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閑話 エレンの夢


魔国ヴァンゲイムの首都、王都ゲイムの宿に泊まっていたある日の夜、俺はふと、闘技大会の日の事を聞いてみようと思った。

今にして思えば、あの冷静なエレンがなぜあそこまで激昂し、会場を飛び出してしまったのか疑問に思っていたからだ。


いつもの親友なら、あんな事は絶対にしないはずだしな。



「……なあエレン」

「なんだい、ゼノン」

「いや、その、ギル兄さんとの試合の事なんだけどな」


やばい、気まずい。

負け試合の事を根掘り葉掘り聞くとか、性格悪すぎてなんて話しかけたらいいか分からないぞ。


どうしよう。


「あはははっ、ゼノンの言いたい事は分かるよ。僕がなんで飛び出して行ったのか、疑問に思っているんだろう? 当然の疑問さ、気を使わなくていい。悪いのは僕だ」

「あーいや、うん。まあ、そう言う事になるのかな」


当然の疑問と言えば確かにそうなんだけど、相変わらず察しがいいな。

現代日本で育った俺よりも空気を読む力があるんじゃないか?


「……そうだね。確かに、単純に負けて悔しかったからというのもあるけど、もう一つ理由があるんだ。何て言えばいいのか迷うけど、有り体に言えば、君が僕の【夢】だったからだよ」

「…………」


なるほど、わからん。

分からないので、とりあえず黙っておく事にする。


「君に出会う前の僕は、ただただ帝国の王子として恥じぬよう努めていただけの存在だった。ある程度の力をつけ、ある程度の心構えを持ち、ある程度の成果を上げる、それだけの存在だったのさ。……だが、他の誰でもない、君なら分かるだろう? 人を守ると言う事が、【王子】という資格がそんな覚悟で務まる物じゃないって事が。僕は君出会って、それがようやく理解できるようになったのさ」

「……なるほどな」


おそらくエレンはこう言いたいのだろう。

国を背負う王子という存在が、どんな理由や形であれ、本気の戦いで負ける事は許されないのだと。


確かにそうだ、もし仮にあれが試合ではなく戦争であったのなら、王の敗北は国の敗北を意味する。

だから戦う以上は絶対に負けてはならないし、率先して前に出るのであれば【最強】でなくてはならない。


それはかつて、俺が産まれときに決意した【不幸にならないために、とりあえず最強になる】考えと重複する所があるようにも思える。


「そうさ、だからあの試合に負けた時に、僕は自分が許せなかった。目の前には、守り抜くために常に最強であり続ける友がいるというのに、僕はあの試合で何もできずに、無様に負けたんだ。絶対に君に追いつくと誓ったにも関わらず」

「そうか、だからあの後、魔族との闘いでお前は……」

「そうだよ。まあ、あとは君の思っている通りさ」

「分かった。変な事聞いて悪かったよ」


あの闘技大会の後、エレンが命を燃やしてまで魔族と対峙しようとしていたのは、今度こそ何があろうとも負ける訳にはいかないという、親友の覚悟の現れだったのだろう。


まったく、どこまで真っすぐなんだこいつは。

真面目すぎて早死にしそうなタイプだな。


「いや、いいよ。僕も本音が話せてスッキリした」

「ああ、俺もだ。んじゃ、もう寝るか」

「はははっ、そうだね。もうヴァニエちゃんは寝ている見たいだし、僕たちも寝よう。おやすみ」

「あいよ」


いやー、まさかエレンがここまで思い詰めていたとは知らなかった。

本音を聞けて良かったとは思うけど、なんか複雑な心境だ。


王子っていうのも大変だなぁ。


そんじゃ、おやすみー。


「…………だから、君は誰にも負けないでくれ。ゼノン」

「Zzz」


親友の信頼が重い。

……だがこれは益々、誰にも負ける訳にはいかなくなったな。


この俺がどこまでやれるのかは分からないが、まあ、守ってやるさ。

仲間の命も、夢も全部だ。

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