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32 剣聖失格

ほぼロイルメインです。

マッチョ系の公爵魔族は、全力のロイルとだいたい互角です。

──────────

──────────


ゼノンが森で逃げ回っている頃、王都は戦火に包まれていた。


「フム、やはりマイナスエネルギーの収集は人間を使うのが一番効率的だな。魔界よりも質が段違いに高い」


筋骨隆々の魔族が言った。

彼は配下の魔族を闘技場のみならず、王都全体へ向けて放っていた。


「魔族が人を殺せばマイナスエネルギーが生まれ、魔族が死ねばまた生まれるじゃん。こっちの消費も激しいけど、てっとり早いじゃん」

「下級魔族の死による内包エネルギーの放出など、最初からアテにしてなどいない。だが、100の魔族で1の達人を殺せば、それのエネルギー量は計り知れないものになるはずだ」

「まぁそうだけど。それにしても、あの蝙蝠ババァが帰ってこないじゃん、遅すぎるじゃん」


─彼ら魔族にとって、人間は餌でしかない。


そして闘技場の一角、その特等席ではロイルが怒号をあげて剣をふるっていた。


「セーラ! ギルバート! 俺はゼノンの様子を見に行ってくる! なんとか持ちこたえるんだ!」

「……あなた」

「ガハハハッ! 誰に言ってやがる、お前が帰ってくる前に全て終わらせておいてやる」


ロイルは飛び出した息子、ゼノンのことが頭から離れなかった。

魔族の情報そのものは、闘技大会が始まる前から報告を受けていた。

しかし、魔族の闇魔法で洗脳された人間の目撃情報ばかりで、しっぽを掴めずにいたのだ。


直前にさえ来なければ、息子を危険にさらすことはなかった、そんな後悔ばかりが浮かんでは消えていた。


「……すまんッ」


(息子の居場所は検討がつく。俺は魔法に関しては専門じゃないが、闘技場の外でありえない量の力を感じた。……だとすれば、息子が勇者の力を覚醒させたか、あるいは強大な魔族がその力を振るったかだ)


ロイルは走り続ける。

そして現場へたどりついた時、そこには魔族の変死体が捨て置かれていた。


「……ッ、ゼノンはどこだ!? くそッ! いるなら返事をしろゼノンッ!」


そこにふと、なんの予兆もなく、唐突に気配が現れた。


「……ッ! ゼノンッ」

「……おや? 蝙蝠ババァにかけた魔法陣をたどってみれば、ずいぶんなお客さんじゃん。お前がやったのかな? 信じられないじゃん」

「ばかな、この気配の質、上級魔族だと……」


焦ったロイルが息子だと思ったその気配は、明らかに人間の気配ではなかった。


「貴様、息子をどこへやった」

「ん? 知らないじゃん? そんなことより、これは計画外じゃん。あたしらの集めたエネルギーを転送できるだけの、丁度いい燃料だったじゃん」

「……なんだと。……き、さぁまぁああああああっ!!」


ロイルの返答に対し普通に答えた魔族だったが、仲間の魔族の分析をしたとたんロイルが激怒した。

頭に血が上り、冷静ではなくなったロイルは、完全に意味を間違えてとらえていたのだ。

ロイルは我を失い切りかかる。


「……ッ! 早いじゃんっ!? これはあのババァが死んだのも頷けるじゃん。まさかこんな人間がいるなんて、きいて、ないじゃんっ!?」

「おおぉぉぉっ!!!」


少女姿の魔族と、ロイルの実力は拮抗していた。

……いや、魔法陣を得意とする少女姿の魔族は反撃に移れず、慣れない体術での応戦となる。

その結果、じわじわと追い詰められていた。


「……っ、接近では分が悪いじゃん。……撤退するしかないじゃん」


何度も切り付けてくるロイルに対し、少しずつかすり傷が増えていく魔族は不利を悟った。

なにもここで、ロイルをどうしても倒さなければならない訳じゃない。

蝙蝠魔族にかけていた魔法陣が失われている以上、自分の技術でしかなんとかする事ができないのだから。



「……ッ、逃げる気か!?」

「別に急ぐことはないじゃん、せいぜい残りの余生を楽しむといいじゃん。<もうすぐ世界が終わる>」

「なにッ!?」


魔族は急上昇し飛び去って行った。

最後まで戦えれば勝てる相手だったが、逃げられてまで殺せるほど実力は離れてはいない。


そして、ロイルだけが取り残された。


「……くそっ、くそぉっ! 俺は、何のために強くなった……!! 家族も守れず、失うだけ失って何が剣聖だ、何が最強の騎士なんだっ!! すまないゼノン、父さんは、俺はッ! ……お前を、守れなかった」



──すまない。


ロイルは膝をつき、剣を落とした……。



「今もどったじゃん。蝙蝠ババァが死んでたじゃん」

「まぁ、あれは使えれば便利、みたいなものだ。マイナスエネルギーの転送はお前がいればどうとでもなる」

「まぁ、ババァにも本当のことは伝えなかったし、召喚体の作成なんて嘘っぱちじゃん。本来の目的は勇者の略奪じゃん」

「そうだ、召喚される勇者に対し、途方もないマイナスエネルギーで負荷を加える。すると、極上の魔王様のできあがりというワケだ」


魔族は最初から勇者にやられるだけの木偶など必要としていなかった。

必要なのは、魔王の加護と勇者の加護…2つの加護を併せ持つ、終わりの化身だった。


「ユニークスキルが2個なんて、聞いたこともないじゃん。最強の生命体ができあがるじゃんッ!!」


悪魔の計画は…刻一刻と迫っていた。


──────────

──────────


俺は縦ロールちゃんに追い付かれるやいなや、愛と平和の重要性を説いていた。


「ほらっラブ&ピースだっ! わかるか?愛と、そして、平和だっ!」

「愛、……平和、……愛、……へい(略)」


おほっ!

説得ってなんだか楽しい……っ!

洗脳ともいう。


「……ゼノン」


エレンが目でなにかを訴えてくるが、気にしない。

お前が遅いせいだぞっ、いや、縦ロールちゃんが速すぎたせいだった。

俺の説得は夜が明け、昼になるまで続いた。




ゼノンはいったい何をやっているのか…

次回「縦ロールへの道」


……うそです。


ちなみに魔族の計画が成功したとして…


ゼノン「へー(鼻ホジ)」


くらいの差があります。

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