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怪奇事変

怪奇事変 落とし物

掲載日:2025/12/22

定期落とした時ガチで焦った、結局見つからなくて……

 第九怪 落とし物


 「へへへ、俺はまだ飲めんぞ!」

 「先輩先輩!次はあそこの店にしましょうよ~」

 酔っ払い2人が夜の街を歩きながら次の店へと足を進める中、道端に見慣れたモノが落ちている。

 先輩と呼ばれた男は焦った様に支えられた腕を振りほどくと、そのまま一目散にその落ちているモノを拾い上げ、ニヤリと笑みを浮かべた。

 「おい、コレ!財布!」

 「マジっすか!?いくら入ってます?」

 当人たちは落とした持ち主の特定など関係なく、その落とし物に入った金銭に目が眩む。

 「1、2、3……10」

 「なんだ、大した金額じゃ――」

 「万札だぞこれ!」

 「マジっすか!?」

 合計した数値は約40枚の万札が入っていた事を確認すると、男たちはその場で抱き合って笑いあった。

 「コイツは天からの贈り物だ!」

 「コレで今日は朝まで~飲むぞ~!」

 そうして落とし物は彼等2人に行き渡り中身が空になるまで使用されるのであった。

 だが、それは男の言った天から贈り物――まさにその通りであった。

 天からの贈り物とは解釈は幾らでも可能だ。




 「頭いてぇ……」

 昨日道端に落ちていた財布で馬鹿みたいに飲み騒いだが、その疲れと二日酔いのせいで今だに頭がズキズキと痛む。

 「……あ?」

 何件もの通知がきた携帯の電話画面がチラつく。

 携帯を手に取りつつ、内容は確認しないまま冷蔵庫に入った水をコップに注ぎ飲みながら内容を流し見していく。

 「ブフ!?」

 思わず口の中の水を吐き出してしまう程に驚いてしまったのだ、何故ならばメッセージを送ってきたのは先輩で、その先輩が持っている財布の中身は昨日と同様、

 万札がぎっしりと入っていたからだ。

 「マジかよ……」

 だがそれはおかしいと、ソファーに腰をかけながら画像を見て思う。

 これは上司の悪戯ではないかと。

 だが悪戯にしてはスケールが大きいと言うか、やってる事が某動画サイトに投稿する人達と同じ様だと感じてしまった。

 「先輩ってそっち系好きだったっけ?」

 どちらかと言えばエロサイトなどを毎日見てるイメージで特定の好みのモノがあればそれを報告したり、キャバクラで女性の尻を触ったりとかならあるが……。

 『40万、昨日使いましたよね?』

 そうチャットに入力するとすぐさま返信が返ってきた。

 『ああ、使ったのにまた40万入ってたんだ!いや、正しくは41万に増えて、1万も増えてやがった』

 『先輩、まだ酒抜けてないんですか?これってアレですよね、ドッキリってやつ』

 『ちゃうちゃう、ほんま!暇なら直接見に来いよ!マジで41あるから!』

 時間を確認するともう昼間だ。

 丁度腹も減ってる事だし、何かないか冷蔵庫を確認するも、すっからかん。

 外食を済ませつつ先輩の家に訪問するって手はずで行くことに決め、チャットで返答を返し、出かける準備を済ませる。

 「先輩も阿保が移ったかな……」

 昨日の散財の仕方は尋常じゃなかった、飲みに行って、キャバクラに行って、もう豪遊って感じだ。

 持ち主に返すって話だったが、変に警察に怪しまれても問題になると考え、そのまま持ち帰る事にしたんだっけ。

 使った40万が手元に戻ってきて、更に1万も増加して手元に残るなんて……あり得ない。

 きっとまだ酔いが覚めてなくて、幻覚を見ているに違いないと判断していたのは、この時ぐらいだった。

 



