表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

青空と蒸気圧 ――鳥は林を、人は空を懐かしむ

作者: 宵凪 陣
掲載日:2026/08/24

空の色の話。


羈鳥きちょう旧林きゅうりんを恋い、池魚ちぎょ故淵こえんを思う」

故郷を離れた人間が思い起こすのは、やはりあの見慣れた空の色だ。


ふと、「夏の名古屋は晴れていても空が白っぽいな」と思った。

綺麗な青空がなかなか拝めない。

地元の信州松本はもっと空の青が濃く、白い雲とのコントラストがはっきりしていたように記憶している。


単なる思い出補正や地元贔屓だろうか。

気になったので、夏の自由研究と称して少し調べてみることにした。


私の仮説はこうだ。

「空気中の水蒸気量が多いと太陽光が散乱し、空が白っぽくなるのではないか。

名古屋は松本よりも湿気(水蒸気)が多いため、空が白く見えているのではないか」


物理の仕組みを調べてみると、この勘は当たっていた。

大気中の水蒸気(微粒子)が少ないと「レイリー散乱」という現象で青い光だけが綺麗に散乱し、空が濃い青に見える。

逆に水蒸気が増えると「ミー散乱」が起き、すべての光が均等に散乱されて白っぽく見えるのだという。霧の日に視界が真っ白になるのと同じ理屈だ。


次に、気象庁のデータで両都市の「平均湿度(7月・8月)」を比べてみた。

すると、松本が66〜69%なのに対し、名古屋は66〜71%。

……あれ? 思ったほど差がないな。


首をかしげながら数値を眺めていると、「蒸気圧」という見慣れない項目が目に入った。

調べて納得したのだが、「湿度(%)」とはその気温で抱えられる水分量の「割合」に過ぎない。

対して「蒸気圧(hPa)」は、気温に関係なく空気中にある水蒸気の「絶対量」を示すのだという。


なるほど、見るべきは湿度ではなく蒸気圧だったのだ。




あらためて夏の平均蒸気圧を見てみると、松本が23hPa前後なのに対し、名古屋は28hPaを超えていた。段違いである。


松本は2000m級の山脈に囲まれた内陸性気候のため、海からの湿った空気が届きにくく空気が乾燥している。

一方の名古屋は、伊勢湾や太平洋から水分をたっぷり含んだ空気がダイレクトに流れ込む平野部だ。

同じ「晴れ」でも、水蒸気の量がまるで違うのである。


やはり思い違いではなかった。

ちなみに松本の夏の蒸気圧(23hPa)は、名古屋で言えば9月下旬から10月以降の数値に相当する。

簡単に言えば、松本では夏場から「秋晴れのスカッとした青空」が見えているようなものなのだ。


「えー、そんなに違うの?」と思った方は、ぜひ一度、夏の信州松本の空を仰ぎ見てほしい。

紺碧こんぺきの空と、遠くにそびえる純白の雲の峰。

ジリジリと肌を焼く強い日差しと、驚くほど乾いた風を。



追伸

本文でも触れた通り、松本は湿度が低い代わりに日差しが痛いほど強い。

強烈な日光に対抗すべく、学生時代の私がよく講じていた策が、松本駅近くの老舗和菓子店「開運堂」本店への避難だ。

ここには精密機械が強みの中信地域らしく、ロボットが自動で巻き上げてくれる名物のソフトクリームがある。

専用コインを入れてロボットの手際を眺めるのも楽しく、日替わりのフレーバーも美味い。

痛いほどの強い日差しを浴びた身体に、乾いた風と冷たいソフトクリーム。

これこそが、信州松本の夏を生き抜く最高の攻略法である。

本文で参照した気象庁の観測データ(2025年7月・8月平均)の補足。

■ 7月・8月の平均湿度

松本市: 7月 69% / 8月 66%

名古屋市: 7月 71% / 8月 66%

※湿度だけ見ると両都市にほとんど差がない

出典:気象庁「過去の気象データ検索(長野県 松本)」https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/view/monthly_s1.php?prec_no=48&block_no=47618&year=2025&month=01&day=&view=a2


■ 7月・8月の平均蒸気圧(空気中の水蒸気の絶対量)

松本市: 7月 23.1 hPa / 8月 22.9 hPa

名古屋市: 7月 25.7 hPa / 8月 28.4 hPa

※名古屋の8月は水蒸気の絶対量が圧勝。松本の23hPaという数値は、名古屋の9月下旬〜10月並みの乾燥具合

出典:気象庁「過去の気象データ検索(愛知県 名古屋)」https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/view/monthly_s1.php?prec_no=51&block_no=47636&year=2025&month=&day=&view=a2


■ 光の散乱(レイリー散乱とミー散乱)

大気中の水蒸気が少ないと「レイリー散乱」により波長の短い青い光が際立ち、空が濃く見える。

逆に水蒸気が多いと「ミー散乱」が起きてすべての光が均等に散乱され、空全体が白っぽく霞んで見える。

出典:カトウ光研株式会社「ミー散乱とレイリー散乱|原理と事例を解説」https://www.kk-co.jp/visible/mie_scattering_and_rayleigh_scattering/


■開運堂のホームページ

https://www.kaiundo.co.jp/Page/icecream.aspx

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