始まりは記憶から・四
薙は学校に行っている間は髪と瞳の色を封じている。黒髪と茶色の瞳に。自分の教室に向かうため歩いていた薙は視線を感じ、そちらの方を見ると男子生徒がひとり、薙を見ていた。──瞳に憎悪を宿して。
「……どうした?」
「なにかあった?」
声をかけたのは薙を守るために、生徒として侵入している十二神将の二人。
「あれ……誰かわかるか?」
自分を見ていた生徒を指差し、問う。その生徒は薙から視線を外し、どこかへと歩いて行く。
「ああ……あいつか。殺気でも向けられたか?」
「そんなところ」
二人のうち、女性の方が「仕方ないわ」と言う。
「なんで?」
「あいつは〝そう〟教育されちゃってるの。アンタが悪いわけじゃないのにねえ」
彼女の言葉に薙は〝あちら〟の関係者かと納得する。
「ビミョーに記憶がねえからなあ」
教室のドアを開けながら薙は呟き、自分の席に向かう。その後ろ姿を見つめながら、二人は呟いた。
「……その時がきた……」──と。
神々の住まう、次元の異なる地──天界。
いくつもある建物にはそれぞれ神々が住んでいて、そのひとつに住む神の名は──中天紫微北極太皇大帝……太陽、月、四季を統括する神。
「……太皇大帝」
太皇大帝の前で、黄金の髪を持つ女性が膝をおる。
「すまないね。本来はこちらから行くべきなのに」
「構いません。太皇大帝は大切な御身ですので」
女性の言葉に「大切なのは「内」にあるモノだけれどね」と苦笑混じりに彼は言うが、女性はそれに対して答えることはしない。
「……本題に入ろう。君を呼んだ理由はひとつ。──黄帝に変化はないね?」
「はい。黄帝は今でも眠りについたままですが、もうすぐ目醒めます」
「……〝封印〟が解けるのだね。お前も下界へ降りるのだろう……錫花」
女性の名を呼ぶと女性は静かに言葉を紡ぐ。
「……〝弟のために死ぬ〟のが、私の宿命です。〝弟のためだけに生み出された生命〟……違えることの出来ない、〝絶対の使命〟です」
語るように言う錫花の言葉は自分自身に言い聞かせているようにも思える。だからなのか、太皇大帝は錫花の言葉を黙って聞いていた。