 「先輩~」

 「お、おう!来たか」

 「……なに共きょどってるんですか?」

 「いいから、早く入れって!」

 まだ僅かに酒臭い息を吹きかけながら部屋に招かれると、アルコール中毒者独特の家だなって思う。

 缶ビール、つまみ、2Lのウイスキー、もう酒が大好きと言わんばかりの量だ。

 連れて来られたのは昨日落ちていた財布だ。

 長財布は既に開けられており、その中からは昨日と同様の万札がこぼれる様に落ちていた。

 「先輩、コレって先輩のお金なんじゃ――」

 「んな訳ねぇだろう!マジで朝起きたらよ、鐘が戻ってたんだ!いや、確実に1枚多く増えてたんだよ!!」

 酒臭い息を吹きかけながら詰める様に語る先輩を軽く押しのけて答える。

 「分かりました分かりました!だとしたら俺達は凄い“拾い物”をしたって事じゃないですか!」

 「ああ?」

 「考えてみてください、そもそも普通に働いて色々引いた手取りが20だとして半分!つまり、無理に仕事しなくても、この財布さえ先輩の言う通り次の日に元通り――いや、それどころか1枚ずつ仮に増えてるならもう馬鹿みたいに働く必要性なんてないじゃないですか!」

 「おお!考えてみりゃそうだな!」

 そう、保険に厚生年金、住民税と所得税に訳の分からない会員費などその他諸々を控除した結果、手元に残る金額は給料の20/30と言う割合になるならば、仮に会社を辞めて通常の年金や住民税などで引かれても、裕福な生活をしなければ十分に生活できる範囲内である。

 「これで俺達は金持ちだ!」

 「いや、金持ちではないですが、脱サラですね、コレは」

 あくまで仮定の話で、もしコレが先輩の悪戯ならすぐさま仕事を辞める事は得策ではないし、何よりこの非現実的な状況は受け入れがたい。

 様子を見る事にした後輩はその日、先輩と軽く家で酒飲みをし、明日の仕事の為、帰宅する事に。

 すると何時もの飲み屋の前を通る、あの時、酔っぱらって何処を歩いているか分からない状況だったが、確かここら辺で財布を拾ったのを覚えている。

 と、今度はそこに落ちていた物は腕時計だった。

 しかも誰もが聞いた事があるロルックスの腕時計、数百万はくだらない代物。

 我を忘れた様にその腕時計を拾い確かめると、ロゴもロルックスになっている、本物だ!

