限り削るっ!
「ほぅ? 3人ともその歳にしては尋常ではないスピードじゃな。特にエレンくんとゼノンくんの強化魔法などわしと同じレベルの領域じゃ」
「そりゃどうも、だがそんな悠長に構えてていいのかなっ」
校長にある程度接近した瞬間、その他属性の速度強化魔法である【サンダーアクセル】【ウィンドアクセル】っぽい魔法でさらに加速した。
っぽいっていうのはフィッテの魔法を真似たり、それと同じ構造で雷属性の強化をかけたからにすぎないからだ。
……効果は同じなので問題はないけどね。
「ぬぉっ!?【アークストーンシールド】っ!!」
校長がいきなり加速した俺に対して驚愕を顕わにした、どうやら時間稼ぎの石の壁を召喚したようだな。
スラキューが出場可能なら壁を槍のドリルで貫通させてもよかったんだけど、今回はベンチでお留守番なのでそうもいかない。
それができれば不意打ちになったんだけどね……
仕方がないので飛び越えようと思う。
「壁じゃあ足止めにすらならない、そらよっと!」
飛行魔法で飛び越え申した。
「なんとっ!!」
「もう詠唱する余裕はないぞっ!一発目いくぜ、【メテオストライク】」
おなじみの適当詠唱で炎+土属性の隕石を上空から落した。
もちろん実際に隕石を召喚したわけじゃない、そういう素材を空中に作り上げて猛スピードで落下させるだけだ。
……だとしても大爆発する大砲だと考えれば威力は尋常ではないが。
「ぬぉおおおお!!」
校長が純粋な魔力で魔法耐性系のシールドを張った。
……そんなんじゃ耐えられないとおもうぞ。
……ドゴォンッ
見事に隕石が直撃した。
煙でよく見えないが、校長の周囲の地面が浅く陥没している。
「さすがにこれは効いただろ、あのシールドで防げる威力じゃない」
「……と、思うじゃろ?」
「……っ!?」
気が付くと校長が空中で浮いてる俺の真横にジャンプしてきていた。
何だこの爺さん、身体強化つかってたとしてもありえない脚力じゃないかっ…っていまはそれどころじゃない。
恐らくあれは光の幻影魔法の類だ、それなりの魔力を地面に残して囮にされてたから気づくのが遅れたっ。
「ほっほっほ、年期が違うのじゃよ。防げるかはわからぬが死にはしないじゃろ、お返しじゃ…【エレメンタルクロス】」
杖の先から火・風・水・土・雷の属性をもった魔力の十字架が俺に殺到した。
「くそっ、【オーバードライブ】っ」
一応オーバードライブを使って耐久や速度をあげたが、至近距離からの攻撃魔法をよけられるほどの飛行速度はだせない。
【魔法反射】もギラ並みの飛行速度で回避できないならもっと間に合わない。
ならばあえて十字架につっこんで校長に一撃を与えるまでだ。
「ぐぅううおおおっ!」
…やっぱり5属性魔法だけあって物凄い威力だな、この魔法数発でやられるほどやわじゃないがかなりのダメージだ。
だが、これで校長の方は隙だらけのガラ空きだ。
大技っていうのは相手を仕留められなきゃ悪手になりかねない、まあ普通の生徒相手ならこの威力で一撃だとは思うが。
「なんじゃとっ、とんでもない小僧じゃのっグホォッ…」
俺の空中ロケットパンチが校長の鳩尾に突き刺さった。
魔神モードを使わない条件下での最大出力、オーバードライブの直撃だ…
魔法特化で防御が薄いタイプには効くだろ。
「次いくぜっ…大魔法【サイコブラスト】」
火魔法と風魔法による大爆発を圧力魔法のサイコキネシスでコントロールし、相手の方向に集中させた大技だ。
魔法耐性が高めでA級上位に食い込んだレベルの校長なら耐えきられる可能性もあるが…それでも大ダメージは確実だ。
…当たればね。
「ぬぅううううううっ!」
校長が魔法の威力に負けて地面に叩きつけられた。
「ぐぬぅ……、とんでもない生徒が来たもんじゃの」
かなりダメージはあるようだが起き上がった。
さすがに90レベル間近に2発で決着は無理があるか。
「ふむ、これ以上やれば試験の領域を超えるな…、お主は合格でよいじゃろ。…それになぜか先ほどの傷も回復しておるようだしわしの負けじゃろうな。余った時間は仲間の見学をしていなさい」
校長から合格が出た。
まあ俺にはユニークスキルで傷がどんどんふさがる効果があるから、さっきくらいのダメージじゃ削りきれないのは仕方ない。
校長も既に休憩に入って審判に事情を伝えている、しゃべりながら回復魔法をかけているあたり流石達人だな…無詠唱でもないのに。
さて、残りの二人をみてみますかね。
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この女性教師の人…僕のブレイブモードをギリギリで受けきっているなんてすごいや。
この状態ならB級上位からA級下位の力はあると思うんだけどね…。
だけど、これでギリギリということはその先はないという事さ。
「【聖剣解放】っ!」
「えっ!? ……っちょ、なんなのこの子強すぎるっ」
シャイニングロードは魔力の消耗が激しいけど、強化魔法繋がりである聖剣解放なら魔力の消費はないんだ。
いっきに畳みかけるっ!
