93 動き始めた世界
夜に皆に相談してみた。
ちなみに俺を含めパーティメンバーはできるだけ参加してくれると助かるとのこと。
本来ならば3か国の学校含め高くてCランク付近の実力だったはずの生徒たちだが、希望の流星群側においては既に学生の域ではないとのことだった。
ファイスなんかもCランク下位からスタートして今じゃ既にBランクだ、例年の闘技大会に合わせれば優勝確実なくらいの実力らしい。
たとえ1回戦で敗退してもその実力さえ証明できれば全てがプラスになるとのこと。
他のメンバーも腕試しができる良い機会だとやる気は十分だし参加する方針で決定した。
移動に関してだけど、できればギラに乗ってひとっとびしたいが呼ぶ手段がない…
なので移動は学園支給の馬車&徒歩ってことになる。
「移動中も空島には行けるし、馬車は借り物だから3人待機の3人迷宮でサイクルを回せばいいかな。6人でいくと馬車が襲われたときやばいしね」
「腕が鳴るぜ、空島に行って修行を始めてから俺のすべてが変わった。父さんも学園の意向には賛成だし、闘技大会でひと暴れしてやる」
俺もそのつもりだよ。
「そうだね。きっとギールさんなんかもまた出場してくるだろうし、僕もリベンジマッチが楽しみだよ」
「たまに話に出てきますが、そのギールというのは誰なんですの? エレンが敗れたと聞いていますし相当な手練れなんですの?」
「なっ!? 金髪が負けたのかっ!?」
「ははは、あんまり思い出したくはないけど、完敗さ。ギールさんはゼノンのお兄さんだよ」
ギル兄さんに完膚なきまでにボコボコにされたからな、それにもう新米騎士として活躍している頃だろうし更に強くなっていそうだ。
ギル兄さんは修行でフラフラと出かける事が多いそうだけど、ちゃんと仕事してるのかな…そこはちょっと心配だったりする。
「理不尽の兄貴かよ、兄弟揃って意味が分からないスキルを使ってきそうだ。だがまあ納得した」
まて、そこは納得してほしくない。
「そうですわね、理不尽なら納得ですわ…」
「……ん、英雄様は最強」
みんな納得してもうた。
もうどうにでもなーれー。
「ボクも今度はギールさんから一本取るよ! 訓練ではずっと負け越してるからねっ!」
「ああ、がんばれ。俺も父さんを超えてみせるよ」
そして次の日、帝国へ向けて出発した。
──────────
──────────
ゼノン達が帝国へ向けて移動している頃、羽藤の脱走計画は最終局面を迎えていた。
「はぁ……はぁ……。よし、ここまで来ればとりあえずは身を隠せるな。アーゼイン、本当にここに助っ人がいるのか?」
「クハハッ! いいねぇ、やっぱり君は最高だよ魔王、いや、ハドウ。まあこの魔王城に助っ人がいるのは本当さ、クロウっていう人間に加担するS級魔族が居るからね。奴なら事情を理解しているはずさぁ」
「助かる」
(脱走計画がアーゼインにバレた時は終わったかと思ったけど、まさか逆に友好的になるとは思わなかったな。まあおかげでファニエさんと魔公爵達を全て騙せたわけだけど)
「僕はねぇ、君を最初見た時はただ力があるだけの木偶だと思っていたんだ。だけど蓋をあけてみればどうだい、反逆精神の塊じゃないかっ! 素晴らしい、素晴らしいじゃないかハドウっ…」
「そりゃどうも、でもお前も加担してしまった以上は魔族の裏切り者だぞ。いいのか?」
「ハハハハッ、僕にとって種族なんていうのは飾りだね。重要なのは中身だよ、中身。人間が素晴らしいといっていた父さんの言葉がやっとわかってきた気がするねぇ、従順なバカよりも狡猾な裏切り者と付き合った方がゲームは楽しいのさ」
(まぁ、それでアーゼインが納得するなら構わないけど。こいつは気に入った奴や一度認めた奴は仲間として接してくる、実力も魔公爵家の跡継ぎ中じゃおそらく最強だ。今の俺にとっても最大の切り札であることは間違いない)
