始まりは記憶から・陸
「価値はあるだろう。なにせ〝解放者〟だからな」
「……?」
彼の言葉に薙は首を傾げる。
「あの方と同じ〝紫の瞳〟を持つというだけで〝解放者〟だ……なにも知らない子供のくせに、だっ。──同じ〝紫〟を継ぐ〝我ら〟に犠牲になれという! 解放者である、こいつのために〝死ね〟という!」
叫ぶ彼の言葉に薙の心臓が、とくりと脈打つ。
(さっきから何を……)
心臓の位置の制服を強く握り締め、薙が心中で呟くと「薙!」と名を呼ばれ、はっとなるが、遅い。──彼に突き飛ばされ、薙は窓から外に……地面に向かって落ちていく。
(──え?)
落ちていく中、教室から自分を見下ろす彼の姿が、他の誰かとかぶり、薙は落ちながら、封じられている記憶の断片を思い出す。
『──お行き──……』
異国の服に身を包んだ女性が指差しながら言う。
(……誰……)
断片的な自分の記憶に自問する薙。女性は黄金の髪をしていた。
『お前の瞳で見極めなさい。わが息子、己の意志で決めるのよ──……』
黄金の髪の女性の瞳もまた、黄金。その黄金の双眸が薙を捕らえる。
『さあ──おいき──……』
(あ──……)
地面へと叩きつけられ、薙は気を失う。気を失いながら、十二神将の二人が自分のことを呼んでいる声を聴く。
そして、気を失う直前、彼は記憶の中の女性が何者であるか思い出す。
(……母さん……)
──と。
それは薙の母親であり、女神でもある女性の姿だった……。