142 総力戦
扉を開けた先でとてつもない衝撃波を発生させながら衝突する大魔王と邪神。
一進一退のせめぎ合いのように見えて、若干カーネインが押されているようだ。
やはり神との2連戦はキツかったらしい、既に息が上がっている。
というか、邪神そのものが魔王に対して有利な存在なのかもしれない、まだまだ余裕を残しているように見えるな。
邪神側は真っ黒な巨躯に、人間なのか魔物なのかも分からない顔を何個もくっつけたような胴体。
全体を通した形は人なのだが、細部を構成する一つ一つのパーツが目だったり鼻だったり、この世の醜悪を集めたような存在だ。
初めて見たが、ハッキリとあれが悪魔を生み出してきた根源である事がわかる。
大きさは15メートル程だろうか。
「くっ、くくくっ、やはり自分を創造した神に歯向かうのは、ちょっと骨が折れるね」
『当たり前だ。いくら貴様が元の力を得て、また【サクリファイス】で今度は心の変わりに寿命を代償にしようとも、お前と私では相性が悪い』
おそらく魔族カーネインとしての力が通用しないのは、マイナスエネルギーによる加護は邪神ありきの力だからだろうと推測する。
だが、だからこそ奴は邪神以外の存在からも力を収集し続けたのだろう。
しかしそれを以ってしても、覆す事のできない力の差。
「だが、今ならばやれるな」
先程まではそこまでの勝算はなかったが、あの幻の空間を脱する時に得たこの力なら、負ける気がしない。
それにこいつが悪魔を作り出してきた根源だというのなら、俺も黙っちゃ居られない。
地球ではさんざんその悪魔に苦労させられてきたわけだし、一発殴らないと気が済まないんだよな。
「それじゃ、先手必勝!! 一気に畳み掛けるぞみんなっ!!」
「「「任せろ(て)!!!」」」
俺の掛け声と共に、それぞれが最大出力の強化を纏っていく。
エレンが聖剣を解放させて光の衣を纏ったかと思えば、ギル兄さんが竜王状態へ。
フィッテが精霊を取り込めば、ヴァニエが聖魔混合の力を発揮し、ファイスが詠唱に入りセレナが召還をしていく。
ミュラ姉さんはアテナに寄生された事がきっかけで得た能力を完全に引き出し、ルーシーが謎の魔道具を取り出す。
ユリアは、まあ、うん。
かくれんぼを発動しているようだ。
「ほれっ、ユリアとかいったかの、小童」
「な、なによっ!? 私はアンタらと違って普通の女の子なのっ!! そんな超人パワーアップなんてできないわよっ」
「そうではない。お主隠れるのが得意なら、隠れたまま攻撃せい。この偉大なる大魔導たるワシの魔道具を貸してやるから、遠くから狙撃すればええ」
「えっ、あ、……ありがと」
という事らしい。
まあみんな準備オッケーなら、さっそく畳み掛けるとしますか。
ちなみに蒼炎の絆は俺の切り札みたいなものなので、今は温存しておく。
連続使用が可能かどうかも分からないし、ここで全てを使い切ってしまうのは悪手だ。
今は普通に、クロスハートをギル兄さんに重ねがけしておこう。
「受け取ってくれギル兄さん、【クロスハート】ッ!!」
「むっ!? ……そうか、これがお前の見ていた次元か」
アンリミテッドスキルを掛けられたギル兄さんへ、フィッテ・ミュラ姉さん・俺・エレンから光の線が伸びていき、5倍竜王モードとして昇華された。
家族である俺やミュラ姉さん、同じく長い時間いっしょにいたフィッテから信頼を受けているのは分かっていたけど、まさかエレンまで繋がるとは思わなかった。
前に一度、闘技大会で接戦を演じた仲だったとは思うが、よほどエレンの心に残る試合だったのかもしれない。
今のギル兄さんならば、あのカーネインとタメを張れるレベルにまで実力が上がっているだろう。
「んん? なんだ君達は?」
「まあ、助っ人ってやつさ。こっちもこっちでちょっとした事情があってね」
一発邪神の顔をぶんなぐりたいんだよね。
地球で散々悪魔に嫌がらせれされた分の清算も含めて。
「……なるほど、それぞれが伝説級以上の力を備えた者たちのパーティか。君の顔をみるに、そちらもそちらで打算や思う節があるみたいだし、アイテムの借りもある、……一応、その言葉を信用しよう」
そして納得したカーネインが圧倒的な力で邪神をけん制している隙に、こちらのパーティーが四方八方へと散らばり、邪神を全方位から囲んだ。
さあ、どこまで耐え切れるかな、悪魔の神よ。
けん制されて動きづらいところをギル兄さんが直接攻撃でガリガリと削っていき、フィッテやファイスがギル兄さんを攻撃でバックアップ、エレン・ヴァニエがギル兄さんの盾役へと周り、ファイスとフィッテの護衛をセレナの召還獣とミュラ姉さんでカバー。
ユリアは見えないところから断続的に光線みたいなのを飛ばしているし、ルーシーはただ黙ってみている。
完璧な布陣だな、ルーシー以外。
『……ちょこまかと面倒なハエ共だ。……現世に干渉するための苦肉の策、私の分体程度ならまだしも、本体の私を倒せると本気で思っているのか? この世界の神程度であるアテナならともかく、数多の世界に点在する悪魔の頂点たるこの私に、お前ら如きが』
とかいいつつ、アンタ手も足も出てませんけどね。




