132 片足だけで戦ってあげようか?
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ギールが切り掛かり、アテナがアンリミテッドスキルを使用した直後、ミュラの周りに巨大な女神の姿をかたどったオーラがまとわりついた。
ミュラを核として女神の肉体が形成されかけているようだ。
「なるほど、それがお前の姿か」
「……人間とは実に愚かですね、神の肉体に人の武器が通用する訳がないというのに」
降臨したアテナにギールが全力で切り掛かるも、女神の皮膚を傷つけることはできず剣がアテナの肉体に止められていた。
何度攻撃しても完全な無傷である…
「いくらやっても同じですよ。…しかし、いまから死にゆく命とはいえ人は人、一撃で殺してあげましょう。私の慈悲に感謝しなさい」
「…………」
「無言ですか、それもまた潔くてよいでしょう。神具召喚【神槍】」
アテナから無属性の魔力がほとばしり、あふれだしたオーラが槍の姿として顕現した。
「感じられる魔力の質からして、無属性といったところか。…神の槍にしては普通だな」
「…戯言を。無属性とは根源の力、他の属性など本来は飾りなのですよ。…それではさらばです【神聖槍・閃】」
………ズゴォオオオオオンッ!
……
…
アテナが神槍を突き出した瞬間、刀身から極太のエネルギーが放たれギールに直撃した。
拡散しないはずの一点への攻撃にもかかわらず、突き出す動作の余波だけで謁見の間にひびが入るほどだ。
「やはり一撃…あっけないものです、無駄な時間を費やしました」
攻撃によってほこりが舞い、確認もせずにギールを仕留めたと認識したアテナはそのまま立ち去ろうとした。
…しかし、そこに待ったがかかった。
絶対防御で攻撃を防ぎ、契約魔法で竜王状態になったギールから闇の斬撃が飛んできたのだ。
「……貴様は人間を舐めすぎだ、油断が過ぎるぞ【暗黒竜剣・閃】」
「なっ!?…ガハッ!?」
「…ふむ、どうやらギラの魔力は通るようだな。そら、どんどんいくぞっ!【暗黒竜剣・閃、閃、閃、閃】ッ!!」
次々とギールの剣から闇の斬撃が飛び出し、女神の肉体を削り取ってく…
元々黒竜王と白竜王は女神フレイの力と直接かかわる存在であり、神に多少なりとも干渉する力を持っている事になる。
それ故、攻撃を完全には防ぐには至らなかった。
「ガハァッ…人間風情が黒竜の王と契約を結んでいるのですかっ!?くっ…」
「……そんな事はどうでもいい。俺にとっては家族を蝕み、妹の今までをめちゃくちゃにしてきた貴様を倒すだけだ。後悔しろ女神……【暗黒竜剣・爆】ッ!!」
ギールの全力を伴った一撃が女神の片腕に直撃し、巨大な腕がズリ落ちていく。
…しかし、そこでギールの竜王状態も切れてしまった。
「はぁ…はぁ…手こずらせてくれますね、その力はこの大陸のヴァルキュリアと言ったところなのでしょうか?…まあ今となってはどうでもよい事です。既に力を失った貴方を排除し、この大陸を手に入れるだけ。…確かミュラの話しでは弟が居たようですが、貴方以上と言う事はないでしょう」
「……弟が俺以下?…………ク、ククク…ク、ハァーハッハッハッハッ!!!」
片腕を失うほどのダメージを負わせた彼に対し、ゼノンへの評価を決めたつけたアテナにギールが吹き出した。
女神が全くもって見当違いな見解を持っていると言う事に、笑いを堪えられないようだ。
「何がおかしいのです。もはや攻撃する手段もない貴方にはどうすることもできず、私の再生を止める事も出来ないでしょう?」
「クッ、ククク、…いや、そうじゃないんだ。ただおめでたい頭をしていると思ってな?気にしないでくれ。…あと、うしろに気をつけた方がいいぞ」
「何を言って、……グギャァアアッ!?」
ギールが忠告をした時、後ろから超振動する鋼鉄の剣が突き刺さった。
ゼノンのスラキューソードである。
「…ギル兄さん、待たせた」
「おう、待った」
最強の理不尽が到着した……
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フィッテとユリアを連れて猛スピードで飛行すること1分弱、ギル兄さんが戦っている現場に辿り着いた。
…だがギル兄さんが善戦しているようなので、しばらく待機して後から不意打ちをかけることにしようと思う。
幸い女神の方からは後ろになる形で発見されづらく、戦闘中にもかかわらず油断しまくっているみたいなので好都合ってわけだ。
ギル兄さんはバリバリ気づいているみたいだけどね…
せっかくだし魔力の回復もしておこう。
「(ゼノンくん、ギールさんはやっぱり強いね…)」
「(まだ完全な状態じゃないとはいえ、なんでアテナ様にダメージが入ってるのよ?…理不尽の兄もまた理不尽ってことね、把握したわ)」
まつんだユリア、ギル兄さんは努力だけであそこまで登りつめたんだ、チートもなしにスタートしたんだからギル兄さんはすごいんだぞ。
そんな感じでだらだら見張っていると、竜王状態も解けて万事休すって感じの所でアテナがさらに油断しだした。
…攻めるならここらへんかな?
