ハロウィン異話
ジャック・オー・ランタンは立ち上がった。
カボチャの中の魂の火は燃えていた。
ジャックは世間の噂とは違い、
生前、悪事を働いたことが無かった。
真面目な農家で、主にカボチャを栽培していた。
ただ彼には、おかしな友人が多かった。
ジャックの友人は、
吸血鬼、狼男、フランケンシュタインの怪物、幽霊、魔女、ゴブリン、ゾンビ…
人間に怖がられている者達だった。
最初の頃は皆、人間であるジャックが、
友人になりたがるのを変に思い、
怖がらせて追い払おうと、酷い悪戯を仕掛けた。
彼は酷い悪戯に引っ掛かっても、毎回笑いながら許し、
会えたのが嬉しいと、お菓子を用意して配った。
彼は本当に嬉しそうで、
無視されても、
会う度に「こんにちは」と挨拶をした。
彼が本気であることが分かり、
次第に、変化が訪れた。
小さな声で「こんにちは」と返す者が現れた。
やがて、皆、彼に心を許すようになっていった。
彼の家に遊びに行くようになった。
いつしか、彼の家のドアを開ける時の合言葉は、
「トリック・オア・トリート」
になっていた。
皆笑いながら、家の中に入った。
人間ではない友人達は、夜に活動することが多い。
夜中に彼らは、楽しく遊び、語らった。
ジャックは皆を楽しませるのが好きだった。
カボチャの皮を削って、友人の顔、人形、船や家など、
様々なものを作り、明かりを灯した。
中でも一番好評だったのは、
カボチャに彫った悪魔のような顔だった。
彼自身も気に入り、カボチャの顔を被って、
友人達と会うようになった。
その方が、人間の姿よりも、
友人達の一員になれている気がした。
ジャックは工夫して、
被っているカボチャの中から、
小さな明かりを灯すことに成功した。
より非人間的な不気味さ、悪魔感が増した。
友人達は大喜びだった。
フランケンシュタインの怪物が、
恥ずかしそうに、そっと呟いた名前、
「ジャック・オー・ランタン」が、
皆に気に入られ、その日から彼は、
ジャック・オー・ランタンと呼ばれるようになった。
やがて年月が流れ、
彼は大往生で、この世を去った。
当然、天国行きだった。
だが、彼は、
一緒に付いて来ようとした友人達が、
天国の門をくぐれないことに、抗議した。
分からず屋の天使達の前で、
彼は啖呵を切った。
「この友人達と一緒でない限り、
僕は、天国の門をくぐらない」、と。
彼らは天国を後にした。
それでも彼は、落ち込んではいなかった。
死者が行く所は一つではない。
地獄ならば、皆一緒に居られるはずだ。
彼は地獄に向かう途中、
地上で、自分のカボチャ畑に立ち寄り、
カボチャを頭に被った。
カボチャの頭の中を、
綺麗な魂の火が照らし、
何の工夫をしなくても、
彼はジャック・オー・ランタンになった。
地獄に辿り着いた彼は、
地獄の門の前で愕然とした。
友人達は地獄の門を通れるが、
生前、悪事を働かなかった彼は、
地獄に入ることは出来なかった。
地獄の門番に、バーカあーほと言ってみたが、
その程度では地獄に入れないし、
評価されるのは生前の行いなので、
今更遅いと言われた。
彼は落ち込みながら、地獄の門を後にした。
友人達は、啖呵を切った。
「友人ジャック・オー・ランタンと一緒でない限り、
我々は、地獄の門をくぐらない」、と。
地上に戻ったが、彼らは当て所無く、
遠くの街の光を見つめていた。
すすり泣きが、あちこちで聞こえていた。
彼らは、天国にも地獄にも居場所を失ったのだ。
上を見上げると、
曇り空の中に星が、自分達と同じ様に、一つだけあった。
一つでも、その星は美しく眩しかった。
ジャック・オー・ランタンは立ち上がった。
カボチャの中の魂の火は燃えていた。
「居場所がないなら作ればいい。
この地上に。
今日、この日から。
地上を、イタズラとお菓子で埋め尽くせばいい」
友人達は立ち上がり、
喚声を上げた。
そして、彼らは街へ下りていった。
長い長い年月の後、
人間達の中で最初に受け入れてくれたのは、
子ども達だった。
その後、大人達も
次第に受け入れてくれるようになった。
もちろん、
教会や、国によって、
無視される所もあるが、
彼らは、
地上に居場所を手に入れた。
ある日、友人達が、
彼に尋ねた。
「あの時、成功すると確信があったか?」
ジャック・オー・ランタンは、
もう時代遅れの、
あの頃の古い言語を使って、答えた。
「確信なんて無かった。
でも、僕は信じたんだ。
こんにちは『Hallo』を、信じた『ween』
あの時のように」




