決意・漆
薙の嗚咽を漏らしながら泣いている姿を、嶺は自分の部屋から無言で見つめていた。
彼は錫花と叶の最期を見ていた。ふたりの戦いを自分と薙に置き換えて。──もうすぐ、自分も〝ああなる〟と思いながら。
「……ッ!」
窓から離れた途端、心臓を刺す痛みで咳き込み──〝血を吐いた〟。
「……無理をするから、そうなる」
手についた血を見つめていた嶺に声をかけた人物に「わかってる」と答え、口許についた血を拭う。
「天后……〝その時〟がやってきた。〝俺も物語のひとつ〟。お前たちも薙も天界に戻る時が来た。──〝俺にその時がきた〟ように、な」
現れた十二神将のひとりに嶺はそう言った。
木々が風で揺れ、雲が月を隠している中、薙は泣き続けていた。そして、気づく。錫花の髪が黄金ではなく、紫色になっていることに。
「……なんで、紫?」
「──〝それ〟が彼女の言っていた【証】ってやつだ」
「どういう意味だよ?」
薙の質問に答えない嶺。
冷めた瞳で嶺は薙に「帰れ」と言い、有無を言わせない気迫に薙は言葉に詰まる。
「お前が天界に戻りたくない理由はわかる。誰だって、母親を殺したくない。それでも、お前は戻ると言った。そう言ったからには戻れ。──抗えはしないんだ……〝紡ぎだされた物語〟から」
動き出した運命を止めることは出来ない。
しばらくの沈黙の後、薙は「わかった」と答える。
「戻るよ、天界に……十二神将と一緒に──……」
ザアッと強風が吹き、隠れていた月が姿を見せ、月光が薙を照らした──……。




