28 一人で戦う覚悟
試合が続きます
試合がはじまり、ギル兄さんの試合を見ていた俺たちは震撼していた…
最初こそ、迷宮にいってレベル上げをしていないギル兄さんを侮っていたとこがあった。
少なくとも心のどこかで、余裕があったことだけは確かだな。
しかし、そんな余裕は一瞬で消し飛んだ。
ギル兄さんの剣は、育成機関の出場者を試合開始から1分もしないうちに力で押し切っていたのだ。
「……ッ!」
ギル兄さんがこちらを視認してきた、まるで「決勝で待っていろ」とでも言うような感じだ。
お、俺は騎士じゃないんだが、おうち帰りたい。
というか、レベルですら育成機関のエリートより高かったような気もする。
いったい何してきたんだ兄さんは。
「これは、とてつもないね」
「(ビクッビクッ)」
エレンは冷や汗をかいていた、フィッテにいたってはビクついている。
フィッテは荒々しいタイプが苦手だからな、強くなっても怖がりなところは変わらない。
だがいつまでも気にしているわけにもいかない、俺とフィッテの出番が回ってきたようだ。
俺の相手は教国の魔導学園か、いっちょやりますかね!
「さて、Bブロック次の試合を紹介だァ! 魔導学園の鬼才!4属性の魔法適正と圧倒的な魔力量、ケイィィィン! 対するは出場者中最年少!剣聖と魔賢の息子にしてCランク冒険者! 育成機関のゼノン・クゥウウウロスハーート!」
「「「ワアアァアアアッ!!!」」」
すごい熱狂だ、クロスハート家は大陸中に知れ渡ってるからなぁ。
司会のおっさんもよく喉が潰れないな、ここ野球のドームくらいあるぞ。
「よぉ、俺はケインだ。クロスハート家の噂は聞いているぜ。だが、俺は貴族ってやつが大嫌いでな。お前も親のコネで出場したんだろ? そんなヤツに俺はまけねぇんだよ」
「まぁ、どうでもいいからさっさと構えた方がいいよ」
おしゃべりな奴だな、どうやら貴族が嫌いらしい。
「舐めやがって……ッ」
「それではァアアア!試合ッ開始ィ!」
「「「オオオオオッ!!」」」
「ッハァ!」
試合開始と共に俺は身体強化最大まで発動し急接近した、魔法相手には近距離戦闘がベストだ。
まずはジャブとストレートで様子を見る、相手はどうでるかな…
「……フォースエレメンタル・ファイアーボッガハァぁぁああああっ!」
ジャブもストレートも決まってしまった……。
「「「……」」」
「試合ッ終了ぅうう!! 勝者、ゼノン・クロスハァァアート!」
俺の一試合目が終わった。
てか、馬鹿かあいつ。
なんで最初から長時間詠唱はじめてんだ、普通足止めしてからだろ。
魔法系の弱点くらい理解しとけよ……。
「「「ワアアアアァァァァア!!!」」」
観客は予想以上の結果に数拍止まっていたが、再度、闘技場は熱気につつまれた。
「さすがですね、ゼノンさん」
「まっ、こんなもんだな」
相手が抜けてただけだが。
しばらくしたら、次はミーシャの試合だ。
「どうなるかと思いましたけど、フィッテも危なげなく勝ってましたよ。エレン様の試合ももうじき終わると思います」
「……みたいだな」
エレンは騎士学校の生徒相手に全力で押し切っていた、【光騎士】まで使っている…おそらくギル兄さんの試合で油断できないと判断したのだろう。
「では、私も行ってきますね」
ミーシャの相手はまた教国だ、俺の試合のせいかマヌケなイメージしかない…
そんなこんなでミーシャとその相手が舞台に揃う。
相手側はフードを深く被っていて姿がよくわからない。
「それでは、試合ぃィイ! ……開始ッ!」
始まったようだ。
「カァァアアッ」
「……」
ミーシャはさっそくバーサークを使用した、野生的な動きで相手に接近する…バーサークは連続で使えないスキルなので、短期決戦に持ち込む気のようだ。
「カァ!」
ミーシャが毒ナイフを縦横無尽に振り回すが相手にたいした動きはない。
しかしなにもしないからこそ、回避に専念しているようだ。
だけど魔力に動きがある、どういうことだ。
すると突然相手が大量の魔力を地面に流した。
バァアアアン
「キャァアアッ!」
「……♪」
突然地面が爆発しただとっ!?
