51 ワイバーンたちの異変③
ゼノンが魔大陸で交換したものが無双します。
俺・フィッテグループは宿を取ったあとすぐに冒険者ギルドの依頼掲示板前に訪れた。
もしこの盗賊騒ぎに国が関係しているなら、この国境付近の領主がなにかアクションを起こしているはずだからだ。
冒険者ギルドへのなんらかの依頼、もしくはそれにつながる何かだな。
仮に俺の想定が正しいうえになんのアクションも起こしていなかったとしたら、その領主はあまりに無力だ。
近いうちにここは相手国の領地となるだろう。
どちらにせよ、一度面会しなければ話にならない。
戦争が始まってからでは遅いんだ、始まる前に止められそうなら止めるつもりだ。
ま、始まったらその時はその時だがな、そんときゃトンズラしよう。
「フィッテ、領主関連の依頼を片っ端から探してくれ、だがなるべく自然にだ」
「わかったよっ」
ここで俺たちが不自然に行動してもいいことはない、領主とつながりを持つまでは自然にいくべきだろう。
そして依頼を探して20分程、俺より先にフィッテが領主の名前が記載された依頼を発見した。
【領主の護衛】
<該当ランク:C~>
<近々領主のエドガー殿が隣国の領主と面会する、その道中で現れるモンスターや多発している盗賊集団・ワイバーンなどから領主を守って欲しい。できるだけ多くの冒険者が集まることを期待する>
<依頼期限:領主が出発するまで>
<報酬:銀貨50枚、またワイバーンや盗賊一人につき追加で銀貨50枚>
「これだな」
報酬があまりにもおかしい、盗賊一人に銀貨50枚なんてありえないだろ。
それにわざわざ領主が他国の領主に面会するだけでCランク以上の冒険者をできるだけ集めるなんてありえない。
完全に戦争の一歩手前だ…おそらくまだ戦争のことは極秘だろうが、これじゃ見る人がみればわかる。
「とりあえずこの依頼をエレンたちが戻ってきたら全員で受けよう」
「うんっ!」
そして宿にいったんもどりエレンたちが帰ってくるのを待った。
そして待つこと1時間ほど、エレン・ヴァニエチームが帰ってきたようだ。
「ゼノン、いろいろと情報は手に入れてきたよ」
「オホホホッ! 私の社交術にかかれば情報を引き出すことなど容易いですわっ」
さっそく何かしら掴んできたようだ、情報交換をして意見が一致すればまず間違いないだろう。
「こっちは領主の依頼を発見してきた、やっぱり戦争の線が濃いな」
「ああ、そっちもかい?僕たちのほうも似たようなものさ。僕とヴァニエが町の人から聞いてきた限りでは、盗賊とワイバーンの集団はだいたい同じくらいのタイミングで定期的に現れるらしいよ」
「ということは、ほぼ決定だな。問題はこれからの俺たちの方針だが、まずは領主にあってからじゃないと何もいえない…さっそくギルドで依頼を受けに行こう」
依頼を受注しにまたギルドへ舞い戻った俺たちだが、そこではさきほどまでの賑やかな雰囲気とは違う光景が繰り広げられていた。
盗賊団かワイバーンにやられたと思わしき負傷した冒険者が十数名も運び込まれていたのだ。
「ぐぅぅ、いてぇぇっ! 誰か、誰か助けてくれぇっ」
「おいっ! しっかりしろ!! お前はまだこんなところで終わるようなヤツじゃねぇだろぉ! 無駄なタフさだけが取り得だったじぇねぇか!」
「誰かっ、こいつらにポーションをかけてくれっ! 治癒魔法でもいいっ、誰でもいいんだっ」
全員かなりの重症だ、放っておけばまず間違いなく死ぬだろうが誰も助けようとしない。
まあそれも仕方ないことだな、冒険者は基本的に自己責任だしポーションは高級品だ、おいそれとポンポン買えるような値段じゃない。
おそらく、中堅以上の冒険者か貴族からあたりがポーションの所持ラインなのだ。
……しかし、ふむ。
依頼の前にやることができたみたいだな。
「エレン、ポーチにはまだポーションは残ってるな? あれ使うぞ、ヴァニエとフィッテも手伝いを頼む」
「ははは、もちろん残ってるさ。ここが使い時だよね」
「まかせてよっ」
「任せなさいっ」
よし、エレンのポーションも十分だしみんなやる気だ。
これなら俺の魔法を使わなくてもなんとかなる。
まあ正直に言えば、全く関係ない俺たちが助けてやる義理はない。
だが、ここで見殺しにするようなやつにはなるつもりもないってだけだ。
結局、俺がただそうしたいだけだな、俺はわがままなんだよ。
「なああんたら、俺たちがそのポーションを人数分所持しているんだがどうする?」
「……子供、か?」
「バカヤロウ! ガキかどうかで判断してるんじゃねえっ! 俺たちに今必要なものをもっているやつが現れたんだ、頭下げて頼むのが筋だろうが。頼む、謝礼はする、俺たちにできることならなんでも言ってくれて構わない、だからこいつらを助けてやってくれ」
まだ傷の浅いおっさんの一人が頭を下げてきた。
そんなことしなくても配るつもりだったんだがな。
「ああ、任せろ」
その後俺たちは十数名の冒険者たちをありあまるポーションで治療してまわった、中にはいつ死んでもおかしくない重体の者もいたが、ポーションをぶっ掛け続けたらいつのまにか元気になっていた…
やっぱファンタジーぱねぇわ。
そして全員の治療が終わった頃、冒険者ギルドは歓声につつまれた。
「「「ウオオォォオ!!」」」
「スゲェぞあのガキ共、本当に全員治療しやがった!」
「バカやろうっあいつらはガキじゃねぇ、立派な冒険者だろうがっ」
「そうよっ! とくにあの金髪の子、なかなか私好みだわ」
「……ウフン」
わいわいガヤガヤとおっさんとかお姉さんが騒ぎ出してるが、一人変なのが混じってるぞ!
最後のやつ絶対女じゃないだろっ、なんなんだそのゴリマッチョボディは。
……ひげも生えてるし。
そんなことを思っていると、助けた冒険者から話しかけれた。
「君たち、本当に助かった。本当に、本当にありがとう。もう少しで俺たちは何もできないまま仲間を失うところだったよ。礼はなにがいい? 君たちの願いならポーション代が相場の10倍になろうと構わない」
リーダー格と思われる20台前半くらいの兄ちゃんが話しかけてきた、見る限り前衛タイプだな。
だが礼といわれても魔大陸の景品の値段なんてしらないよ。
あそこポーション一本一本値段が違うんだ。
ここは情報でいいだろう。
「謝礼か、ならなぜ冒険者十数名にもなる巨大パーティがあんなことになっていたか聞かせてもらえないか? とりあえず俺からの要望はそれだけだな」
「僕もそれが聞きたいね」
「ボクもポーションはゼノンくんたちの物だから、特に謝礼は必要ないかな?」
「……え? あっわっ、わたしもですわっ!」
ヴァニエだけなんか違うことを考えていたみたいだが、まあとりあえず優先的に情報は集めておこう。
「君たちは、本当にそれでいいのかい……。わかったよ、君たちの勇気に感謝する」
そうして俺たちは今回の顛末を聞くのだった。




