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前世歴女な後宮の姫は、こっそり軍師になる~誰からも忘れられた病弱皇女の密かなる献策が、傾国の危機を救うまで~  作者: ヲワ・おわり
第12章:龍の覚醒

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朝議の衝撃

 夜明け。

 帝国の最高意思決定機関である「朝議」の広間「太極殿」。

 居並ぶ文武百官たちの間には皇帝が病に倒れ皇太子が謹慎を命じられたという噂が広まり、不穏な空気が漂っている。

 その静寂を破り広間の巨大な扉がゆっくりと開かれた。

 そこに立っていたのは誰もが予想しなかった人物――これまで存在すら忘れられていた第三皇女・李玲蘭だった。


 彼女は病弱な姫が着るようなか弱い衣ではない。軍議を司る者にふさわしい動きやすくしかし威厳のある深青色の礼装を身に纏っている。

 その後ろには影のように大宦官・王皓月が控えていた。

 貴族たちは「なぜあの書庫の姫がここに…?」と囁きあい、武官たちは女子供が神聖な場に現れたことにあからさまな不快感を顔に浮かべる。


 その中で謹慎を破って現れた第一皇子・李誠が玲蘭を指さして怒鳴った。

「無礼者! なぜ其方がここにいる! 衛兵、あの女を捕らえよ!」

 しかし衛兵たちが動くより早く王皓月が一歩前に進み出て、皇帝から託された二つ揃いの「虎符こふ」を静かに玉座の前の卓に置く。


 虎符を見た瞬間、あれほど騒がしかった議場が水を打ったように静まり返った。

 虎符は皇帝の分身。これに逆らうことは皇帝自身への反逆に等しい。

 李誠の言葉は完全にその力を失った。


 玲蘭はその静寂の中でゆっくりと、しかし広間の隅々まで響き渡る声で宣言する。

父帝ちちうえ陛下は病にてご静養に入られた。その勅命によりこれより対蒼狼国戦に関する全指揮権は、この私、李玲蘭が預かる」


 彼女の宣言に議場は蜂の巣をつついたような大騒ぎになる。

 特にプライドの高い老将軍たちが一斉に反発の声を上げた。

「馬鹿な! 小娘一人にこの国の存亡が懸かった戦の指揮が執れると申すか!」

「いかにも! 戦とは書物の上で学ぶものではない! 血と泥に塗れた男の仕事ぞ!」


 玲蘭はその罵詈雑言を冷静に、そして冷徹に一つ一つ打ち返していく。

「ではお尋ねする大将軍。貴殿の言う『男の仕事』とやらはこれまで連戦連敗を重ねてきたではないか。その敗因を具体的に論理立ててこの場で説明できるかな?」

「呉将軍。貴殿が指揮した銀狼平原では我が軍は多大な犠牲を出したと聞く。その犠牲者一人一人の名前と彼らが死なねばならなかった戦術的理由を今この場で全員分(そら)んじてみよ」

「貴殿らがこれまで積み上げてきたのは『経験』ではない。ただの『敗北の歴史』に過ぎぬ! その現実からいつまで目を背けるつもりだ!」


 彼女の言葉は正論であり事実であり、そして何よりも痛烈な「刃」だった。

 これまで家柄と年功序列の上にあぐらをかいてきた将軍たちは、玲蘭のあまりにも的確で反論のしようのない言葉の前にぐうの音も出ず、顔を赤くして黙り込むしかない。


 議場が完全な沈黙に支配される。

 玲蘭はその光景を見渡し最後通告を突きつけた。

「これより我が軍議を始める」

「異論のある者は私を超える策を持って私を論破してみせよ」

「できぬのならば私の命令に黙って従え」

「これは貴殿らの自尊心を守るための遊びではない。この国に生きる全ての民の命を懸けた最後の戦なのだ!」


 その国を背負う者の圧倒的な覚悟と気迫に、もはや誰一人として反論する者はいなかった。

 玲蘭はたった一人で言葉だけを武器に、この国の最も旧く最も腐敗した権力の巣窟を完全に掌握したのだ。

 彼女は満足げに頷くと、彼女の「皇女軍師」としての最初の、そして最も重要な命令を高らかに下す。


「――まず天牢へ使いを送れ! 反逆者・趙子龍を即刻、釈放せよ!!」

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