よく見ると地面に模様がかかれているし、魔法陣かあれ?
なるほどな、逃げ回りながら少しずつ魔力を地面に流していたのか。
最後のは魔法陣を起動するための魔力量だったらしい。
「試合ッ終了ゥウウウ!勝者、魔導学園のリーン!」
ミーシャは既に気を失っていた。
準備がかかるが気づかれにくく、一撃必殺の威力か、考えたな。
「~ッ!ミーシャッ」
エレンが飛び出した、試合と割り切ってても心配みたいだ。
しかし魔法陣か、魔力操作と魔法的性、魔法言語が前提でさらにその先にある魔法スキルだ。
年長組だとしても、一介の学生が使いこなせるレベルじゃないぞ。
教国にも天才はいるってことだな。
そして治癒師たちに回復されたミーシャを背負って、エレンがもどってきた。
どうやら外傷はほとんどないようだった、よかったなエレン。
しかし、Bブロックの難敵はあの少女になりそうだ。
「すみません、ご心配おかけしました」
「気にするなって」
問題は次のフィッテ戦だ、正直ギル兄さんとフィッテは相性が悪い、精神的な面で。
俺はフィッテを見たが、思いのほか戦う意思はくじけていないようだ、これならやれそうだな。
「いってこいよフィッテ、……きっとやれるさ」
「う、うん。ボク、がんばるよっ! 次のエレンくんにだって勝つつもりなんだっ」
「ははは、負けないよ」
そしてギル兄さんとフィッテが舞台に立った。
「はじめまして、だな。お前の話は父さんから聞いている、弟が世話になっているようだ。これからも仲良くしてやってくれ」
「えっ、あ、はい!」
ギル兄さんと何かしゃべっているようだが聞こえない……
だが、フィッテの緊張が少しほぐれたようにみえるな。
てか兄さんてあんな顔するんだな、ほとんど騎士学校にいて帰ってこないからフィッテとも会ったことはないと思うんだが、親しげだ。
考えている間に試合が始まった、しかし予想外なことに…兄さんはさきほどのような苛烈な剣ではなく、フィッテの様子を窺っている。
フィッテが先にしかけるようだ。
「いきますよ、ゼノンくんのお兄さんっ…ボクに力を貸して…風の精霊さん【ウィンドミキサー】」
フィッテの風の精霊魔法が発動された、ウィンドミキサーはウィンドカッターの連続攻撃版みたいな感じだ。
それが精霊術によってさらに倍の数の刃となって襲い掛かっている。
「……甘いな」
──キィン。
「~~ッ!!」
フィッテの刃が受け流され、刃の中を歩くように進んでいくギル兄さん。
……って、おいおい、まじでいってるのかそれ。
俺はすかさず鑑定したが、兄さんの首飾りからジャミングのような魔力が流れて集中できず、効力の落ちた鑑定は弾かれてしまった。
あれはおそらく隠蔽系~魔法耐性系の首飾りだろう、本気すぎるだろギル兄さん。
まぁ俺が言えた事じゃないけどな。
「確かに、魔法の威力と精度、基礎的な力は俺にも劣っていない。だが、それだけだ。お前には<一人>で戦う覚悟がたりない」
「……くっ」
ギル兄さんはフィッテの魔法をすべて受け流すと、猛烈なスピードでフィッテに接近した。
「終わりだ」
「……あっ」
ストンっ、と首に手刀を落とされ、フィッテは気絶した。
確かにフィッテが行うべき最初の魔法は、ウィンドアクセルや身体強化でなければならなかった。
相手は近接系だ、接近されたときのことを考えなければならないのだから。
一人で戦う経験が違いすぎる。
「勝者ァ! ギール・クロスハァアアアアアト!」
「「「ワァアアアアッ!!」」」
エレン、俺の兄さんの壁は高そうだぞ。
その後、俺が2試合目を勝ち進んだ頃、エレンvsギル兄さんの試合が始まろうとしていた。
そろそろ魔族が動き出します




