114 決闘
さて、伯爵家に到着したわけだがこれはある意味いい機会だ。
メンドクサイ事に巻き込まれそうっていうのはデメリットだとしても、それ以上にこの世界で俺たちの後ろ盾になってくれそうな存在はでかい。
執事さんも謝礼がどうこういっていたし、おそらく友好的な話しに繋がると見て間違いないだろう。
「それではお嬢様は先に主の元へ、私はお客様を案内してまいりますので」
どうやらツインテちゃんには屋敷のメイドが付き添い、執事さんは俺たちの案内をしてくれるっぽい。
ちなみに屋敷の外観はクロスハート家の屋敷とそんなに大きさが変わらない、権力を大事にするだけあってお金かけてるんだろうなって思う建物だな。
そして案内された部屋でだらだらくつろいでいると、執事さんが話しかけてきた。
「主がまだ戻られていませんが、まずは私の紹介から。…私はレーヴァテイン伯爵家に仕えている執事のウィリアムと申します。基本的には雑用執事といったところですので、なにか御用の際は気軽にお申し付けください」
「どうも、俺は冒険者のゼノンだ。で、隣から順番にフィッテ・エレン・ヴァニエ・ファイス・セレナだな、さっきは案内どうも」
一応俺たちの家名は伏せておいた、まだそれを明かすタイミングじゃないしね。
ちなみに俺が代表みたいな紹介しちゃったけど、別にこのパーティにリーダーがいるわけじゃない。
ただ執事さんの目線がこっち向いてたからそういう流れになった感じ。
「それと失礼な事をお聞きしますが、どうやらお客様は貴族の屋敷になれているようにお見受けします。どこかで貴族と繋がりを持っていたりするのでしょうか?」
貴族との繋がりか…
なんて答えようか迷うけど、ここでどっかの貴族を適当に語ったら速攻でバレそうだな。
分家を語ろうにも、そもそも本家の貴族の名前とかしらないし…まあ適当にはぐらかすか。
「んー、貴族と繋りなんてないけど?ただの冒険者だ」
つながりなんてナイヨ~
「…ウソね!!」
「…うぉっ!?」
俺が適当に嘘を語った瞬間、部屋の扉からツインテちゃんが乱入してきた…
それに乱入してくるまで一切魔力感知に引っかからなかったぞ、どんなスキル構成してるんだ。
先に鑑定しておけばよかった…
「この町に教会がある限り、私に嘘は通用しないわ!…それにしてもアンタどこの貴族と繋がってるのよ、私以外に仕えるなんて許さないわよ」
「…くっ、もう我慢なりませんわっ!ゼノンは私の家……むぐっ!?」
ツインテちゃんの発言でヴァニエがボロを出しそうだったので、エレンとフィッテが口を塞いでくれたようだ。
あぶねぇ…
するとヴァニエを抑えているうちに、伯爵家の当主と思われるおっちゃんが現れた。
「ふむ、君たちがユリアを助けてくれた恩人かね?話は娘から聞いている、まずは2度も危ないところを救ってくれたことに感謝しよう。…だが、君たちが今回の事件に繋がっていないとも限らない、もしもの場合は覚悟しておくんだな」
「はぁ!?…お父様話しきいてた?こいつからそんな悪意は読み取れなかったし、私の加護でも理由はハッキリしているんだけど?」
「ユリア、今は黙っていなさい」
なにやら俺たちがだらだらしている間に謎のやりとりがあったようだ、ツインテちゃんの加護も含めてなにか事情がありそうだな。
っていうか加護ってことは、この大陸の聖女かなにかなんだろうか…
「ああ、どうもどうも、まあ流れでそうなっただけだよ。まあ覚悟の云々については最初からそんなものないけどね、仮にそんなことになったら逃げるだけだ」
「……フッ。やはり権力には屈しないか、話に聞いていた通りの少年のようだ。…それにもうこれが最後のチャンスだろうな。急に手のひらを返す様で悪いが、君にその気があるなら娘のパートナーになってくれないかね?」
「「「ぶふっ!?」」」
なんでや!?いきなり話がとんだぞっ…
執事のウィリアムさんですら固まっている。
「ちょ、ちょっとまって。なんでそういう話しになったのか説明してほしい」
「はっはっは!その態度をみるにそれほど嫌という訳ではなさそうだ。うむ、まあ順を追って話そう」
とりあえず嫌とか以前の問題だ、その話を承諾した瞬間に横の二人に殺されると思う。
…それから聞いた話だと、どうやらこの大陸に存在する勇者といざこざが起きたのが原因らしい。
まずツインテちゃん…ユリアはこの大陸の女神から加護を授かった聖女であり、その能力の有用性から教会を含めて最初はものすごく歓迎されていたそうだ。
まあ感情が読めるっていう絶妙なバランスの能力だもんな…
これが思考を読み取れるとかだったら、逆に排斥されていたかもしれない。
話しを戻すが、1年前に何かの理由で魔大陸からの脅威を感じた教会が、あわてて勇者召還を行い一人の勇者を召還したようだ(おそらくこれはマイナスやプラスエネルギーに関することだと思う、伯爵は知らないだろうけどね)。
