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前世歴女な後宮の姫は、こっそり軍師になる~誰からも忘れられた病弱皇女の密かなる献策が、傾国の危機を救うまで~  作者: ヲワ・おわり
第14章:新たなる夜明け

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凱旋と断罪

 龍涙谷の勝利から十日後。

 首都・黄都は建国以来とも言われるほどの熱狂的な祝祭ムードに包まれていた。

 朱雀大路は英雄たちを一目見ようと集まった民衆で埋め尽くされている。窓からは花びらが舞い、人々は「玲蘭様!」「趙将軍!」と声を枯らして叫んでいた。


 先頭を行くのは白銀の甲冑を纏い白馬に跨る皇女軍師・李玲蘭。

 彼女は民衆の熱狂に穏やかなしかしどこか物憂げな微笑みで応えている。その表情には勝利の驕りではなく、これから始まる国創りの重責への覚悟が滲んでいた。

 その半歩後ろを同じく白馬に乗った大将軍・趙子龍が寡黙に付き従う。彼は民衆の歓声よりもただひたすらに玲蘭の背中だけを見つめていた。


 玲蘭は疲れた体を休める間もなく皇帝代理として戦後最初の朝議を開いた。

 広間は勝者の威光と敗者の怯えによって張り詰めた静寂に支配されている。

 議場の中心には二人の「敗者」が引き据えられていた。

 一人は鎖に繋がれながらも未だ覇者の風格を失わない蒼狼国の王・テムジン。

 もう一人は皇太子の位を剥奪され、ただ震えているだけの哀れな男・李誠。


 玲蘭は玉座の脇に立つと静かに、しかしその場にいる全ての者の心臓を凍らせるような冷徹な声で告げた。

「これより龍涙谷の戦いにおける論功行賞。――及びこの国を内側から食い破ろうとした国賊どもの『断罪』を始めます」


 玲蘭はまず趙子龍を正式に帝国軍の最高位である「大元帥」に任命することを宣言する。

 次に決死の覚悟で「鉄床」の役目を果たした老将軍とその部隊、そしてこの戦いで命を落とした全ての兵士たちに対し破格の褒賞と遺族への手厚い補償を約束した。


 賞賛の空気が終わると玲蘭の表情は一転して絶対零度のものへと変わる。

 彼女の視線は床に這いつくばる兄・李誠へと向けられた。

 王皓月が一歩前に進み出ると、彼らが趙子龍を陥れ国を私物化し、そして蒼狼国と密通して国を売ろうとさえした数々の動かぬ証拠を、満座の前で淡々と読み上げていく。

 議場は怒号と罵声に包まれた。「国賊め!」「万死に値する!」。

 李誠は「嘘だ! 罠だ!」と見苦しく叫び、その母である元皇后はもはや言葉もなくただカタカタと震えている。


 玲蘭は「死罪に!」と叫ぶ声を静かに制した。

「死をもって罪を償わせるのは容易いことです。ですがそれでは彼らが犯した罪の重さを後世に示すことはできない」

「元・第一皇子、李誠。及びその母。両名を皇族の身分から庶民へと貶める」

「そしてその罪を悔い二度と帝都の土を踏めぬよう、彼らを遥か南の辺境の寺院へと永久に追放(流罪)とすることを、ここに宣告する!」


 それは死よりも過酷な生き地獄の判決だった。

 彼らは全ての地位と名誉を奪われ歴史の闇へと生きたまま葬り去られるのだ。

 二人が絶望の叫びを上げながら引きずられていく。

 玲蘭はその姿を一瞥もせずにただ真っ直ぐに前を見つめていた。


(…これで古い時代は完全に終わった)

(ここからが本当の始まり…)


 議場にいる誰もがこの若き皇女こそが、この国を導く新しい「太陽」であることを確信した。

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