閑話 スラキュー枕
なぜか俺に懐いてきたチタンスライム、スラキューをテイムしてしまった俺だが、何も考え無しに武器へと変化させた訳ではない。
これにはきちんとした理由があるのだ。
まず1つ目に、こいつはスライムであるという事、ここが重要だ。
スライムであるが故に変幻自在で、どんな武器や防具にも対応可能であるという事は、それはつまりポイントで取得した武術スキルに合わせて、どんな型にでも合わせていくことが出来るという事に他ならない。
そうであるが故に可能性は広がり、応用が可能になっていく。
だが、俺が今一番悩んでいるのはそこではない。
真の可能性に目覚めてしまったのだ。
「ス、スラキュー、……お前っ!?」
「キューッ」
「はうぁっ!?」
ごろんと横になると伝わってくるスベスベのボディと、柔らかい感触。
そして何よりもひんやりとした最高の──
──枕ッ!!
「キュッ!」
「ほわぁあああ、きもちええ」
「こら、バカゼノン! それは私が開発したスラキュー枕ですのよっ!? さっさと私に代わりなさいっ!」
「えー、むりー」
「な、なっ!?」
そう、こともあろうにこのスライム、とても快適な枕になってしまったのだ。
最初は変幻自在に形を変えるヴァニエが、上質な枕が無いと寝れないといったのが切っ掛けだった。
ヴァニエは俺たちが魔族領で寝泊まりしている宿(なによりも枕)に不満が募っていたらしく、こんな設備では十分が取れないとわめき出し、ついには自暴自棄になってチタンスライムを枕代わりにしはじめたのだ。
だがそこで枕になったスラキューは、何を考えたのか自分の役割を把握し、快適な枕になるべく微調整を繰り返すことに。
そして膨大な努力の末に生まれたのが、今俺が使っている、この【スラキュー枕】だ。
ほんとなんでもやるな、このスライム。
おじちゃんビックリだよ。
ほら、ヴァニエどころかエレンもこっちを見て触りたそうにしているし、誇っていいぞスラキュー。
「そんなに気持ちいいのかい、ゼノン」
「ああ、完璧な触り心地だ」
「あ、当り前ですわっ! なにせこの私が選んだ至高の枕ですのよっ! これで寝不足も解消されるはずです」
という事らしい。
まあヴァニエが切っ掛けになったのは事実だし、いつもの寝不足が解消してくれるのなら嬉しいのは事実だけどな。
だが、それよりも今優先すべきは他にある。
「それは良かったな。それじゃ、俺はこのまま寝るから……」
「なぜですのっ!?」
「それは、俺がいまそうしたいからさ」
そう、一度味わってしまえばこのスラキュー枕からは抜け出せない。
目覚めるまではもう動く気力すらないのだ。
あばよみんな、また明日会おうぜ。
スアァ……。
「く、くぅぅ~っ!! こ、このバカゼノン、もう我慢なりませんわ。せいっ!!」
「フハハハッ! 何をやってもムダぴぎゃああああっ!?」
突然ものすごい衝撃に晒され、部屋の隅にまでふっとんでしまった。
いったい何がっ!?
そして起き上がってみると、見事な蹴り上げを決めたヴァニエがこちらを鬼の形相で睨んでいた。
めっちゃ怖い。
「待てヴァニエ、話せばわかる」
「…………」
あ、だめだ完全にキレてる。
「よ、よし分かったっ! やっぱりスラキュー枕第一発見者のヴァニエが先に使うべきだよなっ! うん、そうだそうだ。エレンもそう思うだろう?」
「えっ? あ、う、うん、そうだねっ! 僕もちょうどそう思っていたところさ」
「…………ならばいいのです」
エレンが同意したことにより、周囲にはスラキュー枕を奪うものが居なくなったと確信したのか、蹴り上げた足を下ろしてくれた。
許してくれたらしい。
「うむ。やはり持つべき者は友達だな、間違いない」
「……ははは」
ちなみに、次の日のヴァニエはすっきり爽やかな笑顔で朝を迎えた。
どうやら快眠だったようだ。




