閑話 こんどは自分の力で
女の子成分が不足気味だったので、フィッテの挿絵を人物紹介のところにアップしておきました。
今回は闘技大会後からのフィッテの閑話になります。
少し短いです。
闘技大会の日、ゼノンが魔大陸に飛ばされた後、王都は静寂に包まれていた。
幸いにも魔族の襲撃は各国の猛者によって鎮圧される事になったが、それでも多少の被害は起きていたのである。
そして大会中、フィッテは憧れの人が大会の頂点にたったさまを見届けたが、闘技場を飛び出した後一向に戻ってこないゼノンに違和感を感じ始めていた。
(ゼノンくんが闘技場から出ないようにって言ってたみたいだけど、いくらなんでも遅すぎるよ。ロイルさんも帰ってこないし、きっとなにかあったんだ。……行くならさっきの魔力の跡を辿っていくしかないよね)
フィッテは精霊の声が聞こえるため、ゼノンが起こした膨大な魔力暴走を感知していたのだ。
それ故に、彼になにかあったのではという考えに至ってしまった。
「ミーシャ、やっぱりボクはゼノンくんのところにいってみるよ」
「たしかに遅すぎますよね、魔族も鎮圧された今なら行っても大丈夫なのかも?」
「……うん、それじゃボクのことはみんなに知らせておいて」
膨大な魔力が渦巻いた地点へとフィッテは走り出した。
(やっぱり町の中にも魔族が少しいたんだ、既に騎士団に討伐されたみたいだけど少なくない人がケガをしている。もしゼノンくんがみたならこんな現状は放っておかないはずだよ、ということはまだあの場所にいるってことだね)
だがフィッテがその場所にたどり着いた時、そこに居たのは放心状態のロイルと、魔族の変死体のみだった。
ゼノンはおらず追って行ったロイルだけが取り残されたその場所は、明らかに不自然な光景だった。
「ロイルさんっ!? ……それにゼノンくんもいない?」
「フィッテちゃんか、……くっ、すまない、本当にすまない」
「……え? すまないって、どうかしたんですか? それにここにゼノンくんが居ないってことは、もう町の人たちの救援に向かったはずですよ。ならボクもいかなきゃっ」
一瞬だけロイルの姿に驚愕したフィッテだったが、ゼノンが居ないことを悟ると自分の考えが外れたと思い町へ向かおうとした。
しかしそこに待ったがかかった。
「無駄だよ、もうゼノンはいないのだ」
「……っ。やだなぁ、ロイルさん。それじゃまるで、ゼノンくんが死んだみたいな言い方じゃないですか。言い方がが間違ってますよ? ……えへへ」
「そうだな、フィッテちゃんにはきちんと伝えなきゃな。ならばはっきり言おう、<ゼノンは死んだのだ>魔族の手にかかってな」
「……え、えへへ。……え?」
フィッテにはロイルが言っていることが理解できない、ただ思考が停止し、頭が真っ白になっていくのみだった。
それはそうだ、彼女にとってゼノンは最強の勇者だったのだから。
「……うそだ」
「いや、嘘ではな「ウソだッ!!」い」
「嘘だ嘘ダウソダ! そんなことあるわけない! ゼノンくんが負けるなんてあるわけない! 死ぬなんてぜったいにウソなんだっ!!」
「……すまない」
フィッテは取り乱し、その場から逃げ出した。
だがそれからというもの、王都を体力の続く限り駆け回りゼノンを探したが、結局見つかることはなかったようだ。
その後、彼女の心は現実を受け入れられずにヒビが入り、魂が抜けた人形のようになってクロスハート家の屋敷で生きた屍となっていった。
一日やることといえば食べる・寝るの繰り返しで、まともに動こうとすらしなかったのだ。
だが数週間後、ずっと閉じこもり幸せな記憶を手繰り寄せていたフィッテはある気持ちを思い出していた。
ゼノンと出会い、いままでやって来た事の全てだ。
「……そうだ、ゼノンくんはいつだって立ち上がっていたんだ。いつだって自分を先頭にしてモンスターに挑んで、冒険者ギルドに登録した時だって怖かったはずなのに、立ち向かっていた。……そうだ、いつだってそうだった。ゼノンくんは痛みに耐えて立ち向かっていたんだ、どんな時も。だったら今度は、ボクの番だよね」
フィッテは立ち上がった、彼女の英雄から貰った勇気を胸に。
「ゼノンくんは死んでない、きっと戻ってくる。だからこんどはボクが自分で歩くんだ、自分の力で」
その後フィッテは屋敷を飛び出し勇者の文献を探し回った。
王都へ、帝国へ、その他多くの小国へ、そして精霊の声を頼りにみつけた野良迷宮<試練の迷宮>の踏破者となり、とある精霊と遭遇するのだった。
フィッテにもいろいろあったんです。




