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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

少女と猫

作者: 水夜 漓歌


 少女は、治る事はないと言われる重たい病にかかっていました。そのため、広い病室の中でいつも一人でした。一人も友達が居らず一人ぼっちの少女は夜、満開の桜を見ながら願いました。

「誰か、私とお友達になって」――と。


***


 猫は、黒い色をしていた為に仲間も居なく、どこに行っても煙たがられるだけなのでいつも一匹でした。そんな猫は、ある日病院の一室の前の中庭を通りました。その時に見えた少女。彼女は、猫に気付き声をかけてきました。「君も、私と一緒なのね」と、寂しそうに。

 猫は気付きました。この少女も自分と同じで、一人ぼっちだという事に。この日からです。猫は毎日、少女のいる病室の前の中庭へと行くようになりました。


***


 少女が桜に願い、一人ぼっちの猫と彼女を巡り会わせ、一人と一匹は一人ぼっちではなくなりました。少女と猫は、とても仲が良く見ていて微笑ましいものでした。が、この幸せは長くは続きませんでした。――とある雨の降る日。少女が、いきなり倒れてしまったのです。

「ニャー、ニャー!!」

 猫は泣いているかのように、鳴き叫んでいます。まるで「どこにも行かないでよ」と、少女に言っているようで。

 猫は願います。―この子を助けて!!―、と。すると、天使と悪魔の二人の少女が目の前に現れました。

「この子を救ってあげる。」

「けど、そのかわり君の命を貰っていくよ。」

「「願いを叶えるための対価は君の命。……さぁ、どうする?」」

 猫は迷うことなく、頷きます。

―僕の命をあげる。だから彼女を助けて!!―

 天使と悪魔は頷き

「「取引成立しました。」」

そう言い、消えていきました。そして猫の視界は徐々に暗くなってきました。これが、死ねという感覚なのでしょうか。

(もっと彼女と遊んでいたかったよ……、けどもう一緒にはいられない。)

一筋のなみだが猫の目から零れ落ちます。

 そんな猫が最後に見たのは、少女が目を覚ました所でした。

少女が恐る恐る猫の体に触れる――その時に小さく「ニャア」と呟き、もう覚める事のない夢の中へと落ちていきました。

ありがとう、楽しかったよ。僕の分まで、精一杯生きて。もし…、生ま…れ……変…われた、ら――また……仲良く…して、ね…?


***


 少女は、病室のベッドの上で目を覚ましました。

「…あれ?私、は――。」

 そして、ベッドの上にいる猫に気付き話しかけましたが、猫からは返事がありませんでした。恐る恐る猫の体に触れると猫は弱弱よわよわしく「ニャア」と小さく鳴き、それ以降動かなくなりました。少女は泣きました。

「どうして?――私を一人ぼっちにしないでよ」と。


***


 少女は、唯一の友達を亡くしたその日から見る見るうちに回復し、3か月後に退院しました。親友であった一匹の猫――サクの亡骸をその腕に抱いて。

「この子は、私が好きな桜の木の下で眠らせてあげるの。」 

――この子との思い出を忘れないために、と少女は笑う。

 毎年桜が咲く頃になると、彼女は唯一の友達であった猫の眠る桜の木の下に行き、 嬉しかった事、悲しかった事を語るのでしょう。――桜の木の下で眠るサクに。

 そして病院から出たことがなかった少女は、まだ見ぬ世界へと旅立っていきました。サクの死という悲しみを乗り越えて。




~数年後~


 大人になった彼女が桜の木の下で幼かった頃の病院での出来事を思い出していると、サクに出会った時と同じくらい――中学生くらいの少年が

「貴女も、桜の木が好きなんですか?」

と声を掛けてきたので、彼女はこう答えました。

「ええ。だって、サクラは私の大切なお友達だもの。」

そう、微笑みながら。

少年は「僕と一緒ですね。」と嬉しそうに笑ったのでした。


***


サクと名付けられた猫が人間に生まれ変わるのは彼女と彼の物語の後の、未来の話。







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