嚆矢(こうし)
中国神話の神様が出てきたりします。
神々の住まう──天界と呼ばれる場所からすべての物語が紡ぎ出される。
天界の中心に建つ、すべての始まりの場所であり、すべての終焉の場所に五人の人物が立っている。その内のふたりは中心に立っていた。
「……どこまでも残酷になるのね」
中心に立つ二人の内、黄金の髪と瞳をした女性が、己の前に立つ、紫の髪と瞳をした男性に言う。
「──黄華、残酷になると決めたのだ。……彼らの生命を犠牲にし、お前の生命も犠牲にし、俺の生命も犠牲にして、ようやく……すべての物語が終わる」
「……紫焔」
黄金の髪と瞳の、黄華と名前を呼ばれた女性は目の前に立つ男性の名前を呟く。
「そんな顔をするな、黄華。こうなったのは俺の罪。俺の生命だけで事足りるならよかったが、無理な以上、仕方ない」
紫色を纏う、紫焔という名の彼は視線を──空中に浮かぶ、円形の形をした人間ひとり分が入る大きさの、水晶に移す。
「物語を〝再び〟紡ぐのは四百年後。それまで俺は眠り続ける」
水晶に移していた視線を、今度は扉の方に向ける紫焔。
「お前たちの生命を犠牲にする俺のことを憎んで構わない」
「……〝自由〟のためには仕方ないってお前が言ったんだろう」
茶髪に紅と銀の色をした、オッドアイの人物がため息まじりに言う。
「憎むわけないわ」
「未来のために犠牲になるよ」
扉のところにいた三人のうち、残りの女性と男性がそれぞれ答える。そして、紫焔以外が同時に言葉を紡ぐ。
「すべては〝自由〟のために……」──と。