 「う、嘘だろ、こんな立て続けに……」

 ふと誰かの視線が気になり振り向くも誰も見ておらず無関心に歩いているだけ。

 そっと鞄の中に時計を納めその場から走り出す。

 先輩の財布の真偽はまだ定かではないが、この腕時計は本物だ。

 明日会社を休んで質に見てもらおうと考えるも――

 「いや……それはダメだ」

 もし急な休みを出した際に、何か勘繰られても面倒だ。

 何より此処に居る人物達が“見ていなかった”と言う保証はない。

 つまりそれは先輩に伝わる可能性もあると言う事だ、案外世の中は人と人の繋がりで回っている。

 ロルックスの腕時計なんてバレでもしたら先輩は嫉妬でそれを奪いにくるかもしれない、それだけは絶対に避けなければならない。

 そそくさとその場を離れ帰路に着くのであった。

 翌日、先輩は会社を休んでいた。

 それもそのはずだ、あの話が本当かどうかだとしても、昨日見た数十万円は本物だったのは確かなのだから。

 ならば先輩の取る行動としては嘘の欠勤だろう、見舞いに行こうなんて冗談を考えたが、ある意味見舞いに行く理由は……あった。

 明日以降、また欠勤するようなら休んでいる中、申し訳ないが見舞いに行ってみよう。




 次の日――

 先輩の家のインターホンを鳴らすと先輩は出てきて、快く俺を向かい入れてくれた。

 そして見せたのは昨日と同様の金額……いや、正しくはもう1枚増えていたのだ。

 これで42万円、そして昨日使った領収書を確認すると確かに明細には40万近く使った履歴が残っていた。

 預金残高も確認を取ると、10日前からお金は減っておらず引き出しドッキリなどではなかったと言う事になる。

 つまり……本当に“お金になる財布”だと言う事が分かった。

 「先輩……そう言えばこの財布の持ち主とか分かったんですか?」

 「ああ?そんなもん気にしてどうするんだよ?」

 「別に……返す、とか?」

 「はぁ!?こんな“金になる財布”早々返してたまるかって話だよ!」

 確かにその通りではあるが……正直不気味さも感じていた。

 2日続けて失った金が戻ってくるどころか、増えて戻ってくるまさに“金になる財布”。

 そんな物を落とした持ち主が探そうと思わないはずがない。

 それ以外にも前回落とし物として落ちていた場所を通行した時に落ちていた“ロルックス”の腕時計……。

 今それは俺の鞄の中にある訳だが、これを探しに来ないのも不気味だ。

 「へへ、俺はこれで金持ちだ!」

 隣の壁など気にせず大声で叫ぶ先輩はとりあえず、仮病を使って休んだ事と、あの財布について嘘ではなく本当の事だと理解した事だけが唯一の収穫であった。

 帰宅時、先輩に飲みに行こうと誘われたが別件があるとの事を伝えるとそのまま質に行き、“ロルックスの腕時計”を鑑定してもらった結果――本物だと言う事がわかった。

 その場で売却をかけると俺の手元には数百間の札束が目の前に置かれ、急いでそのまま鞄の中に収納した。

 そして預金をしてそのまま早鐘を打つ心臓を落ち着ける様にその場で崩れた。

 「大丈夫ですか!?」

 「あ、ああ、ちょっと急いでて……少し休めば大丈夫」

 ありがたい話だ、ありがた過ぎて怖くなるぐらい。




 また翌日――

 俺は帰宅途中に先輩と飲みに行った通路を通ると、そこには一冊のノートが落ちていた。

 「フ……流石にコレは――」

 〇〇ノートを思い出すも、疲労とそこには丁寧な、綺麗な字で細かく1日の出来事が記されていた。

 それはコレから起こるであろう俺自身に起こり得る全ての情報、1ページ分に1日の情報が網羅されていた。

 「10月14日水曜日19時15分、交通事故に遭遇、危うく携帯を見ていた為、気づかずに車に惹かれそうになるも、前日に充電した携帯のバッテリー切れにて奇跡的に助かるも、

 代わりに帰宅していた学生数名が命を落とし、残りは重症……アナタは安堵と恐怖の境の中で足早に帰宅する事でその日を終える。」

 今日は13日の火曜日、明日が水曜日、ならばこの出来事は直近で起きる事を暗示している、つまり予言書である。

 そんなものなどスピリチュアルの世界だけだろっと思っていたが、此処まで摩訶不思議な出来事に遭遇しているせいか、疑いを向ける感覚が麻痺していた。

 そして次の日――この日に俺は交通事故に遭う可能性があると言う事になっている。

 予言書がその通りなら少なくとも19時までには危機的状況にはならないはず、それ以前に――

 「12時40分に昼食って、ほとんど休憩時間ないじゃん」

 そんな愚痴を零しながら通勤するのであった。

 会社に着くとやはり先輩は今日も会社に着ておらず、上司にどういった事情が聞いた所、体調が悪いみたいでと適当に流した。

 と言うか、そう言うやり取りって普通本人とやるべきだろうっと内心は思っていたが、まぁ仕方ない、周囲から見ても飲み仲間だと思われてるし、何より休んでいる。

 あまり会社から事情を聞きだすのも良くないなっと思ってしまったのだろうと解決し、12時が回った所で上司に書類の件で不備があったと言う連絡をもらう。

 どうやら会社を休む先輩のミスだったらしい、それの尻拭いと言う形でパソコンに向かい処理を進めていると既に30分は容易に過ぎており、昼食は40分と短い時間になってしまった。

 「あ……」

 そう言えば昨日拾ったノート、間違いなく12時40分に昼食をとると書いてあった。

 その通りになった、こんなことがあり得るのか?

