95 アベルが暴走した
アベルを連れてルーシーの部屋に転移した。
転移したのはいいけど、着いたとたんアベルが発狂してしまった。
興奮するという意味で。
「すごいよ兄さんっ! この魔法陣も魔道具も僕の知らない理論ばかりだっ! それにすべての理論に一切の矛盾も無駄もないッ、それでいて完全に稼働しうる精密さ、すごすぎる……」
「カッカッカッカッ! 弟子が新しい小童を連れてきたと思ったら見どころがあるではないかっ! どうじゃ、お主も儂の弟子になってみんか? 大サービスじゃぞっ! それに小童の作った魔道具もなかなかセンスがあるしのぅ、まだ粗削りな所があるとはいえ発想力に関しては儂を超えるかもしれん。とんだ逸材じゃわい」
一瞬で意気投合していた。
アベルはルーシーの技術力に感嘆し、ルーシーはアベルの手にあった偵察魔道具なんかに可能性を見出したみたいだ。
やっぱり連れてきてよかった、家との往復はルーシーが魔道具を貸してくれるだろうしこれから研究三昧になるだろうな。
「ここで魔道具作りをしててもいいの?」
「そうじゃ、生産の才能だけでいえば間違いなく天才じゃしの~」
「うん、わかったよ。それじゃあ僕と結婚してくださいっ!」
「「えっ?」」
なんでや!?
急に話が飛んだぞ!?
ルーシーもなんのことかわからず固まってしまってる。
アベルよ、お兄ちゃんはお前をそんな子に育てた覚えはないぞ。
一緒にいたのは小さい時だけだけど。
「アベル、おちつけ。ルーシーは幼女に見えるが600歳は軽く超えてる」
「そうなの? すごいや!」
すごいのか。
すごいけどさ。
とりあえず一旦冷静にさせなきゃ、おうちへ帰ろうアベル。
「え~、うん。一旦もどるわ」
「そうじゃの」
「それじゃ帰るぞ~」
「あっ! 兄さん離してっ、まだ魔道具みたいよっ」
問答無用で連れ帰った。
とりあえず結婚がどういう意味なのかちゃんと理解してるか聞いておかないと…
この子頭はいいけど抜けてるかもしれないしな…
「アベル、お前ルーシーに言った意味わかってるのか?」
「わかってるさ! 弟子より結婚のほうがすごいんだよね? そうなればもっとルーシーさんと魔道具の研究ができるよ!」
わかって無かった、天才なのに天然すぎるだろ弟よ。
「違うぞアベル、結婚というのはだな…」
その後1時間かけて詳しく説明してあげた。
30分たったくらいでアベルの顔が蒼白になり、1時間経つころには軽率な発言をした罪悪感で泣き出しそうになっている。
学問に関しては最強だけど、一般常識がないのがネックになったな。
「ほら、勘違いしてただけなんだからルーシーにちゃんと話せば大丈夫だ。あの幼女は図太いから気にしてないと思うぞ」
「えぐっ、……ぢゃんど、話ずっ」
「おう、じゃあもう一回いくか」
とんだアクシデントだったな。
「ゼノンが弟を泣かせましたわ」
「なかせたね」
「ゼノンははっきり伝え過ぎなのさ」
「お前、オブラートに包んで言えよ。もうちょっと言い方があるだろうが」
「……よしよし」
1時間の間に野次馬が形成されていた。
好きかって言われておる。
だが、今は相手にしててもしょうがないので無視して転移した。
「ルーシーざんっ! ごめんなざいっ!」
「それだと振ったように聞こえるが」
弟が必死に弁解していた。
だがなんとか伝えきれたようだ。
「ぬぁ~、ビックリしたわい。さすがの儂も小童は圏外じゃしな、わかったのならそれでええぞ」
やっぱりルーシーは何も気にしていなかった、いまもベッドに座ってお腹をポリポリしている。
図太い幼女でよかったよかった。
その後調子を取り戻したアベルが再び魔道具に興味を示し、弟子になることが決定したのだった。
「じゃあ転移用のアイテムは俺が庭に刺しとくから、好きな時に帰ってこい」
「うんっ! またね兄さん!」
アベルはしばらく研究していくようだ、闘技大会まではちょっと時間があるし1ヶ月くらいワイワイやってるのだろう。
「あ、スパルタ教育のゼノンが帰ってきましたわ」
まだ続くのそのノリ。
─1か月後。
「じゃあ、そろそろ帝国に向かおうか。おそらく今から向かったらちょうどいいくらいに着くと思う」
たぶん1週間くらい余裕ができるかな。
ちなみにパパン・ママン・アベルはもうちょっとのんびり来るようだ。
パパンは騎士団の仕事があるしギリギリまで働いてからくるつもりなんだろう。
そしてこの1ヶ月のアベルの研究成果だが、とんでもない物を作り上げていた。
「これ自動車やん」
目の前に、完成度の高いワンボックスカーが存在していた。
本当に転生者じゃないのか疑いを持つレベルで。
まあ見た目は馬車とかみたいに木や布が使われているし、動力源も魔力だから違うんだけどね。
弟によれば、これはラジコンを超進化させた魔道具とのこと。
だが限界までコストを削減したはいいけど、あまりの燃費の悪さに魔力量の問題で俺しか使えないらしい。
今後は軽量化を図り、実際の馬車の補助なんかをメインとして魔道具をくみ上げるとかいっていた。
「じゃあ、いくか」
そして1週間後、馬車よりも数段早いワンボックスの力で帝国の闘技大会開催地点へと辿り着いた。
本来は1ヶ月以上かかる日程なのでこの魔道具の凄さがうかがえる…ただやはり試作品だったようで、車輪の部分が摩耗してもう使い物にならない。
まあどうせ俺しか使えないしな、使い切っても誰も損はしないからいいんだけど。
さて、町へ入りますかね。
大陸闘技大会編になります。
闘技大会は各国の猛者もそうですが、予選に出るだけなら一般人からでも参加は可能です。




