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前世歴女な後宮の姫は、こっそり軍師になる~誰からも忘れられた病弱皇女の密かなる献策が、傾国の危機を救うまで~  作者: ヲワ・おわり
第12章:龍の覚醒

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新しい風

 趙子龍が復帰してから数日後。

 帝都の巨大な練兵場はこれまでにない熱気に包まれていた。

 玲蘭が下した勅命により帝国中の主要な部隊が再編成のためにこの場所に集結させられていたのだ。

 玲蘭は軍の全権を趙子龍に委任。子龍は水を得た魚のように精力的に軍の改革に着手した。

 彼の最初の仕事は銀狼平原の悲劇の後、辺境に左遷させられていたかつての部下たちを呼び戻し新しい軍の中核に据えることだった。


 そして彼は帝国を揺るがす「革命」を宣言する。

 これまで貴族の家柄や年齢で決められていた指揮官の地位を全て白紙に戻し、全兵士を対象とした大規模な「昇進試験」を実施するというのだ。

 試験内容は武術の模擬戦、玲蘭が作成した新しい兵法に基づく筆記試験、そして子龍自身による面接。

 この「実力主義」の人事登用は、二百年間続いてきた黄龍帝国の貴族社会の根幹を揺るがすものだった。


 この改革によりこれまで家柄のせいで冷遇されてきた多くの「埋もれた才能」が次々と発掘されていく。

 山岳民族出身でゲリラ戦の天才的な才能を持つ若者。

 商人出身で数字に強く兵站管理の達人である中年男。

 彼らは玲蘭と子龍に心からの忠誠を誓うようになった。


 しかしこの急進的な改革は当然、これまで地位にあぐらをかいてきた貴族出身の老将軍たちの激しい反発を招いた。

 模擬戦で平民出身の若者に完敗させられる。

 筆記試験では新しい兵法の概念が理解できず赤点を取る。

 彼らは自分たちのプライドと既得権益が脅かされることに我慢がならなかったのだ。

 彼らは徒党を組み改革への非協力的な態度を取り始めた。「病」と称して訓練を休んだり裏で「あの皇女は国を滅ぼす気だ」という悪評を流したりする。


 その報告を受けた玲蘭は子龍と共に反発する老将軍たちを自らの天幕に呼び出した。

 玲蘭はまずサボタージュの首謀者であった将軍を全員の前でその職から解任し、一兵卒への降格を命じる。

「軍規を乱す者はたとえどのような家柄の者であろうと私は決して容赦しない。我が軍に必要なのは貴族のプライドではなく国を守るという覚悟だけだ」

 その氷のように冷たい言葉と揺るぎない態度に将軍たちは震え上がった。


 しかし玲蘭は彼らをただ切り捨てるだけではなかった。

 彼女は残りの老将軍たちにこう告げる。

「だが私は貴殿らが長年この国のために尽くしてきたその経験と忠誠を軽んじるつもりはない」

「貴殿らには新しい役職についてもらう。それは若き指揮官たちの『相談役』…軍事顧問団だ。貴殿らの土地勘や兵士たちの気質を知り抜いた経験は、この国の、かけがえのない財産なのだから」


 罰するべきは厳しく罰し、しかし相手のプライドを尊重し新たな役割を与える。

 この巧みな「アメとムチ」の使い分け。それは彼女がただの天才ではなく人の心を理解し動かすことに長けた真の「指導者」であることを証明していた。

 老将軍たちは自分たちの存在を完全に否定されたわけではないと知り、玲蘭のその器の大きさに心から感服し改めて忠誠を誓う。


 こうして帝国軍の中に吹いた「新しい風」は最初の抵抗を乗り越え、軍全体を一つの強固な組織へと生まれ変わらせていった。

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