14 視線を感じる。「返事がない、ただの石像のようだ」
視線が気になります
翌日、俺は宿でパパンから話を受けていた。
「ゼノン、本当にいいんだな?」
「うん、僕は大丈夫だよ」
そう、勇者のことである。
パパンは勇者になることにリスクやしがらみ、その他には教会の脅威などを何度も説明してくれた。
俺は勇者でないことがわかっているので、教会が勇者認定をすればどういう思惑があるのかなど手に取るようにわかる。
とくに気にすることもなく協力的な姿勢でいた。
昨日の王城で王のおっさんが話したように、協力的であれば連れていき、そうでなければ隠し通すことにするつもりみたいだ。
まぁ、あの時は考える時間が必要だろうと一日時間をもらったが、正直俺の立場で教会にいかない理由がないんだよね、むしろデメリットのが多い。
どうせ勇者じゃないのに隠し通すなんてことになったら、俺は自由に行動できなくなるし将来にも影響が出る。
そうなればレベル上げも修行もできなくなり、結果あるか無いかわからない脅威に対して何の力も持てないことになってしまう可能性が高い。
それだけはアカン、絶対にダメだ。
よって俺は、正々堂々と正面からいくことにした。
「まぁ大丈夫だよ父さん、勇者の力っていってもその一部でしょ?なら勇者と決まったわけじゃないと僕は思ってる」
「それはそうだが……」
パパンは相変わらずだな、この世界の権力者はいい人が多い。
俺が悪い部分を知らないだけかもしれないがな。
「そんな事ないよ! ゼノンくんはぜったいっぜーーったいに勇者だと思うっ!」
フィッテが妙に確信をもったことを言ってくるが、なんでお前自信たっぷりなん。
悪い気はしないけどね。
あのあと、ギルドから帰ってフィッテはパパンと俺の話しを聞いていた。
最初、フィッテは勇者がなにか分からなかったみたいだが、説明していくにつれていつものように興奮しだした。
エルフの森に伝わる「精霊の英雄様」と同じような存在だったらしい。
どこにでもあるんだな、そういう話し。
たぶんどっかの時代の勇者と同一人物だと思うが。
ちなみに、俺が冒険者ギルドに行ったことをメイドさんはパパンに話さなかった。
たぶん家名を伝えなかったことで意図を汲み取ってくれたんだと思う、フィッテには帰りに内緒にしてほしいと頼んでおいた。
「わかった、お前はこの話を理解できていると思うし、納得もしているんだと分かる。大教会に連れて行こう。ただし父さんがお前のためにならないと感じたら、問答無用で連れて帰る事にする。わかったな?」
「わかった、いいよ」
そんなこんなで大教会に向かった。
今回は王城などではなく、国民全員が利用する教会なのでフィッテもメイド達も一緒についてきた。
ちなみに大教会とはいっているが、教会の本部はここではない。
教会・冒険者ギルドなどは国をもたず、独立して国に絡んだ組織だ、だからこそ、勇者をクロスハート家と王家だけが抱え込むのが問題となるのである。
政治的にも軍事的にもね。
とりあえず隠ぺいは先にしておこう、どのタイミングで鑑定されるか分からないしな。
考えているうちに、教会らしき荘厳な建物が見えた。
「ついたな、父さんは司教と司祭に連絡してくる。お前たちはそこでまっていてくれ」
メイドさんに指示を出すパパン。
パパンが帰ってくるまで暇なので、せっかくだからこの世界の女神さまと思われる石像の前で祈ってみることにした。
石像から視線を感じるし、なんかいいことあるかもしれない。
「……」
俺は手を組み片膝をついた。
「……」
フィッテも真似してきた。
………………。
…………。
……。
「……」
……なにもおきなかった。
なんか視線を感じていたんだがな、気のせいか。
「よし、お祈りはこんなものでいいだろう」
仕方ないので立ち上がり、フィッテとぶらぶらすることにした。
「えへへ」
そうこうしているうちに、パパンが初老の男性をつれてもどってきた。
「ゼノン、司教様だ。挨拶しておけ」
「はい。ガーデリオン王国公爵家、次男のゼノン・クロスハートです。3歳です」
歳を言う必要はなかったが、おちゃめってやつだなっ!
「ハッハッハ、これはどうもご丁寧に。私はこの教会の司教を勤めさせて頂いております、ベーグと申します。3歳にしては利発なお子さんですな」
「自慢の息子だ。さっそくだが鑑定に取り掛かりたい、用意をお願いする」
「はい、わかりました。ではゼノン君、石像の前にお願いします」
ん?
石像の前?
やっぱなんかあるのかっ!
来る前に隠ぺいしておいてよかったぜ。
「その石像の前で、自然な態勢でじっとしていてくださいね、私は別室で鑑定結果を見てきます」
え、ここで鑑定するのに司教は別室にいくのか。
どういうことだ?
「……」
しばらくじっとしていると、司教が戻ってきた。
しかし、その顔には以前の優しい笑みはなく、どこか悲痛な面持ちをパパンに向けていた。
「失礼ですが、ゼノンくんだけ別室に来ていただけないでしょうか。鑑定結果としては勇者かどうか、分かりませんでした。こんなことは初めてです、別室にいる間、ロイル殿は私と少し話をお願いいたします」
「……なに?それはどういう事だ、説明も受けずに了承なんてできるワケがないだろう! この子はまだ3歳だ、そんな理由で孤立させるわけにはいかない。もし勇者であると分かった上でアンタがウソを言っていない保証などない」
「……しかし」
おや、隠ぺいしたから勇者でないのはわかるが、「わからない」ってなんだ。
なんか裏がありそうだな。
「いいよ父さん、別に個室なら問題ないでしょ。父さんならそこに脅威となる人物が潜んでいるかわかるはずだよ」
「……そうだが、それでも危険だ」
「いえ、どうか信頼してください。危険はなく、危害も加えないと司教の立場として女神様に誓います」
「……むぅ」
司教の立場で女神に誓うということは、本人だけでなく、教会を背負うということだ。
おいそれとできる事じゃない。
「わかった。が、私は部屋の前で待機する。それが出来ないのならこの話は無しだ」
「分かりました、それでお願いいたします」
こうして俺は別室へと案内された。
フィッテは勇者かわからないと説明されても、「ゼノンくんは勇者だよーっ」と信じ切っていた。
この子が俺のオアシスやぁ……。