いけっ、スラキューソード!
……ザクッ
「…グギャァアアッ!?」
よし、効果はてき面のようだ。
「ギル兄さん、待たせた」
「おう、待った」
やっぱり最後の会話は時間を稼いでいたらしい…
まあおかげで不意打ち出来たんだけどね。
それにダメージの蓄積と同時にアテナの降臨率も上がってきているし、倒すならここしかない。
一気にクロスハートで決めちゃおうと思う。
「それじゃ女神さん、悪いけど一気に決めさせてもらうぞ…まずは【蒼炎の魔神】からの、アンリミテッドスキル【クロスハート】っ!!」
【クロスハート】により俺の体から光が飛び出し、フィッテ・スラキュー・ユリア・ギル兄さん・ミュラ姉さんと繋がったようだ。
…まさか女神の体にクロスハートの光が突き刺さるとは思わなかったよ。
弟の事をどんだけ信頼してるんだミュラ姉さん…
オーラによって形成される不安定だった肉体が人間の体に近づいてきているし、向こうも本気のようだ。
それに腕も再生してきてるんだが、どうにも負ける気がしないな…
おそらくクロスハートの倍率がやばいからなんだと思う。
現在の倍率は6倍だが、奇跡の炎の強化効率上昇でさらに1.5倍くらいになっている実感がある。
蒼炎がバチバチとスパークを起こしているし、9倍になるとこうなるのか…
こりゃあ無敵だわ。
「…よっし!準備完了。それじゃラストバトルと行こうか女神さま」
「…なんなのですかその魔力量はっ!?くっ、【神聖槍・突】ッ!!」
さすがに油断できないと判断した戦神アテナの本気の突き攻撃が飛んできた。
…たぶん本気だと思うよ、めっちゃスローに見えるけど。
ちょっとパンチしてみよう。
「よっと!」
…ズンッ!
……バキバキバキッ
槍の矛先にパンチしたら槍が粉々になってしもうた。
「~~っ!?ば、化け物…」
「なんだ、神槍って言ってもこんなもんか。…これじゃ勝負にならないけど、腕一本で相手してあげようか?それとも足一本がいいかな…」
「くっ…完全に計算外です、今の器では勝てそうにありま…ゲフゥ!?」
隙だらけだったのでとりあえずパンチをお見舞いした。
胴体にクリーンヒットしたせいか、体に風穴があいている。
「…わるいけどさ、ミュラ姉さんにしたことは俺も怒ってるんだ。だから一回ぶっとばされて反省しててくれ。…それじゃこれで終わりだ、超・全力のパンチ!!」
…ズドンッ
「~~~ッ!?……ッ!……、…………」
拳がヒットした地点から女神のオーラが消し飛び、散り散りになっていった。
死ぬ直前に散り散りになったことで、オーラを拡散し逃げたようだな。
まあ大ダメージを負ったことは間違いないだろうし、あれだけボコボコになれば百年や二百年じゃあ力は取り戻せないだろう。
あとのことは根源神のフレイ姉にまかせておけばいい。
…その後、スキルの核となったミュラ姉さんも無事に解放されたようだ。
カーデリオン王国もアテナ無しじゃ落とせないと思うし、魔力が回復したらみんなを回収してまわろう。
全部終わったらカーネインの計画実行までの数年間は一件落着っていったとこかな。




