始まりは記憶から・参
「────……」
「どした、嶺?」
自分のことを凝視している嶺に気付き、問う。
「……薙」
「なに?」
「今日は寄り道しないで、直帰」
嶺の答えに「なんで?」と聞き返す薙。
「不吉」
「?」
ぽつりと呟き、煙草を箱からバラまき、言葉を続ける。
「見ろ、どぉ見ても、不吉だ」
「ンな、テメーにしかわかんねえ占いされても、わかるかあっ!」
吠えるように叫んで薙は部屋を出て行く。やれやれという風に息を吐く嶺。
「本当に不吉なんだけどなあ……なんで、信じられんかな」
《──信用できないから》
笑い声と共に発せられた言葉に、ぴくりと結い紐を持った手が反応する。
「わぁるかったな、信用なくて──天空」
視線を移した先には空間が歪み、ひとりの人物が現れる。
「事実なのに、どうして怒るかなあ〜」
嶺に近付きながら、天空は言う。事実っていうなっ、と嶺は心中で呟く。
「怒る理由アレだ、〝オカマ〟に言われたからだ」
肩より少し長い髪の毛を結いながら嶺は言う。その言葉に天空の額に青筋が浮かび、次いで、嶺の頬をこれでもかとツネる。
いででッと悲鳴をあげ、バシバシと天空の腕を叩く。頬から手が離されたが、ツネられた頬は赤くなっている。
「嶺くん~、〝アタシはオカマ〟って言われるのが嫌いって知ってるでしょ〜」
頬をさすり、涙目になっている嶺に天空は満面の笑みを浮かべて言う。スイマセンねぇ、とトゲトゲしく、彼は謝る。
「──それで? どういう風に不吉なのかしら? あの子のことを〝今さら〟、不吉と言われてもねえ……」
天空の言葉に嶺は表情を厳しいものにかえ、言葉を紡いだ。
「──薙を狙う者の出現だ」
────と。