閑話 最強の騎士
閑話はこれで最後です、次は本編に戻ります。
ゼノンたちが迷宮都市へ向けて出発した頃、カーデリオン王国の騎士学校に年少組「最強」の名を欲しいままにする少年がいた。
ゼノンの兄、ギール・クロスハートである。
「年長組とはいえ、こんなものか」
彼は7歳~10歳が集う年少組では実技の授業で相手になるものがおらず、13歳までが集う年長組へ飛び入り参加をしていることが多い。
しかし、そこですら彼の力は通用してしまう。
いや、しすぎてしまった。
「ギールさんっ! 今日もパネェっす!」
「「「さすがっす!」」」
彼の力と公爵家という肩書きによって、いまや年少組の男子の大多数は彼の取り巻きか、そうでないものは彼を避けて通っていた。
「……チッ。お前ら、こんな下らないことはしなくていい。暇があるなら1年の面倒をみてやれ」
しかし、彼にとって取り巻きなど最初からどうでもよかった。
学校など、彼にとっては通過点の一つにすぎない。
なにより、彼の瞳には常にここにはいない人物が写っていたのだ。
「あと少しだ、必ず追い付いて見せるぞ、ゼノン。そして、俺がお前を越えてやる」
彼の瞳に写っていたのは、弟、ゼノン・クロスハートである。
(俺はもう、俺の弱さから逃げたりしねえ……)
その拳は、恐怖に立ち向かうがごとく握りしめられていた。
そもそも、ギールは5才まで気が弱く泣き虫だった、近所の子供たちからは「弱虫ギール」と罵られ、反抗する気力もなく毎日のように家に逃げ帰っていたのだ。
しかも、家族にも黙っていたほどだった。
両親にはバレバレだったようだが。
……しかし、全ては6才になったときに変わった。
彼の尊敬する「最強」の騎士、父のロイルが稽古をつけ始めたのである。
「いいかギール、まず、お前は強い。そして、怖いことは弱さなんかじゃない。何が恐いのかを知った者だけにしか、本当の強さは手に入らない。……絶対にだ」
父は語る。
「……うそだよ、父さんには怖いものなんてないはずだ」
しかし、臆病者故に疑い、ギールはなかなか訓練に向き合えずにいた。
「いや、ある」
「え…?」
「父さんは仲間を傷つけられるのが怖い、失うのが怖い、……セーラ、母さんの怒りが怖い。そして
、お前たち家族を失うのがとてつもなく怖い。だから、父さんは<絶対に>負けない。……たとえ、魔王が相手でもな。……どうだ、お前にはどんな怖いものがある?」
「……」
このとき、ギールには父の言っていることが半分も理解できなかったが、信じずにはいられなかった。
自分の父は絶対に負けないんだと、最強なんだと。
そして、ギールの心で何かが輝きだした。
「……わかったよ父さん、やってみる。だけど、怖いものの多さなら僕が上だよ。……だからいつか、<俺が>最強の騎士になるよ」
そうしてその日、少年は歩き出した。
「……俺は知っているぞゼノン。お前の強さを、お前の怖さを」
(あいつは帝国の育成機関に入った。ならば遅くてもあと2年で、大陸闘技大会の3か国学校対抗の部門に出場するはずだ。……待ってろよ)
少年は恐怖と戦い、腕を磨き続ける。
ギールは若干やさぐれましたが、根っこはおなじです。
ただ、言葉遣いが変わってます。