 「先輩、俺……臨時収入に予言書まで手に入れましたよ」

 普段使いなられた道に置かれた誰か分からない“落とし物”は、徐々に2人の人生を変えて行く様な気がした。

 そして帰宅時、またあの通りに入るも落とし物はなかったが誰か倒れていた。

 「だ、大丈夫ですか!?」

 「あ、ああ、すまない、持病でね」

 「何か手伝えることはありますか?救急車呼びますね!」

 直ぐに110番をして救急隊を着てもらう手はずを勧める。

 その際に外部に傷はないか、体調はどの程度大丈夫なのか?そんな具体的な内容を聞いてやり過ごす内に、サイレンの鳴った白いバンが到着した。

 「急患人です!前通ります!君、ありがとう、此処からは私たちが引き継ぎます」

 「お願いします」

 それを見送ると最後に男はこちらを振り返り何かを口で言っていた様な気がするが、何を言っていたか分からなかった。

 帰り交差点で信号を待っている間、アプリのゲームをしていると後から煩い団体が到着した。

 学生だ、恐らく部活帰りの。

 イヤホンを付けて外部とシャットアウトした状態で携帯のゲームに集中しつつ、少ない視界で動き出した周りの反応を見て足を進めようとした際、携帯の画面が消えてしまった。

 携帯のバッテリーが消えてしまったのだ。

 「クソ!昨日充電し忘れ――」 

 その瞬間、ハンドル操作が効かないのであろうと言うのが一目瞭然の車がこちらに走ってくるのを見かけた。

 咄嗟の判断だった、俺は身体を放る様に躱し、躱しきれなかった学生に車が衝突した。

 苦悶な呻き声、鳴き声、悲鳴、それら全てが静寂を支配し騒音と化した。

 急いで出てきた車の運転手は顔面蒼白になりつつも、他の通行人がすぐさま電話で救急隊を呼んでいるのもうかがえる。

 だが俺だけは違った、腕時計を確認すると――19時15分。

 あの予言書通りであった。

 帰宅して予言書を見返すも、どれも書かれた通りの内容である。

 俺が倒れた通行人を助けるのも書かれており、その際に時刻も明確に記載されていたが、結局その時は時刻を確認してなかった為、詳しい時刻は不明だった。

 だがその時に言われた言葉であろう口パクの言葉は、この予言書に書かれていた。


 ――盗人――


 次の日、俺は急いで先輩の自宅に行き、近所の迷惑なども関係なくドアを叩き声を出して先輩を呼ぶ。

 「先輩!いるんでしょ!開けてくださいよ!先輩!」

 「なんだよ騒々しいな、秋なのに汗だくで此処まで走っ――」

 問答無用で肩を掴み、先輩に警告する。

 「先輩、あの財布、返しに行きましょう!」

 「はぁ?なに言っ――」

 「コレ!コレ見て!」

 俺はノートを先輩の顔に押し付けつつ家に押し上がり、そのままノートのページを昨日の日付の場所を見せる。

 「此処に書いてある内容は全部本当の事なんです」

 先輩は難しそうな顔をしながら見るも、その後「プッ!」っと吹き出し笑い始めた。

 「何がおかしいんですか……」

 「だってよ、コレが本当に“予言書”だって確証が何処に証明されてるんだ?昨日の事件が起きた時刻以外はお前しか分からない事で、事件の時刻だってたまたまだろ?」

 「いや、そなはず――」

 っと言っても言う通りだ。

 昨日の出来事の全てを証明できる手立てはない。

 昼食に関しては上司に聞けばそのぐらいの時間っと言う漠然とした回答が聞けるかもしれないが、それでも実際に食事をした際に居たのは俺1人、そして何よりこの莫大な

 情報量の中の全てを説明できる事など、できるはずもない。

 人が倒れていた情報、その方を病院で送った時刻は搬送した方に聞けても、聞こえなかった声は誰も聞いてない。

 「悪ふざけも大概にしろよ、お前も今の現実を喜べって!あ、そっか……お前、この金もらえてないから悲願でそんな下らねーノートでも書いたのか?」

 「はい?」

 「だよな~、拾ったの俺だしな~、分かるが俺が拾った者だから俺に権利があるからな~」

 「いや、それ落とし物じゃ――」

 「落とした奴が悪いんだよ!あ!?お前はわざわざ仕事帰りに俺に説教かまして聖人ぶってんじゃねぇぞ!?」

 「そ、そんなつもりじゃ」

 「んじゃどう言うつもりだ?こんな見え見えのノート作成して、俺に何の関係があるんだよ!」

 「それは――」

 「ねぇよな!結局(ひが)みなんだよな!?だったら素直にそう言えば良いだろ!?俺に金下さい~って」

 ふと何かが割れる様な音がしたような気がする。

