141 ゼノン・クロスハート
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ゼノンが現実のようで、幻のような何とも言えない夢から覚めると同時に、何もない真っ白な空間、そこで一人の老人がため息を吐いていた。
「……あの者は行ってしまったか。魂の扉を利用したのをいいことに、ワシのわがままで元の世界に戻してみたものの、彼がどちらの幸せを選ぶかはワシにも分からなかった」
老人はどこか昔懐かしそうに、成長した彼の姿を見て頷く。
「それで良いのではないですか、全能神よ」
「……フレイか」
「はい。あれほどの者を私の管轄に放り込まれた時は、一体なんの嫌がらせかと思いましたが、いざ見守っていれば楽しいものです。私、彼のファンになっちゃいました」
「そうか、そうか」
全能神と呼ばれた老人は、根源神フレイの言葉に嬉しそうに微笑んだ。
そう、この老人こそがゼノンを地球から異世界へと送り込んだ、神その人なのである。
「しかし、あちらの世界には邪神のやつの干渉を受けにくいと踏んで選ばせたのじゃが、今回の件でそれも仇となってしまっている。……人の願いを守りきれぬこのワシに、神を名乗る資格などないのかものぉ」
「いいえ、それは彼が後悔してしまったらの話です。ですが私は信じています、地球での彼がどんな苦難にも挫けなかったように、私の世界でもまた、輝き続ける存在であることを」
「…………」
そこで神とフレイの会話は途切れ、静寂が訪れた。
二人はまた、戦う事を選んだ彼を見つめ始める。
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歪んだ空間が晴れると、急に意識がハッキリしてすべての記憶が戻ってきた。
あの空間がなんだったのかは知らないし、現実だろうと幻だろうと関係ない。
俺の仲間達と生きる世界こそが、俺の本当の現実だ。
「おっす、みんなお待たせ」
「ゼノンくんっ!? 急に消えたように見えたけど、どこもケガしてないっ!?」
「バッカお前、この理不尽がケガを負ったところですぐ回復すんだろ。気にしすぎだ」
「もう、ファイス君は黙ってて! そういう問題じゃないのっ!」
「ははははっ! モテモテじゃないか弟よ、兄は羨ましいぞ」
俺が戻ってきた瞬間賑やかな喧騒に包まれたが、これでこそ帰ってきたって感じがするな。
やっぱ、俺にはこっちのほうが合ってるわ。
そういや最後の瞬間、妙なクロスハート状態になったが、あれはなんだったのだろうか。
なんか新しいスキルを獲得したかもしれないし、ちょっと見てみよう。
ステータスオープンっとな。
(アンリミテッド)
【蒼炎の絆】
アンリミテッドスキル【クロスハート】【蒼炎の魔神】の最強進化系。
自身と信頼関係を結んでいる仲間の数だけ、【蒼炎の魔神】を重ねがけでき、魔神化の対価となる魔力を消費しなくなる。ただし魔力が無限になるわけではないので、魔神化によりパワーアップした魔法や身体強化に比例して、魔法を使用する消費魔力量は増える。
とのことらしい。
クロスハートが強化系統全般の能力アップだったのに比べ、この最強形態は蒼炎の魔神に特化したスキルのようだ。
ただし魔神化にともなう技のパワーアップには、当然それに伴う魔力の消費量も増えるので、一発一発の威力がでかくなった分、燃費を気にする必要が出てきたわけだ。
まあ不死身の情熱の回復量は相当なもんだし、ポイントでとった回復系スキルもある。
なんとかなるだろう。
「んじゃ、さっそく向かってみますか」
目の前には宙に浮かぶ橋みたいなのが一本あるだけで、枝分かれはしていない。
外の景色は完全に雲の上なので、まるで天国まで続く道のようだ。
なかなか幻想的ではある。
そして一本道を進みしばらくすると、大きな扉と戦神アテナの姿が見えてきた。
あいつ生身だとあんな姿なんだな、なんか普通の女の子に見える。
というか震えてるみたいだけど、どうしたのだろうか。
「おっす、さっきぶり」
「ひっ、ひぃぃいいっ!! バ、バケモノ、バケモノォオオオッ!!」
「どうしたんお前」
なんかあちこち傷だらけだし、誰かと戦ったのかな?
いや誰かっていっても思い当たるのはカーネインしかいないが、あいつが生身の神を圧倒できるほどの力があったとは考えにくい。
神の次元はルクァンとかそういうレベルではないのだ。
「カーネインがっ、カーネインに殺されるっ、アァァアアアアッ!?」
「おっ、おい」
ダメだ、完全に正気じゃない。
いったい奴に何があったのかは知らないけど、尋常じゃない怯えっぷりだ。
もう戦闘は終わっているというのに、まるで落ち着く様子がない。
「ゼノンくん、ここはとりあえず進んだ方がいいよ。アテナちゃんには悪いけど」
「ちゃんって、……おま」
フィッテが神様にちゃん付けし始めたが、どんだけ肝が据わってるんだ。
でも確かに、このままじゃ拉致が明かないし先に進むとするかな。
……そして扉をくぐり先へ進むと、そこではちょうど邪神とカーネインが壮絶な戦いを繰り広げている最中であった。




