表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世歴女な後宮の姫は、こっそり軍師になる~誰からも忘れられた病弱皇女の密かなる献策が、傾国の危機を救うまで~  作者: ヲワ・おわり
第14章:新たなる夜明け

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/53

草原の覇王との対話

 皇宮の奥深く。

 テムジンが一時的に身柄を拘束されている賓客用の牢獄。

 彼は窓の外を眺めながら自らの敗因を静かに反芻していた。

 そこに静かな足音が近づいてくる。

 鉄格子の向こうに現れたのは、質素な宮廷服を纏った玲蘭と、その背後に剣として控える趙子龍の姿だった。


「…貴様が、あの『顔の無い軍師』か。この俺をここまで完璧に打ち破ったのが、このような小娘だったとはな。…笑わせてくれる」

 テムジンは自嘲気味に笑う。

「お久しぶりです草原の覇王。…盤上では大変楽しませていただきましたわ」

 玲蘭は挑発に乗らない。

 二人の間には勝者と敗者というよりも、激闘を終えた好敵手同士のような不思議な緊張感と敬意が流れていた。


「なぜだ。なぜ俺の動きがそこまで正確に読めた? なぜ川を兵器に使うなどという神でも思いつかぬような発想ができた?」

 テムジンは最大の疑問を玲蘭にぶつける。

「…皇女よ。貴様は一体何者なのだ?」


「私は貴方という一人の人間を誰よりも深く『学んだ』だけです」

 玲蘭は静かに答える。

「貴方が書かせたという蒼狼国の『法典』を読みました。貴方が好んで口ずさむという古い『英雄詩』も読みました。貴方がいかにして部族を統一し、何を理想として国を創ろうとしているのか…その全てを私は書物を通して知っていました」


 彼女の強さの根源が地道で徹底的な「情報収集」と「分析」にあることを、その言葉は示していた。

 テムジンはしばし沈黙した後、玲蘭に問うた。

「…ならばなぜ俺を殺さぬ? 生かしておけば必ずやお前の災いとなるぞ」


 玲蘭はそこで初めて彼女が描く壮大な「未来図」をテムジンに提示する。

「殺すのは簡単です。ですがそれでは何も生まれない。貴方が死ねば蒼狼国は内乱に陥り新たな覇王が生まれ、また百年後同じ悲劇が繰り返されるだけでしょう」

「ですから貴方には生きて蒼狼国へ帰っていただきます。そして覇王としてもう一度貴方の民を治めていただく」

「――ただし新しい『ルール』の上で」


 玲蘭は提案した。

 略奪ではなく公正な「交易」によって互いの民を豊かにする道。

 軍馬と技術を「交換」し互いの国力を高め合う道。

 そして国境に巨大な「自由交易都市」を建設し、二度と争いが起きぬよう、経済的な相互依存関係を築く道。


 テムジンは玲蘭の提案を聞き、最初は信じられないといった表情を浮かべる。

 しかし彼はすぐにそれが単なる理想論や甘い温情ではないことに気づいた。

(…これは! 戦争よりも遥かに高度で、そして遥かに狡猾な『支配』の形だ…!)

(経済的な相互依存関係を築くことで互いを決して滅ぼすことのできない必要不可欠な『パートナー』に変えてしまうというのか…!)

 彼は武力でしか物事を考えられなかった自分を恥じた。

 そして目の前の少女が描く壮大な未来図と、その底知れない知略に心からの感服を覚える。


 テムジンは鉄格子の前に進み出ると、初めて玲蘭に向かって深々と頭を下げた。

 それは草原の民が真に認めた相手にしか見せない最大の敬意の表れだった。

「…完敗だ龍の皇女。面白い。実に面白い。貴様のような女帝ハトゥンが創る国ならばその隣人として共に歩むのも悪くない」


 彼は自らの腰に差していた蒼狼国の王の証である美しい装飾の施された短剣を抜き放つと、それを玲蘭に差し出した。

「皇女よ。いや新たなる時代の女王よ。これを受け取れ。これは俺が貴様を対等なそして生涯ただ一人の『盟友(アンダ)』と認めた証だ」


 玲蘭はその短剣を静かに受け取る。

 かつて大陸の存亡を懸けて殺し合った二人の天才。

 彼らの間にはもはや敵意はなく、互いの才能への深い敬意とこれから始まる新しい時代を共に創っていくのだという熱い友情だけが存在していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