 ドス黒い感情の波が、襲ってくるような……自分ではコントロールが効かない感情が身体の全身を支配しようとしていた。

 「そうですか、なら楽しんでくださいよ。持ち主が来て訴えられないと良いですね」

 「ああ!?」

 「ついでに仮病で休んでた事も知られないと良いですね」

 「脅しかテメェこの野郎!!」

 「ぐぅ!?」

 胸倉を掴まれ取っ組み合いに発展してしまう。

 何とか先輩の束縛から離れようと力一杯押し返し、家を後にしようとするも後ろから唸り声と共に首を羽交い絞めにされてしまう。

 「せ、ん……ぱ――」

 本気で力を入れている、このままでは窒息死してしまう。

 爪で腕をガリガリと肉を削る様に藻掻くも意識が遠のき徐々に力が抜けて行ってしまう、そんな中最後に思い切った力で腕に噛みつく。

 「いってぇ!?」

 「はぁ、はぁ……」

 首を摩ると怒りが込み上げてくる。

 「先輩!!」

 感情的になった俺は厨房に放置されていた包丁で襲い掛かる先輩の腹部に目がけ刺す。

 するとまるで肉に火が通り易くする為、穴をあけるかのような感触が伝わると同時に、鮮血の血飛沫が舞う。

 「お…ま……え」

 そのまま崩れる先輩、だが不可抗力だ、これは不可抗力。

 急いで先輩に駆け寄るも流血した腹部の血は止まることなく流れ続け、だんだんと体温も奪われて行くような……。

 「は、刃物!あと……さ、財布!」

 良いのか?このまま金目の物まで盗んで?

 一瞬そんな思考が過るがコレで良いと納得させ慌てて家を出ると誰かと衝突した。

 「テメェこの野郎!何処見てやがる」

 「……」

 声は発しずそのまま駆け降りるとしばらくして悲鳴の様な声が聞こえる。

 間違いない、今当たった人は先輩の殺害現場を見てしまったのだろう。

 急いでその場を離れ、家に着くとすぐさま服を脱ぎ捨て、洗う?いや、燃やした。

 その後、身体を綺麗に洗い包丁となる凶器はジップロックに入れて、毛布でグルグル巻きにして封印した。

 まだ緊張治まらない中、ノートを取りだして今日の出来事を見ると――そこには先輩の殺害を予告する文章が書かれていた。

 やはりこのノートにはその1日の出来事が事細かく書かれている様子だ、つまり……この文章を読んで行けば自分がどうなるのかがある程度分かる事。

 「場合によっては回避可能なのか?」

 現時点では100%成就しているノートの出来事、それとは違う行動を取った場合、それは成就しないのか?

 それとも別に物事は起きるがそこに自分は関与しないのか?

 色々調べる必要性はあるが、今日はひとまず疲労のせいで疲れてしまい机でつっぷするように寝てしまう。

 



 翌日――

 会社を休もうとも考えたが先輩を殺害してしまった事を悟られない為に、今日も出社した。

 ノートによると次の日に警察が俺の勤める会社に訪れ事情聴取をするらしい、そこで疑いの目を向けられるのは俺になるらしい。

 まぁ仲が良かったのは間違いないから、そこに目を向けるのは間違いではないが、その日は特に何も起きないらしい。

 問題が起こるのはその3日後、だがそれ以降は白紙となっており綴られたストーリーが無くなっていたのだ。

 「3日後に何か起こる……」

 「何か言ったか?」

 「い、いえ、何も!」

 いけない、自分の声が知らない内に出てしまっていたのかもしれない。

 兎に角5日後だが、その前に確認しておきたい事がある。

 会社に帰宅後、交番に落とし物がないか確認をした、財布とノート、そして腕時計……だが何れも届け出は出されておらずその様な物はないとの事。

 そして、搬送された病院にも連絡を取った。

 その後患者はどうなったのか?だが親戚でも誰でもない人間にはお答えする事は出来ないとの事で生死は不明と言う事になっていた。

 何も分からないまま、普段飲み歩いて居た道に通り、暖かい光が懐かしさを彷彿させる。

 経った3日で変わってしまった日常、全てはあの財布を拾い、そこから腕時計、ノート、そして人助けをした事で全てが狂ってしまった。

 「あの頃に戻れたら……」

 言葉が自然と漏れる中、急な寒気に追われる。

 周囲の暖かみのある光など差し込む余地のない程、暗い深海の様な暗さと重さ。

 なにか……とてつもない所に入ってしまった感覚。

 周囲の人たちは何気ない顔でその場を通り過ぎるも、俺だけに感じるこの違和感の正体はなんなのか?