そして羽藤達は魔王城へと赴いた。
「すみません、こちらにクロウという方がいると聞いてきたのですが…」
「失礼ですが、主へのアポイントは取られましたか?」
「つれないねぇ~、この僕が来ているんだしクロウに確認くらいとってくれてもいいじゃないかぁ。ほら、人間との友好っていったらわかるかな?」
「……っ!! 失礼しました魔公爵様。ただいま主に確認を取らせていただきます」
(こういう時は魔公爵家の肩書が便利だよな、なにからなにまで優秀な奴だ…)
そして10分後、羽藤たちの前にクロウが現れた。
「ふむ、待たせてしまったようだ。私は現魔王城の管理者であるクロウと申す者だ。そちらの黒髪の少年に対しては初対面だが、おそらく召喚されし者、といったところか」
(ロイルさんから聞いてた話では、ゼノンさんがここの闘技場で修行をしていたって聞いたけど…よくこんな異常なプレッシャーの魔族がいるところに居られたな。この魔族の力だけをみればロイルさん以上だ。もうこいつが魔王って言われても何の違和感もない)
「お見通しか。やっぱりアーゼインが紹介するだけあって、とんでもない魔族のようだ。ゼノンさんはよくこんな所で修行を続けてたな…」
「……む? 彼を知っているのかね?」
「んんー? 誰だいそのゼノンっていうのは? 君がそんな言い方するなんてよっぽどの人物なのかい?」
「まあ、それは追々話すよ。それで、今回はクロウさんに頼みたい事があって来たんだ。お察しの通り俺は召喚された勇者なわけだけど、いろいろ事情があって魔大陸に飛ばさてここにいる。それで今人間大陸へ戻るための助っ人を探しているところなんだけど、あなたにその気があれば、どうか俺に力を貸してくれませんか?」
羽藤は単刀直入に話すことにした。
もしクロウが味方であれば、無駄な駆け引きはクロウの心象的によくない、そして敵であればここで本性が見え隠れすると考えたのである。
「……いいだろう。正直な話、私は君が勇者であることも魔王であることも知っていたよ。もちろん私に会いに来るだろうこともね。君が魔王であれば私を殺しに、勇者であれば私に助けを求めてここに来るだろうと予想していのだ。……そして君は魔族であるはずの私の力を素直に借りようとした、ならば私もそれ相応の態度で示さなければならない。とりあえずは認めようじゃないか勇者ハドウ殿、できる限りの力を貸そう」
「ありがとうございます…」
(あとの問題は帰るまでの道のりだ。俺が仮にも魔王であり、クロウさんとアーゼインを引き連れて人間大陸へ向かえばまず間違いなく戦闘になる)
「あぁ~、君が考えてることはなんとなくわかるよ? 恐らく人間との摩擦を気にしているんだろうけど、何の問題もないねぇ。僕の家のエクストラスキルを使えば気配や見た目の偽装なんて楽勝さぁ。じゃなきゃ父さんが人間大陸で動けるはずないしねぇ~」
「お前のスキル<パペット>か……。確かにあれなら何の問題もない、頼めるか?」
「ハハハハッ! まかせなぁ~」
羽藤の脱走計画はとりあえずの成功を収めた。
前回のゼノン達とは違いクロウ経由でつかえる移動手段、そしてパペットによる偽装により圧倒的な速度で大陸へと向かうのであった。
──────────
──────────
アカデミアを出発して数か月、迷宮でのレベルあげも完全に頭打ちになった頃だ…
あと半年近くで帝国まで着くけど、とりあえず先にクロスハート領によっていこう。
パパンやママン、王のおっさんが既に聖女の件を解決させているだろうしね。
「大陸闘技大会、わくわくするなぁ」
とりあえずクロスハート領についたらルーシーのところにアベルを連れて行こう。
クロウは魔族のトップクラスだけあって、便利な移動手段があります。




