42 空飛ぶドラゴン種、クロスハート領までひとっとび
3年が経ちます。
主人公は11歳になります。
俺たちが王都ゲイムを旅立ってから3年が経った、そして現在俺は教国の近辺の小国にいる。
本来2年で帝国付近までは辿りつくはずの日程で、なぜ1年もオーバーして到着したのかといえば、予想以上に人間大陸からの魔族への牽制が強くなっていたからだ。
「しかし、魔国ヴァンゲイムから教国までがこうまで遠いなんてな。距離じゃない意味で」
「ははは、1年半近くで人間大陸への船に乗れたのはいいけど、そこから先の妨害がね。やっと入れたと思ったら、今度は魔族と勘違いされてるし……」
「辿り着いたとたんに他国へ亡命だからな、そこからがまた1年だ」
俺たちはなんとか教国へたどり着くも、魔族の侵攻と一緒に到着してしまったために魔族と勘違いされていた。
まあ進軍してきているはずの父さんがいなかったのが救いだな、修羅と化した父さんが進軍してきていたら海の藻屑となっていたのは間違いない。
きっと帝国の聖女がなんとかしてくれたんだろう。
ヴァニエはここ数年の間に人間への正確な情報をダウンロードし、俺たちが人間であることも明かしておいた。
しかし本人曰く「それでも私の家臣であることは変わりませんわっ!今後は私自身が世界を見てまわり判断します」とか言っていたので大丈夫だろう。
あ、別にどっかいったわけじゃないからな、今もそこでスラキューと戯れている。
「キュッキュ!」
「くふふ。最初はただのチタンスライムだと思いましたが、この触り心地のよさ、クセになりますわっ」
……というかスラキューのスベスベボディにはまっていた。
「しかし、この国にとってモンスターテイマーが伝説の職業だったとはな。しかもテイムスキルがモンスターが受け入れたら初めて発動する物だったなんて、知らないぞ普通。あれからしばらくスラキューといたら、テイムスキル増えてたし……」
ステ振りのスキル欄になかったのは、所持モンスターが居ないから入手可能項目に入っていなかっただけなのだ。
スキルを入手してからMAXまで上げたが、消費ポイントは最低値の+2クラスだった。
まさに鶏が先か卵が先かだ。
「まあそのテイムスキルのおかげでこの国に亡命できたんだから、感謝しないとね。ここが匿ってくれなきゃ、教国の追撃を振り切れなかっただろうし」
「確かに……」
まあ今はもう仮面もつけてないし、ヴァニエもお嬢様ドレスから市民服に変えているので安心なんだがな。
そして亡命してきた俺たちが連れてきていたチタンスライムをみた門番は血相を変えひれ伏してきたのだ。
伝説のモンスターマスター様とやらがやってきたらしい、ということになっている。
その後なんやかんやあって、現在王城の客間でのんびりお茶をしているというワケである。
ここまでがこの3年の経緯だ、細かい話はあるがそれは端折るとしよう。
……そうしてしばらくお茶をしていたら、扉がノックされた。
コンコンッ。
「またか、あのおっさんも毎回ご苦労なことだな」
「ゴホンッ、失礼しますぞ。今日はとびっきりの情報をもってきましたぞっ!」
「オホホ! またモンスターテイムの裏情報ですの? それともテイムの講演に関してですか? どんと来なさいっ!」
この宰相のおっさんなにかと俺たちを優遇してくれるのはいいが、そのたびに情報交換を持ちかけてくるんだよな。
まあ世話になったのは事実だしいいんだけどな。
「違いますぞ、今回の情報はこちらからのお願いなのです。といっても、伝説のモンスターテイマーであるゼノン様方には、とびっきりの情報以外のなにものでもないでしょうが」
「はは、まあそれは聞いてみないとかわらないかな」
宰相のおっさんのこんな態度は初めてだ。
なにかあったのか?
「いやはや、恥ずかしながら我が国の戦力ではどうしようもないことでしてな。まさか国の鉱山の頂上にドラゴンが住み着くとは誰も予想できませんよ、はっはっはっ!」
「「笑いごとかそれ!?」」
「はっはっはっ!ドラゴンの退治は無理でも、テイムならできるかもしれません。どうかお引き受けできませんか?」
おいいいいぃ。
よりにもよってドラゴンかよおっさんっ!
これで問題は解決したといわんばかりに頭皮を輝かせているが、まだなんにも解決してないぞ。
「はぁ、わかったよ。それと俺たちもそろそろこの国から出ようと思っている、いままで世話になった礼代わりになんとかしてみせるさ」
「受けてくださるのですか!? なんと心の広き方だ、さすがはモンスターテ「それもういいから……」イマー」
「はは。じゃあ、さっそく行こうか、そろそろ外でのほとぼりも冷めた頃だろうさ。丁度いい機会になったね」
「そうですわ! この世界はラブ&ピースで廻っているのです」
それまだ覚えてたん……。
そんなこんなで鉱山へ向かった。
鉱山の頂上まではなんらモンスターが出現することもなく、ただの一本道だった。
まあ当然でもあるけどね、モンスターの生態系の頂点に君臨するドラゴンがいたんじゃ逃げると思う、普通は。
そして頂上に到着したとき、俺たちが見たのは漆黒の壁だった。
「いや、壁のような大きさのドラゴンか。ものすごい魔力を感じるな」
「グルルルゥ……」
「お、おう……」
だって壁に目がついてるんだもん、わかるよそりゃ。
あ、いまちょっとチビった。
そしてしばらく遠目で観察を続けていたら、俺はドラゴンと目が合ってしまったようだ。
僕、悪い人間じゃないよ。
『お前ら、また魔公爵の手先共か? なんど帰り打ちになれば気が済む』
「うおっしゃべった!?」
「しゃべりましたわ!?」
なんかこのドラゴンしゃべるぞ!?
