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15 聖女と魔王

俺は扉の前まで案内されていた。


現在俺の傍には、個室の気配を探っているパパンと、満面の笑みのフィッテ、申し訳なさそうな司教がいる。

メイド達はパパンの指示のもと、暗部を警戒して周囲の警備に当たってるようだ。

メイドに関してはもう突っ込まない、ゼッタイニダッ!


……そして、俺の魔力感知によるとママンレベルの魔力量を持った存在が個室から感じられる。

しかし、不自然なくらい魔力の流れがぎこちなく、まるで魔力だけを与えられた存在かのような歪さを感じとれた。


どういうことなのか分からないが、なんとかなるだろう。


「それじゃ行ってくるよ父さん」

「……あぁ」


パパンは集中が切れないよう、適当に挨拶だけしてすぐにまた気配を探っていた。


「それじゃ、失礼しまーすっ」


部屋に入ると2重扉になっており、奥の方は真っ暗だった。

気休め程度の光がちらちらと輝いているが、ギリギリ物にぶつからない程度の視界が確保できるだけだった。


なんというか、プラネタリウムに似ているな。

特に光の輝き方が。

てかこの部屋、学校の教室くらい広い。

まあ、魔力を感じるから迷わないけどね。



そしてしばらく、適当に部屋を散策していると、部屋全体から声が響いてきた。


「──ようこそ、神の加護を持つ者よ」

「えっ?」


声質からして女性みたいだが年齢がわからない。

幼そうにも聞こえるし、老成した厳格な印象も受ける。


……ていうかなんで神の加護バレたし、隠ぺい仕事しよう。

こりゃ雲行きが怪しくなってきたな。

あくまでも俺に対しては勇者である可能性が残っているため、いきなり危機が迫ることはないと思うけどね。


「今回お呼びしたのはあなたへの質問があったからです、そのままで構いませんので少しお時間を下さい」

「……質問か。じゃあ、僕の質問にも答えてくれるなら構わないよ」


とりあえず、今誰を相手にしているのかということと、隠ぺいの効果が無効化されたことだな。

ちなみに鑑定についてだが、だいたいは読めた。

たぶんこいつはある程度検討がついた上で司教に「わからない」と伝えているっぽい。

だって、その証拠に隠ぺい効いてないしね。


「………」

「うーん、そっちが答えないなら、こっちも答えるきはないよ」

「……わかりました、答えられる範囲でお答えします」

「答えられる範囲ねぇ。まぁ、いいやそれで」


重要な情報を流せないっていうなら、俺もその程度の情報しか流さないまでだ。


──

─────

────────


今から数週間前のこと。

このとき、私は焦っていました。

それもそのはず、教会の司教であるベーグから「聖女様ッ! 勇者が現れましたッ」と、いきなり大音量で報告を受けたのですから。


なにごとかと尋ねたところ、公爵領であるクロスハートの一族から、すべての魔法言語を理解する少年が現れたというではありませんか。

クロスハートといえば、3年前に黒髪黒目の男の子が生まれたと聞いていたので、儀式のときはマークしておくように連絡していたのですが、どうやら功を奏したようです。


それに魔法言語の完全理解となれば、数百年前に召喚された勇者が持っていた力の1つと一致します。


故に、これはもう間違いないと確信した私は、すぐに女神様に祈りをささげ始めました。

聖女の立場上、早くその勇者とやらを見極めなければなりませんからね。


そこで役に立つのが、この私のスキル【運命視】。

他の聖女が持つ【予知】とは違い未来を見通すことはできませんが、この世の運命を紐解き、現在あるべき運命の元、相手の情報を引き出す能力です。


教会はこれを【鑑定】と偽り、大教会に行けばドラゴンでも鑑定できる測定器があるとウソの情報を流していました。


そこからは、さっそく聖女の加護の魔力を使い、石の女神像を媒介にして力を高めていくことに。

するとやはり、そこには少年と少女、たくさんの女性たちがいるのがわかります。

この少年からは神の加護を感じますし、この少年が報告にあった勇者なのでしょう。

私はそこへ意識を集中させました。


……しかし恐ろしいことに、少年からは「なんの情報も」得ることが出来なかったのです。

こんなことはありえない、絶対にありえないはず。

たとえ、【隠ぺい】スキルという、ごく稀に超越者達が持つといわれる希少スキルを極めたとしても、女神さまの力を媒介に発動される【運命視】を妨げる事はできないはずなのです。


