閑話 ほんとうのわたし
閑話です、短いです
もう一回閑話が続きます。
ゼノンがエレンの屋敷にいる間、教会では一人の少女が穏やかな顔をした女性に何かを訴えていた。
「ですから、私は聞いていたのです! お姉さまと王国の聖女様が話している内容を」
「……はぁ、シスターメイ、少し落ち着きなさい。魔王などというのは王国の聖女の早とちりです。彼女は本気で勇者を召喚するつもりでしょうが、私はその話を信じていません」
お姉さまと呼ばれている彼女は、迷宮都市を拠点としている帝国の聖女であった。
(まったく、厄介なことになったものだわ。力が通用しなかったくらいで、加護をもつ勇者を魔王呼ばわりとは。仮に勇者ではなかったとして、英雄たる資格をもっているのは間違いないというのに。……王国の小娘がっ)
「そんなっ! ……でも」
「いいですか、聖女の加護は絶対ではありません。そしてそれは、女神様にも言えることなのです。邪神の存在がそれを証明しているでしょう? いまは知らないだけで、神だって本当はまだまだいるのかもしれません」
帝国の聖女は現実を知っていた、自身のもつ【予知】が必ず当たるわけではないが故に、女神の力とて万能ではないことを。
「それに、あなたがシスターとして人々を治癒し続けるのは、悪者を凝らしめたいからなのですか? いつも光の勇者様に憧れていたのは、誰かを悪者にしたいからだったのですか?」
「……あっ」
シスターは教会で育った、親のいない自分に勇気をくれる勇者のお話しが大好きだったのだ。
「……ちがいます」
「そうでしょう、あなたが治癒の力を磨いてきた理由は、いつもあなたが言っていたではありませんか。勇気をくれた勇者様のように、自分も勇気を与えたいから、だったはずですね」
「……っ!? ……あぁっ、あぁぁっ」
シスターは動揺した。いつのまに傲慢になっていたのだろうと、確かに悪者が居れば誰かが止めなければならない。
しかしそれは、いつだって誰かを助けたかったからだったはずだと。
……彼女は、自分の感情を思い出した。
「もう、大丈夫なようですね…」
「はい、まず黒髪の男の子に謝ります。そして、自分の眼でどんな人なのか確かめてみたいです」
「ふふっ」
帝国の聖女は微笑んだ。
「……では、いってらっしゃいな」
「はいっ」
そうして、幼くも力強い意思と共に、シスターは走り去っていったのだった。
「さて、あの王国の小娘をどうしてやりましょうかね」
勇者召喚などという馬鹿げた行為に対し、彼女はとてつもなく憤っていた。
次はゼノン兄弟の騎士学校の閑話となります。




