101 操る者
A・B共にハドウ勢の実力を知るいい機会になった。
なにか目的があるみたいな感じが見て取れたけどそれはいったん置いておく、…試合してればそのうち分かるだろう。
それじゃ次はCブロックの試合を見学しておこう。
「フィッテとヴァニエのレベルを考えたらまず負けることはないと思うけど、一応相手はユニーク持ちの勇者だからなぁ…ちょっと心配だ」
「ああ、僕も勇者シリーズを使っているから分かるけど、仮に彼女たちの誰かがブレイブソード級の装備をしていたらと思うと安心はできないね。それに召喚された勇者は魔力量が桁違いで、今の僕くらいは軽くあるんだろう? ゼノンに聞いた時は耳を疑ったよ、シリーズを使いこなせていたら厄介さ」
確かにそこも問題の一つなんだよね。
エレンもあのチートソード一本でSに限りなく近いA、最上位Aまで到達できるんだから警戒するのはあたりまえだ。
まあ実際に持っているかは分からないけどね。
勇者装備は鑑定阻害効果がないから先に装備を見ておくのが手だな。
「A・Bと引き続き大番狂わせが多発しているが、今回のブロックはそう簡単には行かない見たいだァ! Cブロックにはなんと、カーデリオン王国で召喚された勇者2人が参戦している! この予選を見逃すなよぉ! それでは、…試合開始ィ!!」
「「「ウォオオオォオ!勇者様ァアアアア!!」」」
始まったようだ。
というかファンの声が凄い、帝国と王国は近いし勇者の活躍を間近で見ていた人もいるんだろう。
俺が1年前に決闘していた時はニートもいい所だったが、あれからちゃんと鍛えなおしたらしいな。
…さっそく鑑定してみよう。
林凛っていう黒髪ショートの人。
【ブレイブロッド(未解放)】
└魔法エネルギーチャージLv.10
└自己修復Lv.10
└元素魔法効果上昇Lv.10
美代刹那っていう黒髪ロングの人。
【ブレイブボウ(未解放)】
└弓矢貫通Lv.10
└自己修復Lv.10
└弓術効果上昇LV.10
やっぱりブレイブシリーズだったか。
ブレイブソードはクロウが所持しているため人間大陸にはなかったのだろうが、勇者が使うなら人間大陸に存在していなきゃおかしい装備だからね、どこかの国が管理しているとは思っていた。
だが空島に行っているはずがないし未解放なままのようだ、これではそこらより強い弓と強い杖でしかない。
…そして勇者のレベルは30ちょっと、これではフィッテとヴァニエには勝てないな。
…それにしても勇者たちを鑑定しているときに誰かの視線を感じた、なんだったんだろう。
「また会ったねニセ勇者さんたち、今日は遠慮しないよ?」
「「…………」」
「……あれ? なんか前と反応が違うよ」
「フィッテ、この方たち様子が変ですわ」
女子勇者の目が虚空を見つめていた、一体どういうことや。
魔力眼でなんらかの異常があるか見てみたが、魔力には異変が見当たらなかった。
……はて?
「まあ戦えばわかるよっ!まずは先制攻撃させてもらうよ…来て…【ルーク】っ!さらに【ウィンドアクセル】【身体強化】っ」
「一瞬で決めてあげますわっ!【サンダーエンチャント】【フルパワー】【限界突破】!!」
フィッテが光の大精霊を呼び出し精霊の力を借りて強化を行った、強化魔法の風と無に影響はないが光の大精霊を出現させているだけで多少のステータス上昇効果があるらしい。
…ちなみに光の大精霊自身はLv120としては平均的なステータスバランスだ。
続いてヴァニエも現時点での最強状態となり一気に畳みかけていった。
…だが、そこに黒髪ショートさんから待ったがかかった。
「…マ…リオ…ネット…」
「「えっ!?」」
黒髪ショートさんが杖で何かの魔法を唱えた瞬間、自身とロングさん以外の選手全てが行動を止めた。
…どういうこっちゃ。
…すると、近くの選手たち全員がいきなり同士討ちをし始めた…
バトルロイヤルなので同士討ちもなにもないけど、動きに戦略性を感じない…完全に選手の意思から離れた行動だ。
「わわわっ!?体が勝手に動くよっ!?」
「ちょっとフィッテっ!なにをするんですの…!?」
「ヴァニエちゃんこそっ」
…やはりフィールドにいる選手たちが近くの相手を見境なく攻撃し、どんどん数を減らしていってる…既に何人かが死んでいるようだ。
ヴァニエとフィッテはギリギリ抵抗できているが、ところどころ体が勝手に動いて危ない場面があるし早めに解決しないとまずい。
「どういうことだいゼノン…これは明らかに勇者のスキルではないよ」
「ああ…そうだぜ、それにあの勇者2人から全く生命力を感じねぇ…」
「待ってろ…いま調べてる」
魔力を消費している魔法やスキルなら魔力眼でなんらかの痕跡を見つけられるはずだ…
ならばあの勇者2名ではなくフィールドにいるすべての人を満遍なく見るまでの話しだな。
そして魔力眼で見渡すこと30秒…原因を発見した。
いま操られて動いてる人からものすごく微弱な魔力…糸の用な形状の魔力が後頭部に刺さっていたのだ。
そしてその糸のような魔力は会場の外へと繋がっている…おそらく外から何者かが乱入しているのだろう。
「…という事らしい、ちょっと行ってくるわ」
「僕も行くよ。ファイスとセレナは満身創痍だし、明日の本選まで待機していてくれ」
「ちっ、しょうがねぇな。まあこっちのほうは任せろ。本当にヤバくなったらフィッテとヴァニエは俺たちが止めてやる」
「…英雄様がんばって」
…よし、さっそく闘技場の外へ向かおう。
…魔力感知で魔力の動きを見るとハドウ・クロウ・アーゼインの魔力も糸の先に移動していっているようだ…あいつらも何かしら感付いたみたいだな、さすがだ。
…エレンを連れて糸を辿っていくと3人と合流した。
「よう、3人とも異変に気付いたみたいだな」
「…やっぱりゼノンも気づいていたか、おそらくこれは魔族の仕業だと俺は考えているよ」
「いやぁ~ここはハッキリ言おうじゃないかハドウ、…この事件を引き起こしているのは僕の父さんだよぉ。…それに本来なら父さんのすることに口を挟む気はなかったんだけどねぇ? あいにく僕は自分のやる事を邪魔されるのが死ぬほど嫌いなのさぁ。それにこの大会は<友>の願いを叶える為でもある、ちょっと頭にきたね…」
「…なるほどな、そういうことか」
恐らくハドウたちはアーゼイン経由でこの事件を察知したんだろう、息子ならどんなスキルを使ってるか一発でわかると思うしね。
…それにしてもアーゼインがキレるとは思わなかった、予選の比ではないくらいの異常なプレッシャーを感じるぞ…
そして糸を最後まで追いかけた場所には謎のメイドさんと人形姿の奇人が居た…