私は意味がわからず焦り続けました。

……そして数分ほど混乱していたところであるこに気づきました。

それは、「魔王」。

そう、魔王です。


人々を導く女神さまと対を成す、世界を混乱と滅亡へ陥れる邪神。

その加護を持った存在に気づきました。

魔王には女神さまの加護が通用せず、唯一勇者の加護だけが魔王と渡り合うことが出来ます。

これはもう間違いないといって良いでしょう。


そこまで考えた時、私は恐怖で震えてしまいました。

魔王が近くにいる、それだけでいつこの王都が塵になってもおかしくはないのですから。

魔王とはそれほどの存在なのです。


ですが、私は諦めませんでした。

まだ相手は勇者と偽り人間の戦力を分析しているところなのでしょう、どうやってクロスハートの一族に成り代わったのはわかりませんが、そうであるならばチャンスはあります。


まずは勇者としてもてなし油断させ、情報を引き出すこと。

そして、勇者召喚までの数年間の時間を稼ぐ。

それができれば、何とかなるかもしれません。


勇者召喚までは10年前後かかりますが。その間、教会上層部のみで秘密裏に事を運び不意を打つのです。

きっと、これは私に与えられた使命。


かならずやり遂げてみせます……。



────────

─────

──



あれから、いろいろと情報交換をした。

あの声の主は聖女だったらしい、どうりで魔力だけが異常に膨れ上がっているはずだ。

聖女は俺を「勇者である」と認めたうえで、まだ公表しないほうがいいと結論づけた。

まだ勇者の力が発展途上である以上、魔族へ伝わる情報は少なければ少ないほどいいらしい。

魔王も然り。


そういうワケで、司教にも「わからない」「不吉なことがおきている」などと嘘をついていたらしい。


その後、聖女からは「勇者になってなにをしたいか…」とか「その力は人を導くために(ウンたらかんたら」などなど、そんな質問ばかりだった。

適当に答えておいたが、内容のない質問だったので焦って損したよ。


ちなみに、俺からは結構有用なことを聞き出せた。

隠ぺいの件についてははぐらかされたが、今いる聖女たちの主だったスキル、過去の勇者の伝説など今後の俺の成長方針になりそうな情報を得られたので満足だ。


その後満足した俺は、もう聞き出す情報がないと伝えると、その場でお開きになり解放された。

なんか拍子抜けである。


あと重要ではないけど、年齢とか知りたかったなぁ。


「ただいま~」

「……ッ!? ……ふぅ、大丈夫だったようだな」


パパンが出迎えてくれた。

心配性なパパンだ。


「おお、これはこれは。どうやら会見は済んだようですね」


司教もこちらを思いやった笑顔で頷いている。


「だいたい話は聞けたけど、中で話した情報は公表しないでくれって頼まれちゃった。まぁ別に悪いことじゃないから安心していいよ」


俺は当たり障りないように答えておいたが、これだと内心では勇者であることがバレてそうだな。

公表しないから関係ないけど。


「えへへへっ」


それからこの中で唯一、俺の事を心配していなかったフィッテが、「我、理解せしっ」みたいな顔でニヤついている。

……うん、カワイイ。


そんなこんなで王都への旅は幕を閉じ、2日かけてクロスハート領へともどってきたのであった。


聖女視点で見たら魔王になりました。

主人公には地球の創造神の加護でプロテクトがかかっています。

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