138 ルーシーのおせっかい
「だからこそ、君に救われ続けた僕達が、君を助けられずにいるのが歯痒いのさ。ファイスも僕も、皆もね」
「…………そう、か」
「お姉ちゃんもねー、そういう事なら先に言ってほしかったかなー。だって、私は天才の弟のお姉ちゃんなんだよっ! きっと私にはお姉ちゃんパワーが眠っているはず、頼られてなんぼなんだよ」
「俺もだぞゼノン。父さんの背中と、お前という目標に救われ続け、今の俺があるんだ。アベルだって同じだろうよ、こういう時こそ俺たちを頼れ」
「私もですわ。世界を見る事ができなければ、今の私はありませんでしたもの。それはユリアやセレナだって同じはずですわ」
「…………」
やはり、何も分かっていないのは俺だった。
転生の時に少しばかり力でリードして、ちょっとばかり強くなったくらいで思い上がっていたのかもしれない。
これは少し頭を冷やした方が良さそうだ。
転生前の俺とは違う、今の俺には仲間がいる。
それは転生前の俺にとって、何よりも欲しかった物じゃないのか。
何よりも望んだものじゃないのか。
いったい何のために、神の爺さんからチャンスをもらったんだ。
今までの何かもを清算し、こういう仲間を得るだめだったろう。
なら、もう迷いはしない。
「わかった。なら、頼らせてもらう。今から全力であの大魔王を助けに行くぞっ!!」
「うんっ! それでこそボクの英雄だっ! ボク達がいれば、ゼノン君は無敵なんだからっ!!」
フィッテの掛け声に、全員の顔が緩んだ。
まったく、敵わないな。
「そうと決まれば、さっそくカーネインの奴と合流しよう」
おそらく奴は最も神々に近い場所、空島に向かっているはずだ。
扉を開くにもなんにしても、あのフレイの管轄下にいかない事には始まらないだろうしね。
そしておそらく、魂の扉の先では邪神の邪魔も入る。
ここまでちょっかいを出してきた奴が、自分の手から離れたカーネインを再び欲しないはずがない。
魂の扉をくぐった事をいい事に、俺たちを含め手中に収めようとするはずだ。
実際にアリサさんの件でその節はあったし、それが無理なら絶対に存在を消しに来るはず。
面倒くさい奴だな。
それに、アテナの寄生や邪神の分身程度であれほどの戦力なんだ、本体との戦闘なんて正真正銘、神に挑む境地だ。
本来の力を取り戻したカーネインですら一対一で勝てるか怪しいぞ。
こちらが勝手にやる事である以上、フレイが加勢するかどうかも分からないし、はっきり言って今のままでは不利だな。
「だけど、……俺はあいつに思い知らせてやりたいんだよな」
一人でなんでもやろうとするカーネインの奴に、一人でなんでもやろうとした俺にだって仲間が出来たぞってな。
「んじゃ、行くか」
「うんっ!」
そしてフィッテを初めとして全員が俺の手のひらに触れ、瞬間移動した。
「という訳で、久しぶりだなルーシー」
「なーにが久しぶりじゃ弟子一号。そんなぞろぞろと連れてきおって、戦争でも始める気か」
「ゼノン兄さん、久しぶり!!」
まあ、さっきまで戦争みたいな事をしていたし、あながち間違ってもいないかな。
出迎えてくれたルーシーやアベルには悪いけど、ちょっとここら一帯が荒れるかもしれない。
「ま、小童共が来るのはだいたい分かってたんじゃがな」
「まじかよ幼女」
「幼女とはなんじゃっ!? ワシは完璧なレディじゃろっ!! この腰のくびれを見んかいっ」
「……まったくないな」
「冗談じゃ。まあ腐っても時空魔法の開発者、このくらいの予知くらいは余裕だということじゃの」
冗談かよっ!?
相変わらずこの魔導幼女は何がしたいのかよくわからない。
「それほら、アレじゃろ? 今ヤバそうな魔王が白竜の奴と戦っておるし、こういうイベントにはお主らもノリ気なのかなーと」
「って、ルクァンと戦ってるのかっ!? あの大魔王は何がしたいんだ」
「なにやら大規模な魔法を使おうとしていたのがバレたらしくてな、白竜の方から喧嘩を売りに行ったみたいじゃぞ」
そっちかぁ。
なるほど、分からなくもない。
女神を守護する白竜からすれば、あんなヤバそうな奴普通は放っておかないよな。
そりゃあ戦いになるわ。
「よし、それじゃあ止めに行くか」
「気をつけて行ってくるんじゃぞぉ~」
「何言ってるんだ、ルーシーも行くんだよ」
「……のじゃ?」
のじゃ、ではない。
どう考えても戦力になるこの幼女をそのままにして行くとかあり得ないから。
ハンカチをフリフリしても無駄だ。
「じゃ、一旦外に出るか」
むんず、と幼女を抱きかかえて外行きの魔方陣に乗っかる。
「は、はなせぇ~ケダモノォ~!! ワシのプリチーボディーに魔の手がぁ~」
「「「それはない」」」
「のじゃぁ……」
まあ逃げようと思えば瞬間移動で逃げられるのに、そうしないって事はついてくる気はあるんだろう。
それに、さっき見たカーネインの奴が既に空島に居るって事は、ここの場所を教えた存在が居るはずだ。
俺は間違いなくこの幼女だと睨んでいる。
「まぁ? ワシも暇じゃったしぃ? たまには何か刺激が欲しいかなーなんて」
「いや、俺まだ何も言ってないから」
「そうじゃったか」
いろいろとツッコミたいが、たぶんこの幼女なりに俺に気を使ってくれたのだろう。
さっき予知で俺たちの行動を把握してたみたいに言ってたしな。




