92 来年は大陸闘技大会らしい
挿絵置き場に89話と90話のシーンが追加されました。
訓練スペースまでやってきた。
ギルドの訓練スペースは冒険者が利用するだけあって、物凄く広いかそもそも外であるかになる。
今回は外なので黒龍を出しても大丈夫なラインだと思う。
「審判はいないが、俺が倒されたり合格と宣言したりすると試合は終了だ。また、試験中のポーションの使用と殺傷を禁止する。以上質問はないな?」
「……はい、ないです」
「よゥし、それではどこからでもかかってこいッ!」
始まったな。
おっさんはさすがに試験を務めるだけあってレベルもスキルも軒並み高い、C上位~B下位くらいの強さだ。
冒険者同士の揉め事にも対応しなくてはいけないから、このくらいは強くないと仕事にならないんだろう。
まあ、それでもやはり黒龍相手では分が悪い、勝負になるかは微妙だな。
「セーフティデバイス…リリース……サモン【ブラックドラゴン】」
「グルォオオ……」
さっそく召喚したようだ。
「な、なんだそりゃぁ……」
「惚けていては一撃でおわりますよ、黒龍【カラミティブレス】」
おっさんの思考が停止しかけている、まあ普通はありえないからねこんなスキル…
だがその隙をセレナが逃すわけもなく、ドラゴン種最強の攻撃手段であるブレスが殺到した。
…恐らくあれは毒系のブレスだと思う、魔法による毒なので放っておけばすぐに治るけど戦闘中に治すのは難しい。
結果的に回復系ポーション禁止ルールを逆手に取ったことになるな。
「ぬおぉおおっ!! 初心者だと思って油断したが、これでも元冒険者だ! 簡単には負けられんッ」
やるなおっさん。
迫りくる毒のブレスに対し、手に持った斧を回転させてダメージを抑えているようだ。
さすがに前衛だけあって耐久度はピカイチだな、ただ魔力眼に映る限りじゃ身体強化をスキルレベル以上に酷使しているみたいなので、その場限りの一時しのぎにしかなっていない。
これでは魔力がすぐに尽きるし体への反動もでかそうだ、セレナに対し起死回生を狙うならブレスが止んだ直後しかない。
「……むぅ、予想以上にタフ。それなら黒竜魔法【ロストエナジー】」
「ぐぬぅ! ……詠唱させる暇など与えん、ぬぅうううん!!」
やはりブレスが止んだ隙を狙ってきたようだ。
確かにここしか勝つチャンスはないけど、セレナもそんなことはわかっているはず…おっさんの耐久力的に次で決まるな。
「チャンスだと思っているようだけど、別に私が戦えないわけじゃない。…黒竜神社奥義【針千本】」
「ぐぉおおッ、……はぁ、……はぁ。……なるほど、これは強い。うむッ! 参った!! やるな嬢ちゃんッガハハハハハ!」
斧が迫った直後、セレナの着物に隠し持っていた大量の針が腕と足にささり決着がついた。
というかあんな技持ってたのか、確かに威力は低いが遠距離攻撃は使いやすい、セレナ自身も戦力として機能しているようだ。
黒龍に魔力をもっていかれるので長期戦は無理だけど、これなら黒龍がオフでも戦闘ができるし文句なしの強さだな。
パーティ的にも魔力を消費しない持久戦スキルはすごく助かるしね。
「……あいつ強いな。魔法使いは1対1が不利な職業だが、それを抜きにしたって黒竜込みの状態で勝ち越せる自信がねぇ。まだまだ修行不足ってことか」
「まあファイスのオートガードは魔力を消費しちゃうしな、それがなければ互角くらいだとは思うけど」
「ありもしねえ条件で考えたってしょうがねえだろ。現実として俺じゃまだ勝てないってだけだ」
まあそうだな。
今でも装備込みでBには届いているが、それではまだ足りない。
ファイスのこういう目標のために現実をみてるところは俺も尊敬すべきところだと思う。
「で、結果はどうなったの?」
「オォ、いやルール上はEにしかならないんだがよ、本音を言えばせめてCには上げておきたいくらいだ。まあルールはルールだ、Eランク冒険者おめでとう嬢ちゃん。パーティ申請の方は俺の方で受理しておいてやる」
「はい、試験ありがとうございました」
ポーションを飲んで針の傷を塞いだおっさんがEランクを宣言した。
これでパーティがフルメンバーになったな、ミーシャの件をどうするか考えものだけど、その時はパーティを分けて登録するとかで対応するかな。
ちなみにパーティが集合したチームのことをレイドパーティっていうらしい、7人以降はレイドってことになる。
その後宿へ戻ったが時間がしばらく空いてしまったので迷宮を1周して今日は終わった。
そして翌日、全体召集が終わった頃にイーグル先生から呼び出された。
職員室に呼び出されたのは俺だけなので理由は謎だ。
「ふむ、ゼノン・クロスハート、君に折り入って頼みがある。単刀直入に言うが、大陸闘技大会に出てみる気はないか?」
闘技大会?
はて、この学校出れないんじゃなかったっけ。
「アカデミアには出場枠がなかったんじゃ?」
「いや、学校対抗のほうでなく一般参加の方の闘技大会だ。来年は帝国で開催されるらしいが、私が見る限り君なら大会の優勝も狙えると思っている。もちろん君の父上である最強の騎士<剣聖ロイル>を倒せると見込んだ上での話だよ」
なんやて……。
確かにパパンとの差はだいぶ縮まったと思うが、パパンの強さは剣技だけではない。
何度も剣を見てきたから分かるが、あの人の本当の強さは絶対に負けない覚悟だ…どんなにこちらが有利でもパパンは最後の最後まで勝機を見出してくる。
それを倒せると見込んだ上っていうのはいささか傲慢なんじゃないかな。
「俺の父さんは正真正銘の最強ですよ。あの人の強さは力だけじゃない、本当の意味で強いんだ。勝つか負けるかはやってみなきゃわからないけど、とりあえず理由を聞きたいですね」
「気を悪くしたなら謝ろう。だがもちろん侮っているわけではない、勝つ前提で戦いはするが勝たなくてもいいのだ。こちらの狙いは大陸闘技大会で高成績を収め、アカデミアを正式に人間大陸代表校の1つとして認知してもらうことだ。君を利用しているようで悪いが別にお互い不利益があるわけでもない、話しにのってみないかね?…どうしても嫌なら断ってもいいが」
ああ、なるほどな。
つまり大陸闘技大会の出場枠をアカデミアも確保したいってことか。
王国や帝国に比べて総合的な国力で劣っているからアカデミアの地位は低いとみられがちだが、学校そのものはものすごく優秀だしな。
うん、悪くない話だ。
帝国まではいまから出発してちょうど大会の日くらいになると思うしね。
俺の利益はパパンやほかの猛者を相手にどこまでやれるかの個人的な試験、アカデミアは国の偏見を除いた本来の価値をみてもらえる。
お互いに利益しかないな。
「みんなに相談して出発の許可が出たなら構いませんよ、ちなみに留守の間は試験は免除ですよね?」
「当然だ」
よし、決まりだな。
みんなに相談してみよう。
そろそろ時間が進みます。




