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神の名・参



 ビシリと無数にある鎖の一本が切れ、太皇大帝たいこうだいていの館から戻ってきた錫花すずかは振り向く。



(……鎖が切れた……)



 切れた鎖を手にしながら呟く。切れた鎖の先には残った鎖に繋がれたまま眠っている女性がいる。



「己の名を口にした時、目醒めるのですね……」



 鎖を持ったまま、錫花は言葉を続けた。



「母上……黄帝こうていよ──……」



 ──と。

















 鎖が切れたのとほぼ同時に、薙は夢から覚めた。それと同時に彼の部屋のドアが開き、嶺がはいってくる。



「目ぇ覚めたか」

「うん……今、覚めた」

「よし、じゃあ、メシ食えるな。つーか、食え」



 強制的とも言える言い方をして、嶺は持ってきたスープをベットから起きた薙にお盆ごと渡す。それを受け取った薙は、しばらくスープを見つめた後で「嶺」と呼ぶ。



「なんだ?」

「……十二神将かしてくんない?」

「十二神将を?」



 なんで、と問い返す前に嶺は理解する。



「戻るのか」

「戻る前に『封印』を解かなきゃいけないんだけどさ」



 俺もよくは理解してないけど、と続け、嶺に説明する薙。



「俺が本当の名前を言ったら、封印が解けるようにするって言ってたけど、たぶんさ、下界に降りてからのことを言ってたと思うんだよ」



 封じられた神としての名──。

 その名を言うことで解ける母親の『封印』。

 短いようで長く感じる沈黙ののち、腹をくくったように、薙は嶺に訊いた。



「──嶺は実の母親と戦える? 殺せる……?」

「…………え?」



 その質問にとくりと、嶺の鼓動が高鳴る。同時に嶺の脳裏には、ひとつの映像が浮かぶ。

 血だらけで倒れている女性と──子供。

 瞼を堅く閉じた嶺は勢いのまま、壁を叩きつける。その動作に薙は吃驚する。



「……嶺?」



 荒い息遣いをしている嶺を心配そうに見る薙。



「……お前の母親は……殺せと言ったのか?」

「殺せとは言ってないけど、戦うのを躊躇うなって言ってた。戦うことを躊躇うなってことは……殺すのを躊躇うなって意味と同じだ」



 薙はさらに、一字一句、言葉を紡いでいく。それに呼応するように彼の母親の心臓が強く脈打つ。



「母と」



 ドクン……



「子の戦い」



 ドクン……



「黄帝と」



 ドクン……



「俺……」



 ドクン……



黄鳳おうほうの戦い──」



 ドクンッ!!



 無数にあった鎖がすべて切れたのは薙が己の名を呟いたのと同時だった……。





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