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140 現実か幻か


それからというもの俺は一日仕事に没頭し、ありえない処理速度とスタミナ、今までの俺にはなかったカリスマのようなもので仕事をパーフェクトに終えた。

自分でも驚愕だ。


それにしても会社の人たちの俺を見る目、少しおかしかったな。

なんか幽霊でも見るような目で見られていたし、ちょっと謎だ。


まあ最終的には俺の仕事ぶりを見せたら、細けぇこたぁいいんだよ仕事が出来ればみたいなノリになってたし、明日からはどうとでもなるだろう。


「なんか知らんけど超人になれたようでなによりだ」


さて、最後にラーメンでも食べて帰宅しますかね。

俺がいつも通っている薄暗い裏路地にあるラーメン屋は、麺の量が多い割りに値段が安い、まさに社会人の味方とも言えるような店だ。

今日もお世話になろう。


「ちーっす、店主、いつものお願いします」

「おう、あんちゃんか。最近顔を見せないから死んじまったのかと思ったぜ! ガハハハハッ!!」

「はははっ、人を勝手に殺さないでくれよ。この通りピンピンしてるぜ」


まったく、料理だけでなく冗談のうまい店主だ。

ていうか死んでたらここに居ないだろうに。


そして適当にラーメンが出来るのを待ちながら、店に取り付けられているテレビをボーっと眺めていると、ふと気になるニュースが流れてきた。


『2日前○○市○○区で発生した殺人事件ですが、会社から帰宅途中の男性(25)が強盗に襲われ病院へ搬送、その後病院での死亡が確認されました。同じく行方不明の高校生5人ですが……ており……現在犯人は逃亡……』


なんか画面に映ってる顔写真に見え覚えがあるけど、あれ?

いや、あれでもそれでもなく、どうみても俺だぞこの顔写真。


いやいやそんなバカな、勤めている職種も同じだし、地区も同じだ。

……何かのドッキリか?


「お、おいおっちゃん」

「んー? なんだー?」

「最近、変わった事なかったか?」

「そりゃおめぇ、このあたりで殺人事件が起きたことだろうよ。なんでも高校生を助けようとした大人が身代わりになって死んじまったらしいな。高校生の方も行方不明らしいし、ぶっそうな世の中になったもんだ」

「……高校、生。あれ、なにか思い出せそうな? ……っ痛!?」


店主の話を聞いていくうちに、何か大切な事を思い出しそうになったが、急に頭が痛くなり倒れそうになった。

なんなんだよ一体、今日の俺はやっぱり何かおかしいぞ。


「す、すまん店主、すごく気分が悪くなったから、やっぱ帰るわ。代金はここにおいていく、マジですまん」

「あぁ? あーまあそういう事ならしかたねぇな、顔色悪いしよ。きぃつけて帰んな」

「ありがとう」


そしてそのままふらふらと店を出て行き、あまりの気分の悪さに右も左も分からないまま路地裏をさ迷った。

くそ、吐きそうだ。


そして路地裏をしばらく放浪していると、ふと鉄の臭い、いや血の臭いの充満した場所に入り込んだ。

あれ、いつのまにこんな所まで来たんだ、おかしいな。


ていうか、あれはナイフを持った、……人?

そばに警察官が倒れているが、あのナイフを持った人間のような影からは翼が生えているし、まさか魔族か!?


って、魔族ってなに言ってるんだ俺、落ち着け。

とりあえずあの警官を先に救出しなければ、まだ息はあるみたいだしな。


であるならば、俺の回復魔法でどうとでもなる。


そして俺は無意識のうちに身体強化を全力で行い、警官の下へ走り出した。


「キヒヒヒヒッ!! 警官2名目の殺害、かぁんりょーう」

「そこをどけ雑魚魔族っ!!!」

「あぁ? オレサマの高貴なる種族を言い当てるその声は、まさか神社の関係……ぐはぁっ!!!」


俺の事をチラっと見かけた雑魚魔族だったが、全速力のダッシュにかれ、ボキボキッと嫌な音を立てながら吹っ飛んでいった。


「おい、大丈夫かあんたっ!!」

「……う、ぐぅっ」

「くそっ、今助けてやるっ! 魔力全開の回復魔法だっ!!」


そして内心パニックになりながらも全力の回復魔法を施すと、警官の意識は落ちたが傷は塞がった。

よかった、これで一安心だ。


教会のシスターちゃんから回復魔法を習っておいて正解だったぜ。


「ぐぁああっ! くそっ、貴様は一体何者だっ!? このオレサマをただの体当たりで追い詰めるなんざ、教会の大司教か神社のトップでも無理だぞっ!」

「あ? 何勝手な事を言ってやがる、お前が弱いだけだろうが。俺の知っている魔族には、この程度攻撃とも感じないパワフルヴァニエちゃんってのが居てだな……、あれ? 誰だヴァニエって」

「しらねぇよっ!!」


なんだ、今何かを思い出したような。

それに、なぜ俺はあいつが魔族だと分かるんだ?


いや確かに、立ち上る魔力からは隠しもしない魔族特有のオーラが出ているが、向こうの奴らは隠そうと思えばある程度隠せたはず。

……向こう?


何か、思い出してきたよう、……な。


「クカカカッ! しかし災難だったな、確かにてめぇの魔力操作はバケモノみてぇなレベルだがよ、俺の本領は物理面じゃねぇ」

「うーんと、えーっと。ヴァニエ、フィッテ、それから……」


なぜだ、なぜこうも心がざわつくんだ。

なぜか目からとめどなく涙が溢れてくるし、一体何がそんなに悲しいんだ。


俺は超人的な力を手に入れ、この世界でうまくやっていけるだけのステータスも得た。

仲間と呼べる奴は居ないが、それでもこの世界で……。


……仲間?


「……なか、ま」

「そう! 俺の長所は闇魔法だぁっ!! 今からすぐにでも貴様を地獄送りにしてやるから、覚悟しなぁっ! ゲヒャヒャヒャヒャッ!! くらえ、決して消えぬ業火【フレイムゴースト】ッ!!」

「そうだ、俺には仲間が居た……」


全身に闇魔法とかいうちょろ火を浴びながら、思い出した。

俺にはクロスハート家の家族、一緒に旅をした親友、頭の上にいつもいたスライム、そして俺のことを誰よりも信じてくれた女性フィッテが居た。


ここが現実なのか幻なのかは分からないが、俺には帰らなければならない場所がある。

こんな所で、この俺・・・が、偽の幸せに浸かっている場合じゃないんだよっ!!


感知がなんだ、幻がなんだ。

そんなもの、時空だろうがなんだろうが飛び越えて、俺の魂クロスハートで捻じ伏せるっ!!!


「う、ぉぉぉおおおおおおっ!! 誰だか知らないが、舐めるんじゃねぇ!!! 【蒼炎の絆ゼノン・クロスハート】っ!!!」

「ケペッ!?」


俺の解放した魔力にあてられて、どこの誰とも知らない魔族がちりになったようだが、それはどうでもいい。

膨大な魔力開放によって起きた衝撃は俺の周囲の空間を歪ませ、景色を変えていった。


だんだんと皆の魔力も感知できるようになってきているし、おそらく俺をここに封印した空間から解き放たれるのだろう。


まったく、めんどくさいトラップをしかけてくれたものだ。




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