ていうか、このドラゴンよくみるとあちこちに傷がある。
おそらく魔公爵の手先とやらと何度も戦闘を繰り返したのだろう。
いくらモンスターとはいえ、意思疎通のできる相手にこの仕打ちか。
ちょっといい気分じゃないな。
「あー、あー、聞こえるか? 俺たちはお前に危害を加えに来たつもりはない。人間の国の依頼で、この山の異変を調査しに来ただけだ。人間にとってお前のようなレベルの存在は脅威だからな、鉱山の採掘もままならないらしい。それにその怪我、痛いだろ。話を聞いてくれるなら俺が治療してやってもいいぞ」
『グルゥ……。確かにお前らからは、マイナスのエネルギーをあまり感じない。その話を信用できるだけの価値はあるが、俺を治療するなんて500年早いな。どんな道具があるか知らないが、無理な話だ』
一応信じてはくれたみたいだが、どうやらこいつは俺たちが道具で治療するのだと思い込んでいるようだ。
まあ、確かにポーションはありったけ残ってるけどな。
だが、そんなものを使う必要はない。
「いや、こうするのさ。メイちゃん直伝治癒、魔力ごり押し」
瞬間、俺がもつ大量の魔力が漆黒のドラゴンへと注がれた。
みるみるうちに傷が癒えていく。
『グルォオオ!? なんだお前ッ!! この魔力量、人間ではないのかっ? まさか勇者、いや、あいつでもこんな量の魔力はもっていなかった。すると、神の類か?』
「さあ、どうだろうな……? まあ、ただの人間さ」
このドラゴンが何年生きているか知らないが、勇者を知っているだけあって比較できるらしい。
まさかもう少しで魔神までバレるとは思わなかったけどな、とりあえず神そのものではない。
「……クッ、ゼノンあなた、こんな魔力量いったいどこに隠してましたの? いままで一度も見せてこなかったじゃないっ!」
「ははは、また隠し玉かい、ゼノン」
ヴァニエとエレンが驚いているようだが、エレンの前ではこれ以上の力を使ったことあるぞ…気絶してたときだがな。
『グルゥウ、傷が完全に癒えた、か。なるほど、確かに話しを聞く価値はありそうだ。だが、お前は気づいていないようだが、これだけの大魔法を使い消耗したお前と、完全に回復した俺。いまの条件で俺がお前らを襲う事などわけはないぞ?』
「……ん? あっ」
「ゼノン、なにか秘策があったんじゃなかったのかい?」
「……バカですわね」
いやいやちょっとまて!なにかあったはずだ、なにか!
あとヴァニエにバカ呼ばわりされた、もうダメかもしれない。
なんかドラゴンも変な生き物を見る目で見てくるし、期待を裏切ってすまんドラゴン。
『……ブハッ! ガッハッハッハハッハ! はっはっ、はあー、まさかお前、なんにも考えてなかったとか言うんじゃないだろうな?』
「悪い、そのまさかだ」
『ククッ、こんなバカはあいつ以来だ。グハハハ! 面白いっ、面白いぞ! いいだろう、興が乗った。お前たちの話しを聞いてやろうじゃないか』
あ、ども。
興が乗ったドラゴンさんに俺たちは今回の経緯を話した。
まず鉱山の件、そして俺たちが魔大陸からクロスハート領へ向けて旅をしているということだ。
『フム、なるほど。鉱山の件は分かった、ここから立ち退こう。それとお前の国への件だが、俺に乗っていくのが最短だな。その国までどれくらいかかるかは知らないが、少なくともお前たちが全力で走るよりは飛んだ方が早い』
「確かに、お前が可能であるならそれで頼みたいんだがな」
『バカにするんじゃない、これでもドラゴン種の中では王種の一角、名はギラだ。一度受けた恩も約束も違えるほど腐ってはいないぞ』
まじか、ならそういうことで頼んじゃおう。
なんやかんやあって俺はクロスハート領までひとっとびできる事にになってしまった。
あっ!
宰相のおっさんに解決報告するの忘れてた。
ま、いいか。
気づくだろ。
「……まさか、モンスターの最強種の中のさらに王種をテイムするなんて、ありえないですわ」
ヴァニエがなんかいっているが気にしない。
俺もぶっちゃけ何が起こってるかわからないしな。
最強の移動手段を確保しました。
次回、勇者召喚の閑話になります。




