99 Aブロック試合開始
エレンと合流した。
俺が修行していた間にも各国の学校対抗戦は行われていたので、その結果が既に出たことになる。
ミーシャの試合を見るつもりでいたけど修行に熱中しすぎて忘れていた…まあエレンの顔をみるに間違いなく優勝してたっぽい。
「4週間ぶりだなエレン。俺だけミーシャの試合を見に行けなくてすまない、でも優勝したんだろ?」
「ああ、ミーシャに関してはぶっちぎりの優勝だった。久しぶりに会ったら綺麗になってて驚いたよ。それにあの場に居ないってことはどうせギリギリまで修行してたんだろ?わかるさ」
やはり優勝していたらしい。
まあ4年前の時点で大会に出られるだけの実力があったんだし、修行を怠っていなければ当然の結果ではあると思う。
「ミーシャが優勝した時にエレンくんが駆け寄ってね、それはもうロマンティックな展開になったんだよっ! さすが王子様っていう貫禄だったね。うんうん」
なんやて、そこんとこ詳しくっ!
「あ、そんな顔してもダメだよゼノンくん、絶対におしえませーん。修行でミーシャの試合をすっぽかした罰だよっ」
「はははっ!まあどうせあれだけ派手なことしちゃったし、いずれ噂なんかで耳にするさ」
大それたことが起きたのか、じゃあそれを期待しておこう。
とりあえず出場が決定しているパーティメンバーの全てが揃ったので、Aブロックの試合が始まるまでのんびりすることにした。
初戦はハドウ・セレナ・ファイスだけど上位2名しか出れない以上は最低でも1名が脱落する。
個人的にパーティーメンバーを応援してあげたい気持ちはあるんだけど、どうもハドウを見た感じじゃ一筋縄どころじゃないくらいの強敵に思えるんだよね。
鑑定が弾かれた理由は装備の効果かスキルの効果かって一瞬思ったけど、なんというかそういう感覚じゃなかった。
なんらかの上位の存在によってプロテクトがかかっているかのように感じられたんだ。
それに鑑定を使わなくても立ち振る舞いや感じる威圧感でだいたいのレベルは推測できるけど、なぜかそのレベルの倍くらいの実力があるんじゃないかって感覚を受けたな。
本当に謎すぎる。
「考えた限りではセレナとファイス戦はハドウが鬼門になるかな。ところでハドウの髪の毛が染まっていたって言ってたけど、元から染めてたんじゃなかったんだな」
茶髪だったから日本でもともと染めてたのかと思った。
「あれは恐らくアーゼインのエクストラスキルですわ、彼の能力は偽装・隠ぺい・多少の創造が得意ですの。髪の毛を染めるどころか、顔だけをドラゴンにしたり全身を人形にするなんて朝飯前ですわ」
「変装の天才スキルか、大泥棒三世みたいな変装っぷりだな……」
「なんですって、ほかにもああいったスキルを持った者がいるんですの!?」
「いや、居ないっちゃいないけど…」
アニメだからね、なんていっていいかわからない。
…それにスキルに対してすごい食いつきだけど、魔大陸でいたずらでもされたのかな?
なんかヴァニエがそわそわしてるし、触れないでおこう。
そんな感じでだらだらしてたらAブロックの予選が迫ってきた。
「じゃあ二人ともいってら~」
「…いってきます」
「まあまずは軽く予選を突破してきてやるぜ」
確かにそうなるといいんだけどな。
各ブロックの参加者数は約100人ほど。
大陸最大の大会にしては少ないと思われるかもしれないけど、5ブロック合計で500に対して高レベル騎士や冒険者ランクAやBの実力者がそんなにいるわけでもない。
そもそもA級やB級になればどっかの貴族のおかかえになってたり、パパンみたいな代表として最初から本選に組み込まれていることが多い。
本来出ても勝つ見込みがないC以下の冒険者に関しては見学が多いらしいし、こんなもんなんだろう…それでも腕試しをしたい人もそれなりにいるけどね。
すると闘技場から司会の人が現れ今大会のルールなんかを説明していた、まあ殺したら負けで気絶や降参、予選に限り指定されているフィールド外に出たら負けって感じだ。
…そしてあいかわらずテンションが高い。
説明があらかた終わったところで試合が始まるようだ。
「…それでは4年に一度の闘技大会、悔いのないように全力を出し切れよ選手たち! …試合、開始ィィイ!」
「「「ウォオオオオッ!!」」」
…始まった。
俺が見る限りではA級に到達している冒険者や騎士は居ない、B級が大半でC級がチラホラって感じのブロックだな。
さてどう出るハドウ。
「…この威圧感、プレッシャー、……あなたが英雄様の言っていたハドウさん。……最大の敵から潰すのは定石」
まずはセレナがハドウを認識したようだ、迫りくる屈強な冒険者をヒラヒラと躱しながら急接近している。
それにあの魔力の流れ…おそらく黒龍召喚の詠唱は既に済んでいて、それを待機状態にさせているんだろう。
似たようなスキルがステ振りにもあったけど、4週間の特訓の成果ってやつかな?