そしてその召還された勇者がとんでもなく強くワガママなやつで、気に入った聖女やその他周辺の女性を勇者の権力を振りかざし手に入れようとしたらしい。
で、最初に目をつけられたのがユリアだったとのこと。
幸い、横暴な態度をみかねた騎士の頂点であるミュラ・ヴァルキュリアが勇者を粛清したようだが、勇者が相手では度を過ぎた表面部分を抑えるだけで手一杯だったらしく、それ以降は手に入れられなかったユリアに目をつけた勇者が水面下で動きまわっているって事のようだ。
…ユリアがミュラ・ヴァルキュリアって人に憧れていた理由はこれが原因だったっぽい。
「…なるほど。つまりユリアを狙う勇者から守るために、俺たちをボディーガードに使おうってわけだな」
パートナーとか紛らわしいぞおっちゃん。
「いや、ユリアを守りきれるなら本当にパートナーになってもらっても構わないと思っている。貴族としては失格だが、私はこの子の意志を最後まで尊重してあげたいのだよ。…ああ、もちろん今回の謝礼はどちらにせよ渡そう。本当に感謝している」
あ、ツインテちゃんの顔が真っ赤になった…
親父さん容赦ないな。
「んー、まあその話しは今はおいておこう、ぶっちゃけ今のところ俺にそのつもりはない。…だがボディーガードの件に関しては、他に打つ手が無いって言うなら俺はやってもいいけどね。…みんながどうするかは知らないけど」
たぶんだけど、腐敗した騎士の件も勇者がその関係を利用して手を回していた可能性が高いな。
魔族側と騎士側、どっちにも繋がりがあるとみておくべきだな。
「むぅ…ボクは構わないよ。話しを聞いた時点で、ゼノンくんならこうするって思ってたかな」
「僕もゼノンと同じさ、聞いてしまった以上はね…」
どうやら二人は賛成っぽい。
まあ俺がやっても良いって言ったのは、それとは別に勇者と騎士の頂点が気になるからだけどね。
正直、この機会を利用しないと見る事すらできないだろう。
ここらへん押さえておかないと、この大陸の様子を見に来たって言う目的が中途半端で終わりそうだ。
「悪いが俺は反対だ。勇者怖ぇとかそういう話しじゃなくてよ、一方から聞いた話だけじゃまだ何も見てねぇ聞いてねぇのと同じだ。判断するには早い」
「…同意見」
「そうですわね、情に流されるのはよくないですわ」
ま、確かにその通りだ。
「意見が二手に分かれたな。…じゃ、こうしよう。とりあえず様子見で護衛はするけど、あくまでもそれには強制力はないってことで。…ようするに、俺たちの目で見極めるってことだな。この条件でこちらを信用できないなら、悪いけど護衛の話しは無しだな」
みんなの顔を見るに、この条件でなら納得してくれたっぽい。
まあ強制力がないなら依頼じゃなくなるわけで、何かしら貰えるはずだった報酬が無くなる訳だけどね。
でもぶっちゃけ、財産には困ってないしそこらへんはどうでもいい。
「…仕事としてではなく、ユリアそのものを見てくれるといっているのかね…」
「まあ、そうだ」
「……どうやら、私は最後の最後で大当たりを引いたようだ。…その条件でよろしく頼む」
話しがまとまったっぽい。
というか本当に切羽詰ってたんだな、おっちゃんの目が赤くなっている。
おそらくユリアも、ユニークスキルをダシに騎士を釣るのは一種の賭けだったんだろう。
そしてその後は一時的に解散となり、後日改めて行動方針を話し合うことになった。
とりあえずレーヴァテイン家で一泊だな。
しかしその日の夜、寝ているところに誰かが俺の個室にノックをしてきた。
…魔力感知的にはオアシスじゃないが、誰だ?
「…あー、鍵はあいているんでどうぞ」
「失礼する、夜分遅くにすまない」
執事のウィリアムさんだった。
なんかピリピリした表情をしているな…
「突然訪れて申し訳ないが、結論を言おう。君にユリアお嬢様を守れるとは到底思えない、勇者の力を侮りすぎだ…どうせ守り切れないのなら、いますぐ手を引いてほしい」
「ん?…まあ確かに向こうの力はわからないけどね。…だが、あんたも俺の力を知らないだろ?」
なにかと思ったら警告だった、おそらく12歳そこらの俺がそこまでの力を持っているように思えなかったんだろう。
主に反対してまで警告するとか物凄く優秀な執事さんだな…
おっちゃんは最後に大当たりを引いたっていってたけど、本当の大当たりはこの執事さんだと思う。
「…そこまでいうならその力を私に、…いや、俺に証明してみせてくれ。まさか逃げるとは言わないな?」
「決闘か。いいよ、その話しのった」
油断はできないが、こちとら向こうの人間大陸じゃ表向き最強だ。
…そう簡単には一本取れないぜ?
そして俺は屋敷の外へと向かっていった。
ちなみにスラキューは既に頭の上だ。




