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美しい天使  作者: 千助
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議会命令

昼時なせいか食堂は人が多く集まっている。

しかし騒がしくはなく、落ち着いた静けさがありながら人の声が聞こえてくる。

シャルロットも同じく食堂でお昼ご飯を食べていた。


「見て、シャルロット様よ!」


通りかかった生徒が密やかにそう言うのが聞こえた。


「今日も麗しくていらっしゃる。」


男は声をひそめているが聞こえても良いと思っているくらいの大きさだった。

シャルロットは蒼い瞳を細め、おもむろに立ち上がった。



「そんな田舎へ、でございますか?」


シャルロットは聞き返していた。

校長に呼ばれ不安に思いながら校長室へ行くと、思いも掛けない言葉が校長の口から飛び出した。


「アラベザと言えば…農業が有名ですわね。専業率が八割を超えるとか。」


校長いわく、そのアラベザへ人を迎えに行って欲しいのだとか。

シャルロットに。

シャルロット・ベル・ア・ヤーデン・ハシェストに。


正直なところ、意味が分からない。

シャルロットにものを頼もうと思う人はこの校長ぐらいである。

何を考えているのかと、いつもそれが気になる。


お金……は校長だってたくさん持っている。

(ハシェスト家には遠く及ばないが)


権力……なら校長という肩書きで充分なはず。

(実はそこまで偉くないのだがシャルロットはよく分かっていない)


可愛子ちゃんとおしゃべりがしたい。

いまのところこれが有力な説だった。


「そこに誰を迎えに行くのです?」


「オリビエ・マクマージュとその従者だ。」


校長はいつもの微笑みを浮かべている。


「優秀な貴女にしか頼めない。」


その微笑みが、今は少し怖い。

何を考えているのかがさっぱり分からない。


「どういう意味でございましょうか。」


シャルロットはあくまでいつもの無表情できいた。

動揺していると思われたくない。

校長は組んだ手にあごを乗せて言った。


「ここだけの話にしてくれるかい?」


「……ええ。もちろん。」


校長の言葉はおよそ信じられないものだった。


「実はな、その従者というのが異界の者でな。議会から捕縛命令が出ている。」


「議会……でございますか。」


議会とはこの国の最高意思決定機関である。

議会の決定は国の決定と等しく、逆らうと国賊とみなされる。

不満はない。

今の議員はまともで、そうそう強引なことはしない。

彼らが言うのだから、危険な人物なのだろう。


と言うより、異界の住人は考え方がまるっきり違うので比較出来ない。

人間には当たり前のことが彼らにはとんでもない事だったりする。


相槌を打ったら殺されかけたとか。

頭を撫でたらショックのあまり一年間も姿をくらませたとか。


その逆もしかりだ。


魔法でぶっ飛ばすことを何とも思わないとか、

(そういうのは往々にして翼のある種族だ)

水の中に閉じ込めてしまうとか

(魚人が多い。ふざけているだけらしいが、人間には命に関わる。)

遥か上空に放り投げるとか、

(異界人版高い高い)


その他にも伝説は多い。

それなりに力がつくまでは召喚方法の書かれた本ですら読ませてもらえない。

異界人とはそういうものだった。

トラブルしか起きない。

そのため法律で規制されている。


「その異界人はどういう生物なのですか?」


「ふむ、それがなあーー・・・」


「?」


「議会お抱えの魔道士でも歯が立たなかったそうだ。どうやらその魔道士が逃がしてしまったらしい。」


「なっ!?」


「その後始末を我々に頼んできたのだよ。今議会始まって以来の不祥事だ。」


「なっ!?」


「その上、もう五年ほど経つらしい。」


「はああっ!?」


前言撤回。

そんな議会に国を預けていて、この国は本当に大丈夫だろうか。


「うんうん。貴女の気持ちは私も多いに賛成するところだ。が、まずは何とかしなければならない。もう受けてしまったのでね。」


「…そこでなぜわたくしが出てくるのです。」


「名家に頼らざるお得ない状況なのです。協力して、頂けますね?」




「はあ。」


「いかがいたしましたか、お嬢様。」


メイドのリアが気遣わしげな視線を向ける。


「気が重い。」


これから超弩級の魔物に会おうというのだから楽しい気分になる訳がない。

それが分かっている優秀なメイドは手際良く紅茶を入れ始めた。


「クイニーアマン、召し上がりますか?」


「頂くわ。」


甘いものに目が無いシャルロットのことをよく心得ている。

リアはシャルロットが生まれた時からシャルロットの専属メイドだ。

生まれる前から、と言った方が正しいかもしれない。

リアは、シャルロットのために施設から引き取られ、ハシェスト家で大事に育てられた。

命を捧げても構わない、というほどリアは家に恩を感じていると言っていた。


「はあんっ、美味しいっ!」


「それはようございました。」


今都で有名なパティシエの店で買いました、とリアは言った。

すごい行列で二時間も並びました、とも。


「…頼めば作ってくれたのではなくて?」


シャルロットはすこし皮肉を込めて言った。

するとリアは、


「だってお嬢様、そういうのお嫌いですから。」


事もなげにそう言った。

リアはいつも欲しい言葉をくれる。

無愛想なシャルロットの気持ちを分かってくれる。


『旦那様!』


いつか、仕事が忙しいと父親にあしらわれて泣いていたとき、シャルロットだけは怒ってくれた。


『どうして…お嬢様が寂しがっているのを分かっておあげにならないのです!こんなではお嬢様はぐれてしまいます!』


それを聞いて、父親は笑った。


『そうか、それは大変だ。』


そう言って、優しく抱き上げてくれた。

厳しい父親なので一瞬、違う人かと思った。

後で聞いたら、こんな娘を欲しかったのだと言った。

本当に娘のことを大事にしてくれる人が。

それがよく分かって、嬉しくてつい笑ったのだと。


「お嬢様、そんなに美味しかったですか?また買ってきますね。」


リアが訳の分からない事を言った。

急に何かときくと、


「え?だって、お嬢様すごい嬉しそうな顔をなさっていますもの。お気づきではなかったのですね。とっても可愛いです。」


「っっ!」


カップをグイとあおったら空っぽだった。


「おかわりなさいますか?」


お見通しだったらしい。

シャルロットは顔を真っ赤にした。



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