「…ゼノンのパーティーメンバーの人ですか。俺も目的があって来てるんでそう簡単には負けませんよ」
「…それは私に勝ってから言って。…【ブラックドラゴン】」
…やはり既に詠唱が終わっていた、闘技場にかなり大きめのサイズの黒龍が現れたようだ。
この1年近くでのレベル上げで以前よりギラに近い状態で召喚を成功させている…まあそれでも本体よりまだまだ小さいけど。
でもあの大きさの黒龍を出したってことは、一撃で決める気だな…魔力の大半を消耗している。
「…なんだありゃああ!? 闘技場そばにいた黒龍の眷属か!?」
「あんな化け物が出てくるなんて聞いてないぞっ!!」
「ひ、ひぃいいっ」
参加者たちが一斉にセレナから距離を取った。
まあギラ本体が怖すぎるもんな、小さいとはいえあの威圧感に敵対したくはない。
…普通なら先に他の人を狙うだろう。
「…やっぱりメンバーの一人一人がチートすぎる、ならこっちも【アンチスキル・ディストーション】」
「…ッ!? なにこれ、力がっ…! 黒龍が維持できないっ…」
……ッファ!?
なんだそりゃ!?
いきなりセレナの動きが鈍ったと思ったら黒龍がどんどん小さくなっていって消滅した、一体なにが起きてるんだ。
…急いでセレナを鑑定してみたところステータスが半分以下になり魔力も底をついているのが確認できた、しかも現在進行形で持久値も下がり続けている。
まるで呪われているかのようだ……
……ん?
……呪い?
マイナスエネルギーかっ!?
「くそったれっ…!! セレナ、あとは俺に任せろっ!!【連続魔法・アイスバーン】×8!!」
セレナがピンチになった瞬間、隠れてハドウの後ろに回り込んでいたファイスが連続魔法で奇襲した。
…あいつ最初から不意打ちするつもりだったな。
「…出て来いディメンションモンスター達…【アンチスキル・ドミネーション】…その魔法を防げ」
「「「ガァアアアアアッ!!」」」
「…なん、だとぉ!?」
ハドウがなんらかのスキルを使用した瞬間、5体ほどの狼が空間から現れた。
出現速度が遅いので空間魔法だとは思うが、あのモンスターの能力か?
まるでフェンリルを連想させる白銀の体毛に巨大な四肢をもっていた、見るからに氷に対する耐性が高そうだ。
……っていうか完全に魔法を防ぎきっている。
「…魔大陸で修行してなかったら今の魔法で負けてましたよ、さすがです。…ですがこれでだいたい準備は整いました、火炎魔法【バーンストライク】っ!!」
…………ズゴオォオオンッ!!
………
…
「全員、一撃かよ。……めちゃくちゃな攻撃力だぞ」
「ハドウくんがものすごく強くなってるよ…」
「…まさか、ゼノン以外にこんな強敵がいるなんてね」
「……大泥棒、大泥棒ってなんなんですの」
ハドウが一撃で100人を巻き込む大爆発を起こした……
っていうかヴァニエだけ試合みてない。
すまんヴァニエ、俺のせいだ。
…しかし、これはハドウの一人勝ちか?
…すると煙の中から氷の槍が飛んできた。
「…ぐ、ぉおおおおお!【アイスランス】…!」
「……ッ! これだけ準備が成功して、まだ立てるのか。……なんて人だ」
「一撃は入れさせてもらったぜ、残りの借りは本選で返してやるよ」
ファイスが立ち上がっていた。
……執念ってやつか。
「…し、試合終了ゥウウウ! 勝者が決まったようだぁああああああああ!」
「「「……ワアアアアアアアアアッ!!」」」
勝ち残ったのはハドウとファイスか、それにしても予想以上の実力だった。
相性の問題が大きいがそれでもハドウは本気を出していないように思える。
…これはクロウよりも鬼門になりそうだな。
ハドウは魔大陸の修行とクロウの装備援助でブーストがかかっています。
ハドウ自身はゼノンとかなり相性が悪いですが、めちゃくちゃ強いです。