 「こんばんは」

 「ッ!?」

 反射的に前のめりになりつつ距離を取る。

 「あ、驚かせるつもりじゃなかったんだが、こう言う者でして」

 そうするとよくドラマで見る警察手帳だった。

 「(おかしい、3日後に会社にくるはずじゃ……)」

 だがこの場でノートを取りだしてそれを確認する術は……悪手となるだろう。

 そして警察は淡々と話し出した。

 「4日前に此処で倒れている人物が殺害されていましてね、貴方はその人物と接点があると言う事で――」

 「(殺害!?先輩じゃなくて助けた人が??)」

 どうなっている、その様な内容はあのノートには記されていなかった。

 何が原因でその様な事態になっているのか詳しく聞く事にすると、どうやら何者かに腹部を刺されており、殺害事件として捜査しているとのこと。

 腹部、殺傷、思い浮かぶ人物は1人しかいない。

 だがその人物との接点はあの助けた時以外には……ない。

 「実は――」

 「あ、ここではなんなんで、別の場所で」

 そう促されて喫茶店で会話をする事になった。

 店内である程度の事情説明から、隅の席に案内されてそこで俺は、ありのままの話をした。

 その後救出した人物がどうなったか病院に連絡をかけた所、部外者との事で話をする事ができなかった事、その後の行方については全く分からなかった事、最近の出来事で

 自分が行った所(先輩の事は隠して)。

 話す頃には注文した珈琲の中身が空になっていた。

 「ありがとうございます、お代は気にしなくて良いので」

 「あ、はい……」

 「そうだもう1つ、亡くなられたその人物は“ロルックスの腕時計”をしていたそうで――」

 ガタっと椅子が転倒する音が店内に響く。

 それは紛れもなく、俺が拾った“ロルックスの腕時計”……質に入れて金にしてしまったが、まさか――


 ――盗人――


 その言葉は反響する。

 「他にも財布に何やら大事そうに抱えていたノートを保持していたそうですが、知りませんか?」

 「――いえ、知りません」

 「そうですか、ありがとうございます」

 警察官2人はそのまま喫茶店の入口まで案内されその場で解散する事になった。

 足早となる、すぐさま家に戻りノートを確認すると、ノートは白紙になっていた。

 「え?はぁ?な、なんだよ、コレ……」

 あれだけつらつらと綴られていたじゃないか?なのに白紙って――そう言えば3日後の出来事も記されていなかった。

 3日目のページを捲るとそこには“盗人”と言う言葉で埋め尽くされていた。

 「わぁぁぁぁぁ!!?」

 ノートを放り投げその場で体制を崩れてしまう。

 何か冷たい物が触れたかと思ったその直後、更に驚く光景が。

 毛布で隠していたはずの包丁がむき出してており、驚きのあまりその場から離れる。

 チカチカと点滅している電気、恐怖のあまりドアノブを捻ろうとすると(ぬめ)った感触が伝わると、手が真っ赤な赤で染まっていた。

 「う、うぅ……!」

 恐怖で頭がパンクする中、電気が消灯する。

 電気代は支払っているし、電気も大幅に使用していない所から消灯するとすれば落雷などの自然現象による停電が予想されるも、外は豪雨でも落雷が降っている訳でもない。

 そしてまた――あの感覚。

 深海の様な暗さと重さ、それが伝わると背後から声が聞こえる。

 ――っと。

 そしてゆっくりと振り返ると2つの顔、目は血で流れている男性2人の顔が出現していた。

 「盗人――人殺し」

 意識を失った俺はそれ以前の事については全く分からなかった。

 ただ自分の大切なモノをある場所に置かなければならないと言う言葉に、誕生日プレゼントとして貰った赤いネクタイを“その場”に置き、ゆっくりと階段を上る。

 秋の冷たさを感じる冷気が肌を刺すも、2人に誘われそのまま身体を空に放りなげ、意識を途絶えるのであった。




 後日談――

 「おいおい飲み過ぎだろう~」

 「いや~俺はまだ飲め~る、飲め~る!」

 「アハハ!なんの呪文だよ、キモ!」

 笑いながら2人の男たちは帰路に着いていると、目の前に赤いネクタイが落ちているのを見て驚愕する。

 「おいコレ“エラメス”の高級ブランドのネクタイだぜ!?」

 「マジかよ、めっちゃ高いじゃん!4万はするぜ?」

 「これ売って飲め~る!」

 「だから何だよ、その呪い!マジうけ」

 

 そこには3人の恨み目がましい怨念の目線が2人を見ていた。


 第九怪 死者の落とし物


〇万消失したんで、荷物チェック大切、本当に。

99%見つからないので、気を付けて!でも大阪行った時は心優しい方が届けてくれてありがたかった!

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