123 勇者発見!…ちょっと盗み聞きしてみよう
馬車に揺られて2週間…
ときたま寄る村なんかを点々として、ようやく王都付近までたどり着いたようだ。
他の皆もだいぶ後ろからついてきているみたいだし、うまく隠れながら追尾できているようだな。
「…ふわぁ~、そろそろ王都ってところかな神聖騎士さん」
「おぉ!少年も長い間ご苦労だったな。最初はマズい飯なんかを食わせてわるかった!勇者さまには内緒でな?ハッハッハッハ!」
…神聖騎士さんがめっちゃフレンドリーになっていた。
最初のうちは俺を誘拐犯として扱っていたようだが、ツインテちゃんの猛抗議と俺のあまりの気の抜けた態度でこれは違うと思ったらしい。
…神聖騎士っていっても貴族階級じゃ下っ端だしね、悪意からの拘束というよりは上からの指示通りに動いていただけって事なんだろう。
ぶっちゃけて言えば、もう一緒に乗った騎士3人はだいぶ前から俺と普通に話している。
「それにしてもレーヴァテイン家のお嬢さんを行方不明にしてまで召集するなんざ、上は何を焦ってるんだろうなぁ。少年も巻き添えくらっちまってるみたいだし、踏んだり蹴ったりだな」
「ほんとメンドクサイわ…この私があの欲望タラタラの勇者に会いに行かなきゃならないなんてね。会った瞬間に殴りかかるのを我慢できるかしら…」
そんなに嫌いなのかツインテちゃん…
まあどっちにしろ武力解決にはなるとは思うけどね、この流れ的にあっちもそのつもりだと思うし。
どうせ戦うなら早く王城に行って勇者さんと面会したいものだ。
俺をいちいち拘束してくる以上は向こうもこちらに興味があるんだと思うし、たぶんすぐに会うことになるとは思うんだけどね。
あと、俺の脱出用のアイテムとしてユリアに瞬間移動用の容器の1つを渡しておいた。
王城についたあたりでそこらへんの草むらに捨てておいてくれれば、牢屋からすぐに脱出できるっていう寸法だ。
…まあこれで残った容器は2つになったわけだが、正直どこかで補充しときたい今日この頃。
ちなみに手元から離れている容器は以下の通り。
フィッテ、ユリア、クロスハート家の屋敷、アカデミア、煉獄界のキャシー宅、煉獄界神社、孤児院、時空幼女の部屋。
…この8個だな。
いまさらだが、容器をハドウに渡して魔王城なんかに置いてもらっても良かったなと思っている。
ほんとに今更だけどね…
今度会ったら渡しておこう。
そんな感じで取り留めもない事をダラダラ考えたりしていると、やっと王都へと辿り着いたようだ。
自国の騎士が通行するのにチェックとかは必要ないし、通常の門ではなく業務用の門から入ったっぽい。
門の中には王都にいる別の騎士さんがおり、ここまで来た騎士さんから俺とユリアの案内を引き継ぐようだ。
「よし、俺たちはとりあえずここまでだ。裁判は恐らく無罪になると思うが、もし軽い罪なんかが被せられても怒るなよ?そういうので更に罪が重なっちまうからな」
「ほい、りょうかい~」
無罪にはならないと思うけどな、あちら的には俺を極刑にしたいだろうからね。
その後はユリアがこの国の王城へと連れていかれ、牢屋行きの俺とは別行動になった。
新しく引き継いだ騎士の話を聞く限りでは、俺も王城の地下牢に連れていかれるみたいな感じだったし、幽閉されている間に色々と話しを進める気なんだろう。
恐らく話しの内容なんてあってないような感じなんだろうけど、王城で召集をかけられるだけあって既に下地はできているのかもしれない。
…というか、そもそも話しなんて進めさせないけどね、俺の方も分身を残して脱走する気満々だし。
そして城へついてから歩くこと10分、どうやら地下牢へたどりついたみたいだ。
「よし、お前はここで待機していろ」
「うぃ~っす」
……ガチャン。
牢の扉が閉められた。
ふむ、それじゃあ早速脱走するかな!
分身作成っと…
ボンッ…
現在込められる限界である魔力残量500の分身は、何もしなければ丸一日以上はもつ。
ということで分身はこのまま放置だな…
とりあえず外に出て、飛行魔法かなんかでユリアの居場所までひとっとびしよう。
「じゃ、あばよ地下牢!【瞬間移動】」
…そこらへんの草むらに転移した。
どうやら人気のいないところに転移できたみたいだが、このまったく手入れのしていない草をみるに、かなり遠くに容器を投げ捨てたなあのツインテ…
魔道具用だから丈夫だし良いんだけどね。
何はともあれ、さっそく勇者さまのところに飛んでいきますかね。
飛空魔法でふわ~っと…
そしてツインテちゃんの魔力を探りながら飛び続けること30秒、王城の一角にそれらしい反応があった。
…微妙に一般の騎士よりは強い反応もあるみたいだし、これが勇者さんってやつかな?
ちょっと窓から盗み聞きしてみよう。
「どういう事よ、なんで王や上層部の貴族がアンタなんかの言いなりになっているワケ?絶対おかしいわ!」
「ゲヒヒヒヒッ!…そりゃそうだ、彼らは俺のユニークスキルである<ガチャ>の景品によって魔道具のコントロール下にあるみたいだからな。アイテムにはマイナスなんちゃらっていう詳しい効果の説明があったけど、魅了が使えればなんでもいいわけだっ!…なぜかあのヴァルキュリアには通用しなかったみたいだけど、まったく忌々しい…」
「ひっ…み、魅了ってアンタ、魔族のスキルじゃない。ちょっとこっちこないでよ!」
ふむ、どうやら魅了系の魔法を主とした魔道具を持っているようだ。
ガチャって言ってたし、何らかの条件でガチャを回して景品が出てくるスキルかな?
いろいろと面白いスキルだ。
だが奴が権力層を揃って手中に収めていた原因も解明した、ようするに魅了の魔法で人間を操ってたってことらしい。
こうなると、解決方法はあの魔道具を壊すか魔法反射になる訳だが…
魔道具を壊しただけで魅了が解除できるか分からないし、勇者をしばいた後に該当者へ魔法反射をかけていくのが無難だと思われる。
「ヒヒヒッ!分かってるって、ユリアは報告にあったあの黒髪が好きなんだろ?魅了をかけたあとにすぐに殺しておいてあげるからさ、安心してくれ」
「…汚らわしい。アンタなんかにアイツが負ける訳ないじゃない、バカじゃないの」
やっぱり俺が死ぬ前提で話しが進んでいたらしい、分かりやすい奴だな。
ちなみに奴を鑑定してみたところ、レベルは30付近だがやたらとスキルが多い。
恐らくこのスキルもガチャの景品とやらで手に入れた能力なのだろう。
まあでもこれで相手の手の内は全てわかったし、魔力感知的にもここにある魔道具の反応はあれだけみたいだ。
俺が足元をすくわれる可能性はほぼ消えたってことになる。
「よし、だいたい事情は掴めたしぶっとばそう」
実は俺、人を操るとかっていろいろ嫌いなんだよね…
それじゃ【瞬間移動】…!
「…おっす!外道さんこんにちは!ぶっとばしにきたよ」
「なっ……」
「ゼノン!…アンタくるの遅いわよ!!」
唐突に現れ申した。
タイミングに関しては間に合ったんだし許して欲しい所だ。
っていうか外道さんが口をパクパクさせているし、転移系の知識はなかったのかな?
まあなんでもいいや!