「僕にも目標があるんだ、こんなとこで負けてられないのさっ!」
「ぐっ……」
タイミングが変わった僕のスピードにバランスを崩された女性教師の人はだんだんと受けきれなくなっていき、やがて剣が鎧に直撃した。
「ガハッ……」
ブレイブソード一発じゃ砕けない鎧か、いい鎧使ってるね。
だけど次で終わりだ。
「これが今の僕の本気さ【シャイニングロード】っ!」
僕が放った光の剣が教師の人の周りに次々と突き刺さった。
一応負けを認めない時のために剣の数は抑えたけど、これはどうみても決着だ。
「はぁ…これじゃどうみても負けね…参ったわ」
……よかった、なんとかなったようだ。
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エレンが女性教師の人に完全な勝利を収めた。
ノーダメージとかやるな……
「ふむ、あの剣、どこかで見た事あるが。ただの剣じゃないのは確かじゃのぉ」
校長がブレイブソードに興味を示しているが、さすがに500年前の勇者の剣なんて知らないはずだ。
文献にあったとしても解放状態の姿の絵があるとは思えない。
文字だけじゃわかりずらいだろうし。
「まあ、こっちにもいろいろ旅があったってことですよ」
「そのようじゃの」
……さて、次はフィッテだ。
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ボクの精霊魔法を使ってもこの男の人に魔法で負けている…
恐らく相手は魔法特化のB級上位クラスの人だね、僕が体術と棍術込みで互角だからそのくらいのはずだよ。
でも、ここでシルヴを使うのはタイミングが悪いかな?
シルヴは速度と防御力、魔法耐性が凄く高い大精霊だけど攻撃に関してはあんまり得意じゃないんだ。
現状で防御にそこまで困っているわけじゃないから、召喚するコストを考えると状況がそこまでよくなるわけじゃないと思う。
なら、自分の力で決着をつけるしかないよね。
「やるな編入希望生、正直言ってここまでの力があれば合格に関しては何の問題もないだろう…だが、それも最後まで全力を出せばの話だ。ここで手を抜くようなやる気のない生徒を面倒見る気はない、少なくとも私はな」
「そんなつもり毛頭ないよ、自分で頑張らなきゃいつまでたっても子供のままなんだっ」
「……わかっているではないか」
でも打つ手がない、状況が拮抗しすぎてるよ、何か作戦を考えないと。
ゼノンくんなら…ゼノンくんならどうするだろう。
拮抗・切り札・魔法特化の相手。
そうだっ!
「試したことはないけど…賭けてみるしかないよね。【ウィンドハリケーン】!!」
ボクの放った【ウィンドミキサー】の上位魔法、ハリケーンが男性教師に襲い掛かっていく。
「血迷ったか…勝負を急ぐなど経験が浅すぎるぞ。レジストマジック【ウィンドバリア】」
魔道具を併用したレジストマジックでボクの魔法を相殺しようとしてくるけど、それが狙いだよッ!
「今だ、シルヴでてきてっ!」
その瞬間ハリケーンの中にシルヴが出現して、圧倒的な魔法耐性の力でレジストマジックをかき消した。
「なっ…んだと…ぐぅううううっ!」
「えへへ…レジストできなければこの魔法は直撃しちゃうよね?さすがに一発では倒せないかもしれないけど…シルヴがハリケーンを維持している限り魔法が止むことはないよ」
ボクの魔力が先に尽きるかどうかの我慢比べだっ!
「ぐぅうう、ま、参った。降参だ」
「えっ……」
あれ、あの人はまだまだ余裕ありそうなのに降参しちゃった。
仕方ないからシルヴを消したけどいいのかな?
「見事だ、これが本当の戦闘なら魔力が切れても戦える君に対し私の勝ち目はない。状況を的確に判断したまでだよ。これは試験でもあるし文句なしの合格だ」
……やったよ、ボクの力でやり遂げたよ。
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どうやらフィッテの試合も終わったな、俺たちのストレート勝ちだ。
さて、あとは教師たち全員での話があるだろうしここで待機してますか。
それにしてもここの教師はレベルが高いな、まあ高い人を連れてきたんだろうけどね。
校長はA級上位ですが、装備とレベルそのものはロイルの方が若干上です。




