始まりは記憶から・弐
「名前は封じられているから、わからないけど……神だよ」
「はあ?」
子供の答えに素っ頓狂な声を出す少年。そんな少年に青龍が「嶺」と名を呼ぶ。
「どうした?」
「その子は〝解放者〟だ。封じられた名と記憶を思い出すまで、我々が育てなければならない」
青龍の言葉に「……解放者かあ」と嶺は呟き、
「つまり、〝俺を殺す者〟なわけだ」
と、続けた言葉は小声だったので、子供には聞こえていない。がしがしと頭をかきながら、紫崎嶺は子供に手を差し出す。
「なに?」
差し出された手の意味がわからない子供は首を傾げて、聞き返す。
「────おいで」
嶺は微笑し、言う。子供は少しの間、逡巡したが、嶺の掌にそっと、自分の手を重ねた────。
「…………あ゛?」
それは夢だ。過去と呼ばれる夢。
青年へと成長した嶺は目を覚ます。
「懐かしい夢だなあ」
あくびを噛み殺し、嶺は呟く。子供を拾った時、嶺はまだ高校生だった。今は拾った子供が高校生だ。
「しっかし……〝自分を殺す奴〟を何で育ててんだか」
煙草を一本、吸いながら、階段を登ってくる音を耳にとらえながら、嶺は言う。
「おっはよー!」
「うるせえッ」
起こしにきたのであろう、成長した子供に嶺は怒鳴る。
「朱雀が起こしに行けって言ったから、起こしにきたのに、怒られる意味がわかんねえよ!」
むっとなりながら、薙と名付けられた成長した子供は嶺に言い返す。
「あのヤロー、絶対、ワザとだな」
嶺は朝が弱い。仕事の関係で夜型になっているのもあるのだろうが。それをわかってて、朱雀は薙に嶺を起こさせに行かせたのだ。
ふと、嶺は顔をあげ視線を薙に向けた。