54 攻撃するまえに終わりかけてた…
駆けだした俺はすぐに馬車を追い越し、伏兵たちを魔力眼なしでも視認できる範囲まできた。
馬車は既に遥か後方で、ある意味俺が包囲されている位置取りになるな。
まあ、実力ではその逆だが。
とりあえず俺に注目を集めさせよう。
「あー、聞こえるか隣国の騎士たち。今すぐ投降するなら縄でしばって送り返すだけにしてやる。たがそちらが攻撃の意思をみせるなら痛い目にあうぞ」
もちろん本来はこんな宣告をする必要はない、今回はただインパクトを求めただけだ。
隙だらけの相手に一方的に負ければもう舐めることなどできないと思うし、俺に集中すれば後方への被害も抑えられる。
すると、やはりというべきか無言の攻撃が開始された。
魔法と弓の一斉射撃だ。
「まあ、それでいいんだけどね。スラキューッ! シールドモードだ!」
「キュゥ!」
するとスラキューが俺の周りをシェルターのように取り囲みだす。
見た目はまるで、急所を守る鋼鉄の鎧だな。
そして魔法より先に詠唱が必要なく速い弓の攻撃が俺に降り注ぐが、全てシールドモードとなったスラキューに弾かれていく。
スラキュー自身にも、あの程度の攻撃では傷一つつけられてはいないようだ。
装備された状態の鎧が、勝手にに動いて矢を全て弾いていっているため、降り注ぐ矢はなんの効果も発揮していない。
はっきり言って、この程度の攻撃相手なら無敵だな。
「なんだあの装備は!? 急にあの子供に装着して勝手に動いてるぞ!」
「カイムにあんな装備をもった冒険者がいるなんて報告はなかったぞ!! まさか他国の冒険者に依頼を出したのか? くそっ、金の亡者共め!」
なんか勝手に話しが進んでいる。
やっぱりシールドモードはインパクトがでかかったようだ。
死角の無いスライムによる自動防御だからな、弓兵にとっては絶望以外の何物でもない。
「驚いてるところ失礼するけど、もういっちょ【魔法反射】っ」
今度は時間差で湧いてきた魔法の一斉射撃を、【魔法反射】ですべて相手側にカウンターしていく。
というかこの人ら魔力なさすぎだろ、俺が反射していく魔力消費よりも【不死身の情熱】の回復量のほうが若干多い。
人数揃えてるんだからもっと頑張ろうぜ。
「魔法が跳ね返ってくるだと!? いったい何が起きているっ! グァッ」
反射された魔法攻撃が次々に敵陣営に被害を広げていった。
これはもうあれだな、ほとんど壊滅状態だ。
ギリギリ意識があるタフな前衛がちらほらいるようだが、まだこっちは攻撃もしてないんだぞ。
そんな恨めしそうな目でみられても困る。
「くっ、化け物め」
「まあ、たかが小国と侮ったお前らの末路だ。受け入れるんだな」
そして手加減された圧力魔法によって、残った騎士たちが殲滅されていった。
戦闘が始まってから何人かは死んだかもしれないが、それはまあ仕掛けてきた以上はしょうがないことだ。
向こうの領主に難癖つけられても困るから、できるだけ生かしておいたつもりだが、それでも限度という物がある。
それにまだ逃げ出した伏兵がいるようだし、ここからは気づかれないように後を追って、向こうの領主の所まで案内してもらうとしようか。
戦争を吹っ掛けて負けた以上、実力差がわかったら仕掛けた方はシラをきるはずだからな。
ならばそうならないように俺が単独で向かうのがベストだろう、面会で本音を見せるわけがない。
さっそく上空から追跡開始だっ。
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ちょうど騎士たちとの戦闘を終え上空に浮かびあった頃、後続の馬車はワイバーンの群れに襲われていた。
「ヴァニエちゃんっ、そっちにワイバーン2匹向かったよっ!」
「任せなさいですわっ! せいっ!」
グシャアッ
「「グギャァ…」」
巨大ハンマーの一振りでワイバーン2匹の頭が破壊された、凄まじい威力である。
ヴァニエはエクストラスキルのフルパワーで魔法系のスキルが使えないが故に、強化する部分が限定的でスキルレベルの成長速度が著しいのだろう。
エレンやフィッテが魔法と近接を平行して覚えている間に、彼女はただ槌術に関する項目だけ鍛えればいいのだから当然だ。
故に、3年の間における訓練で彼女の槌術・物理強化系スキルはカンスト間近となっていた。
「ほえ~、めちゃくちゃなパワーだねヴァニエちゃん」
「オホホッ! 魅力ある女性にとってこの程度のことはたしなみ程度でしてよっ!」
「いや、それはないと思うな……。でもそれだけの力があってほっそりした体型なのが羨ましいよ」
この短時間で、彼女たちは襲撃してきたワイバーンの半数ほどを狩りとっており、ワイバーン側もこれ以上人間に付き合うか躊躇するほどの被害となっていたようだ。
既にちらほらと巣に引き返していく個体も見受けられる。
そして戦闘開始から1時間弱、襲撃はほぼ終了した。
「そろそろワイバーンたちも理解できてきたみたいだね。まあ下級とはいえ竜種だ、そこらへんのモンスターよりは頭がまわるはずさ。このまま続けても勝てないってね」
「そうでなくては竜種ではありませんわ。それにしてもこれだけ倒したのですから、報酬はたんまりといただけるはずです。むふふ」
「ヴァニエちゃんは自分に正直だね。確かにお金はあって困る物じゃないし、貰えるならうれしいけど」
ゼノン側のパーティが倒したのが冒険者・護衛含めた全体の約7割、ほとんど総取り状態である。
今もワイバーンの山が高くつまれ、だれがどのワイバーンの討伐者か確認作業をしていっているようだ。
そしてこの惨状にワイバーンも襲撃を躊躇したのか、それからは遠くで監視しているだけで、奇襲してくることはなかった。
馬車は順調に進み始める。
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現在領主小国の国境付近に到着、逃げ出した騎士たちが門番に何かを伝えて町の中でも大きな館に入っていった。
おそらくあそこが領主の館だな、それじゃあ窓から失礼しちゃうことにしよう。




