137 重ねた過去
勇者の願いを手放し、魔王の怒りを亜空間にしまった俺は、エレンをサンドレイク帝国で回収し王都カーデンまで戻ってきた。
横でファイスが色々と文句をいってくるが、まああれは行き成りすぎたからな、仕方ない。
カーネインの奴がすぐにどっかいきそうだったので、説明する時間がなかったんだ。
ちなみにエレンの方は神聖騎士の物量作戦だったみたいで、帝国の武力とエレンの守護により圧勝で終わったようだ。
まあ、本命はアテナが出現した俺の祖国カーデンと、魔大陸と因果のある教国だっただろうしね。
根源神フレイから授かったユニークスキルと、勇者装備をもつエレンがそうそう負けるとは思っていない。
「というわけで、ギル兄さんやミュラ姉さん含めて、とりあえず全員集合だな」
現在はアテナと戦闘になった王座の間におり、意識の戻ったミュラ姉さんと、戦いが終わり一息ついているギル兄さんも一緒だ。
「あらゼノン、おかえり。やっぱり天才の弟がパパッと解決しちゃったねー、お姉ちゃんはそうなるんじゃないかと思ってたんだよ。あの駄神に乗っ取られている時も若干意識あったし、見てたんだよ?」
「ハハハハハッ! こいつはこの俺の弟だぞ、当然だ」
「はいはい、ギル兄さんは弟の事になるとすぐに上機嫌になるんだから、相変わらずだなー」
ほんまいかいな。
俺はギル兄さんと戦いでの接点しかなかったけど、結構気に入ってもらってたんだな。
いつも険しい顔をしているから気づかなかった。
「おいゼノン、そんな事よりてめぇ、そろそろ説明しやがれ」
「分かってる、約束どおり今説明するからまってろ」
「……チッ」
さて、ここからが本題だ。
俺が渡したあの復活のアイテム【勇者の願い】だが、その詳細を説明しようと思う。
まずあのアイテムの説明はこうだ。
【勇者の願い】
└リバースLv.--
└救いの手Lv.--
└不滅Lv.--
(アクセサリースキル)
【リバース】
勇者の願いを叶えた証。
一度だけ死亡から復活する。
世界の感謝が込められている。
【救いの手】
一定の威力以下の攻撃を防御結界で弾く。
魔力は消費しない。
【不滅】
絶対に壊れない
以前に鑑定した通り、このままでは普通に死亡から復活できるアイテムのように見えなくもない。
ただ、この復活には条件があるのだ。
以前弟のアベルとなんちゃって囲碁の勝負をしたときにルーシーから説明を受けた、「魂の扉」とやらが関わってくる。
ルーシーの解説によれば、「魂の扉」とは死者の魂や神としての属性を持つものが集う、エネルギーの集合地帯みたいな場所という認識だった。
このアイテムを入手した時にも根源神フレイが言っていたように、この異世界で死んだ勇者達も彼女の管轄下に置かれ癒されていたのだ。
つまり仮に誰かを生き返らせるのならば、その「魂の扉」潜り抜け集っている魂を特定し、さらに神々の管理を突っぱねて肉体に本人の魂を定着させなくてはいけない。
だが、【勇者の願い】にはリバースというスキルの効果により、一度だけ復活するとしか書かれていない。
追記みたいな形で世界の感謝を受けたと記載されていることから、根源神フレイの管轄下なら管理を突っぱねるって事にならないだろうけど、扉をくぐり抜ける作業と死者の特定、そして定着の両方を行える訳じゃないのだ。
よって、おそらくここで言う復活というのは、扉をくぐり抜ける効果か、魂を肉体に定着させておく効果の事なのだろうと推測される。
仮に俺が死んだとすれば、肉体が消滅しない限り魂が定着されたままになり、他人からの超越的な回復魔法があれば瀕死の状態で復活できるという程度のものなのだろう。
あくまでも可能性の話だけどね。
まあ俺の場合は不死身の情熱があるので、アクセサリーをつけたまま放っておけば、定着するという効果の場合は復活するかもしれない。
だが定着時間にも時間制限もあるだろうし、完全に死んでしまってから復活すると言うわけではないのだ。
だからこそカーネインがアンリミテッドスキル、【サクリファイス】で呼び寄せた奇跡でアリサさんの魂を呼び戻そうとしても、それだけでは肉体に定着せずに失敗に終わったのだろうと思われる。
つまりは、その程度の効果でしかないのだ。
ここだけの話、転生者の俺が言うのもなんだが、そんなポンポン生き返っても気味が悪いしね。
このくらいが神々側からも最大限の譲歩なのだろう。
「という訳だな。おそらくカーネインの奴は収集した膨大なスキルを対価に、サクリファイスでアリサさんが眠る魂の扉を抉じ開け、勇者の願いで再度定着させる予定なんだろう」
「……てめぇ、そんな重要な情報を今まで黙ってやがったのか」
「すまんな、こういう時でもないと話す機会も無かったんだ。あのアイテムを手放した事は、正直悪いと思ってる」
まあファイス含め、俺たちパーティが一緒にクリアした迷宮のアイテムだもんな。
独断で渡した事はすまなかった。
「そうじゃねぇ、ちげぇだろ。……そうじゃねぇ」
「ん? どういうことだ」
「チィッ、くそがっ!!!」
なぜかブチ切れたファイスが床に拳を叩きつけ、黙り込んでしまった。
「ゼノン、僕がいうのもなんだけど、それはあんまりだ」
「おいエレン、それ以上言うんじゃねぇ」
「いいや、言うさ。僕らはパーティだからね」
いったいなんだというんだ。
みんなの顔も真剣そのものみたいになっているし、何か雲行きが怪しいな。
「君が何か僕たちに隠し事をしていて、いつもどこか達観した様子で、それでいて何よりも僕ら仲間を大切にしているのは知っているつもりだ」
「そ、そうか? 改めて言われると恥ずかしいな」
確かに仲間は大事にしているつもりだが、面と向かって言われると照れるものがある。
もしかしたらみんなは何か勘違いしているんじゃないか?
俺はただ、必要だと思った事をしただけなんだけどな。
しかし、次に聞こえたエレンの言葉は、俺の核心を突くものだった。
「だが、だからこそ今回のはダメだ。アイテム云々じゃなくて、なぜ君が今助けたいと思っている人の事を、僕たちに教えてくれなかったんだ」
「…………」
「態度を隠しても無駄さ、分かるよ。君は今、どこかあの大魔王を自分と重ねている。一度失った大切なものを取り戻すために奮闘している彼と、過去の自分をね」
「…………」
……ああ、そうか。
そういう事か。
どうやら、勘違いしていたのは俺の方だったらしい。




