48 忍び寄る魔の手
アルトミー連合国。
そこは数多くの小国が連なってできた国で、一つ一つの小国の力はサンドレイク帝国やカデーリオン王国とは比べるまでもないが、連合として見た場合にはその限りではない。
少々まとまりには欠けるところが玉にきずだが、もし仮に完全にまとまったのならその国力は帝国・王国・教国をしのぐレベルになるらしい。
というのが王のおっさんの話しだった。
「ということでギラ、ひとっとび頼むわ」
『グルゥ、お前たちを乗せて飛ぶなどわけはないが、その前に聖女とかいう人間を俺が灰にしてやってもいいんだぞ? 一度とはいえ俺の背中に乗せた者達を陥れるなど、到底許すことはできんな』
いや、あんたが暴れたら聖女とかじゃなくて王都が灰になるわ。
ギラはおそらく完成した勇者や魔王に匹敵するだろうからな。
「いや、それはしなくていい。というかしないでくれ、ヴァニエの件は父さんたちが何とかしてくれる」
『お前の父がか、確かにあの人間の言葉なら信用はできる。お前たちを乗せて飛んで行ってやろう』
あざっす!
ちなみに今はクロスハート領で旅の準備を終えた段階だ、メンバーは俺・フィッテ・エレン・ヴァニエ・スラキュー。
ミーシャは帝国の冒険者育成機関にいるらしいので今回の旅には同行しないことになる。
まあ俺たちが戻ってきたことは手紙で知らせておいたので心配はしないだろう。
あの子なら居場所がわかれば追ってきそうではあるが。
うん、考えるのはよそう。
それじゃ、アルトミーまでひとっとびだ!
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ゼノン達がギラにのって出発しようとしていた頃、羽藤は国境付近の町に滞在していた。
「ここら辺から先が帝国か、確か帝国にはフィッテさんやゼノンさんのパーティメンバーであるミーシャさんが居るんだよな。あったら一度手合わせしてもらおう」
「オゥ兄ちゃん、ギルドの受付でぼさっとしてんな、あとがつかえてんだろうが」
「あっすんません! 依頼の受注だけお願いします」
「オゥ、まかせときなっ!」
(それにしてもこのスキンヘッドのおっさん、王都の冒険者ギルドにもいたけど出張とかしてんのかな? ……まさか別人ってことはないよな、まさか、ははは)
ロイルの訓練の一環として召喚直後から冒険者ギルドに登録した羽藤は、旅立ってからもギルドの依頼をちょくちょく受けながらここまできた。
既に冒険者ランクはDとなり中堅に差し掛かるランクである。
本人の実力がBにさしかかっているので当然と言えば当然だが。
「よしッ! これで受注は完了だ、わけぇのに既にDランクとは驚いたぜ。今後もがんばれよッ!」
「う、うっす!」
(今回の依頼は森の浅瀬に出現するはずのないキラーマンティスの討伐か。推奨ランクはC、まあ今の俺からすれば妥当な依頼だな)
そして羽藤は森の中へと入っていく、彼はロイルから自分の実力を見極める慎重さが大事だと教えを受けており、なによりもまず生き残ることを教えられていた。
それゆえに自分の実力より少し低い程度の依頼を受けたのである。
(自分よりも強い者と命のやりとりをするのは、本当に譲れない物があるときにしろ、か。怖がっているようにみえるけど、負けないために戦うには最善だよな。訓練ならむしろ強いやつと戦えっていってくる人だし、あの人は)
そして羽藤が森の浅瀬を巡っていると、目当てのモンスターと遭遇した。
「お、さっそくおでましか。じゃあ気づかれてないうちにこちらからいく「キャァァアアッ!!」……ぞ?」
(なんだ!? 今女性の声が、どこからだっ!? 悲鳴の音量からしてそんなに離れてはいない、いまからならギリギリ間に合うはず、間に合え!!)
「……見つけた!! ……なっ、キラーマンティスの大群!? とりあえず【アンチスキル】ッ!!」
「「ギィイイ!?」」
(よかった、女性は無事だ。キラーマンティスたちも急に低下した能力に混乱してまともに動いていない、仕留めるなら今だ)
「ロイルさん直伝【紅蓮剣・閃】っ!」
……ドサリ。
羽藤が放った紅蓮剣がキラーマンティスたちを真っ二つにした。
総合的な実力はBに届かないレベルだが、女神の加護とアンチスキルの相乗効果で、攻撃力だけなら羽藤はすでにかなりのもになっているのだ。
「ふぅ、動かない的あいてじゃこんなもんか。君、大丈夫だったかい?」
「あっ、ハイ!ありがとうございますっ! あの、あなたは?」
(はは、まるでテンプレだな。まあ異世界に召喚されたんだ、このくらいの特権があってもいいんじゃないかな?女性にも怪我はないし町まで送っていこう)
「僕の名前はハドウ・ギョク。ハドウでもギョクでも好きな方で呼んでくれ」
「はい、ハドウ様ですね? 申し遅れました、私はファニエ・レヴィア……、あ、いえファニエと申します」
「ファニエさんか、じゃあ町まで案内するよ」
(まぁモンスター素材も集まったし、帝国へ行くのは明日にして帰っても問題ないだろう)
「ファニエと呼び捨てで結構ですよっ! それよりも私は魔法陣系の学問を収めているのです、この町まである目的があったので来ていたのですが、ハドウさんといればその目的も達成させられそうです。どうかご一緒させていただけませんか?」
「えっ、魔法陣系って、魔法言語の上位スキルじゃ……。それにここの町に住んでいるわけじゃないのか。まあ旅は道連れっていうしね、とりあえず教国まではいくつもりなんだけど、それでもいいかな?」
「もちろんですっ!」
「はは、じゃあよろしくファニエ」
(なにか違和感を感じるけど、テンプレなんてこんなものかな? まあファニエも前衛がいればキラーマンティスに後れをとる事はないはずだ、なにせ上位スキルの魔法陣持ちだしな。あとはパーティメンバーとして、これから見極めればいいさ)
羽藤は違和感を感じたが、ファニエのスキル内容とテンプレの知識がカモフラージュとなり流してしまうのだった。
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え~、こちらゼノン。
現在ギラとフィッテの精霊の喧嘩が勃発中。
至急応援を頼む、繰り返す、至急応援を……
『ハッ! フィッテが仲間たちを紹介するっていうから召喚されてみれば、あんたギラじゃない。また人間にちょっかい出すつもり? 前の勇者がきっかけで大人しくなったと思ったんだけどね』
『黙れ放浪精霊、俺は人間にちょっかい出しに来たんじゃないぞ。第一昔の俺は人間のことをよく知らなかっただけだ、アイツは関係ないッ』
ギラの背に乗って高速で移動することになった俺たちだが、フィッテがみんなを紹介したいといってシルヴを呼び出してしまったのだ。
しかしこの2匹、2人? は昔の知り合いだったらしく、いわゆる犬猿の仲ってやつらしい。
「おまえら、はやく出発させろよ」
『『うるさいっ』』
あ、はい、すみません。
……その後、喧嘩は1時間強続いた。
シルヴとギラは前の勇者時代の知り合いです。




